記事一覧
7. 同時代性が喪われたあとに残るもの
同時代性の持つ共感の羽衣が剥ぎ取られたとき、そこに残るのは冷徹な事実だけである。時を経て歴史に審判が下されるとき、我々に出来るのは残された事実と厳粛に向かい合うことだけだろう。例えばイギリス首相であったネヴィル・チェンバレン氏は、ミュンヘン会談当時、宥和政策により戦争を回避したことで称賛された。だが現代においては、宥和政策自体が第二次世界大戦の要因と考えられるようになった。その後、イギリス首相を
もっとみる6. 境界線と距離とグローバリズム
米中対立の時代、その激しい波に世界が巻き込まれている。特に香港は一国二制度の廃止、そして引き続き中国の直接的な介入に伴う混乱など、その爆心地として翻弄される運命にある。もちろんその最前線では、いまだ旧来の香港の価値観を守ろうと躍起する人々がいて、8月初頭の今日も、そこかしこで政府と人々のせめぎ合いが起きているに違いない。尤も、いまや中国国外の民主活動家にまで国家安全法が適応されるようになり、しか
もっとみる5. 比喩から推論へ
人間は自然から文化・知性へと移行する際に、どのようなトリックを要したのだろうか。クロード・レヴィ=ストロース氏は『今日のトーテミスム』(みすず書房)の中で、ジャン=ジャック・ルソー氏の記した「言語の歩み」に関する記述:
人をして話さしめた最初の動機は情念であったため、人間の最初の表現は比喩であった。比喩的言語がまず誕生し、本義は最後に見つけられた。(中略)初めは、人は詩のみで語った。推論する
4. Go to キャンペーンの波間において
第一波において外出を控えるように勧告が出ていた頃は、飲食店がむしろ自主的に休業されていた。そのせいか都道府県間の往来が解除され、徐々に街中のお店に明かりが戻ってきても、一時期は外食すること自体、なにかしら後ろめたさを覚えるほどだった。
とはいえ、今や東京では連日200-300人を超える陽性者が検出されるようになり、正直すでに第一波を上回る勢いでCOVID-19が猛威を振るっている。その他地域
3. マスクとマクロ構造的状況の変化
トランプ大統領が公の場でマスクをする:たったそれだけのことが事件として扱われるなんて、因果な世の中に生きているものだ。ほんの数か月前まで大半のマスクは、風邪なり花粉症なりといった健康を害する疾患を抱えていることを意味していた。たとえ医療関係者や一部の清潔観念が強い人のみが、予防的に着用することはあったとしても。
今やマスクは健康を守るための障壁であり、それをしていないことがむしろ周囲の健康を
2. 危機における政治家
この文章を書いている7月中旬といえば、本来ならば祇園祭。八坂神社とその界隈が活況を呈する頃合いのはずだった。最大の見せ場である山矛巡行が無くなるなど、行事が縮小されざるを得なかったのは致し方ないだろう。それでも一部神事がしめやかに行われる運びとなり、伝統が受け継がれていく道筋が途絶えずに済んでなによりだ。
祇園祭の由来に関しては、「梅原日本学」で名高い梅原猛氏が『京都発見 🈔路地遊行』(新
1. COVID-19:第二波が高まる最中に
COVID-19の第一波が来たとき、社会は「Point of no return」を越え、今やそれ以前の社会には戻れないのではないか、と思ったものだった。しかしつかの間の緩和期のせいだろうか、喉元過ぎれば熱さを忘れるとはよく言ったものだ。結局この7月には第二波が成立し、今や東京での感染者は連日200人越えをたたき出しているにも拘わらず、人々は舞い戻ったCOVID-19以前の社会行動を完全には断ち
もっとみる