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治川の詩集

37
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記事一覧

曙光

曙光

死にたい理由を見つけるのは簡単なのに
生きたい理由はなかなか見つからない

だけど人は生きろと言う
死んでもいいと言う人はいない

死にたい理由は積もっていくのに
生きたい理由は消えていく

それはまるで
雲のように 
水のように 
粉雪のように
掴みどころがなく

すぐにこの手から離れていく

生きたい夜と 死にたい朝
その数が多いのは きっと後者だろう

だけど私はもう少しだけ
生きてみたいと

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神様なんかじゃないから

神様なんかじゃないから

君は今までずっと
自分のことなんか放っておいて
いつも他人のことを気にしていたよね

周りの人は口揃えて
あの子はとても優しい子だって言うけど
それが本当の優しさなのか
僕にはわからない

ある時 君は疲れ切った顔で僕にいったんだ
私は自分が分かんないよ 私って何なのかな

僕は神様なんかじゃないから
君を救ってあげられないけど
僕は神様なんかじゃないから
君の苦しみは少し分かるよ

泣いたり

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二十三の雛祭り

二十三の雛祭りに はじめて自分の人形を買った
三月三日は女の子の日だから
お祝いしないといけないし
言い訳重ねて 選んで買った
無表情なお雛様もどこか笑って見えた

眩しい灯りと 桃の花
似つかわしくないこの体
誰にも認められなくたって
今日だけは 女の子だから

二十三の雛祭りに はじめて自分が自分になれた
三月三日は女の子の日だから
甘酒だって美味しくなったし
指折数えて 虚しくなった
愛す

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蕾

やがて春が来る
僕たちの希望を乗せて
凍てついた夜を溶かす

明日を恐れ逃げ出した
変わることが怖くなって

ふと見上げた桜の木の先
誰かに似た小さな蕾
君はまだ待っているのだろうか
来るはずもない春を

手を伸ばせども届かない
諦めた方が楽なのに
だけど君は待ち続ける
花が咲くその時まで ずっと

蕾 眩しくて
僕の心まで溶かす光
蕾 叱ってくれ
弱い心を慰める 小さな光

優しい陽射しに

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猫になりたい

猫になりたい

生まれ変わったら猫になりたい
どこ行くあてもなく
暖かいお日様の下をのんびり歩きたい

美味しいご飯を食べて 大きく伸びをしたら
時間を気にせずにウトウト微睡みたい

生まれ変わったら猫になりたい
高いところに登って街を見下ろしたい

草陰に隠れて人間界を穿って
忙しなく動く波の横を素知らぬ顔で歩きたい

生まれ変わったら猫になりたい
人間は長く生きすぎる 
飽きてしまう前に此の世を去りたい

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メロウ

メロウ

夢を見ていたのだ
   永く永く酷く永い 
       憂鬱な夢を

冷めた身体に滴る汗が
   その余韻を残していた

夢を見ていたのだ
   ぐるぐると目が回る 
       果てしない夢を

還れないと悟った 
   あの夕暮れが

迫って眩んで 弾け飛んだ 

糸くずを撒き散らした、牡丹の花
恥じらいを隠した、君の顔

アイとかユウの隙間を何と呼ぶんだ
セイとかシの狭間を何と呼ぶんだ

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先生

先生 この世は不平等で
正しいことしていても
忌み嫌われたりもするけれど

先生 僕は信じるよ
大切なことは一つだけ
難しいけれど

アレな少女になっちゃって
退学になったあの子だって
心の何処かではきっと
助けを求めてたんじゃないか

先生 息をすることは
こんなにも大変だったの
一人 隠し事しながら
笑ってた貴方を 僕らは見殺した

先生 あの世は皆平等で
善も悪もなくて僕らを見守ってる

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自己嫌悪の時間

自己嫌悪の時間

自己嫌悪に陥った僕に
自己嫌悪から手紙が届いた

『自己嫌悪ってどんな意味なの
自己嫌悪って誰のことなの』

自己嫌悪に陥った僕は
自己嫌悪に手紙を書いた

「自己嫌悪って言葉の通り
自己嫌悪って意味なんだよ」

あーあ
今日も僕は理想と現実に挟まれて
いくつもの夢を諦めてしまったんだよ

遠くに行ってしまった声が
もう 聞こえないように
遠くに行ってしまった過去へは
もう 戻れないんだよ

自己

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黒と白

黒と白

黒猫が前を横切ると
不幸が訪れるという迷信がある

一方で白猫は
福を招くと言われるらしい

じゃあ黒と白の入り混じる
この猫ちゃんはどうなのか

上から見ると黒猫で
下から見ると白猫だ

見方によって黒にも白にもなるのは
人間のようで愛らしい

黒にも白にも成れるのだから
不自由ではないはずだ

猫じゃらしに飛びつく手は
指の先だけちょっと白い

白黒つける必要あるの?と
教え諭しているようだ

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サンサーラ

サンサーラ

眠れない夜 ノートに向かって考える
これまでのことと これからのこと

古い記憶を取り出して
懐かしさに 浸る 浸る

そこにいる君を呼び寄せて
尋ねるんだ

生まれ変わったら何になりたい?

光は一つで十分だ 時計を見つめて考える
変わったことと 変わらないこと

そびえ立つビルを見上げながら
懐かしさに 浸る 浸る

そこにいた君を手招きして
尋ねるんだ

生まれ変わったら何になりたい?

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ただいま

ただいま

私の故郷は汚い街だ
改札抜ければ 
居酒屋 パチンコ 風俗店
金と欲に塗れた街だ

私の故郷は汚い街だ
平日の朝は吐瀉物まみれ
転がった空き缶に タバコの吸い殻

でもそれが
私の生まれ育った街だ

都会に行けば綺麗な街
塵ひとつ落ちてやしない

造られた草木に 造られた平穏

臭いものには蓋をするのか
汚いものは排除するのか

とても安全で とても苦しい
とても平和で とても不気味だ

電車のア

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透命人間

透命人間

黒い服着て街を歩いて
   影に隠れて光を覗いた
眩しすぎる此の先の道は
   白く染まって何も見えない

石につまずき心は散った
   ひらりひらりと彷徨う体
取り戻したく手を伸ばすけれど
   嘲笑いながら飛んでった

ひゅるる
   ひゅる
     ひゅるりら
ひゅるる
   ひゅる
     ひゅるりら

白いシャツ着てビルを見上げて
   時計眺めて其の刻を待った

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深夜一時

深夜一時

どれが本当の私か
なんて分からぬまま 大人になって
これが本当の私だ
なんて言い切れぬまま 今に至る

ずっと考えてきたことなんて
いつかは解決するなんて
悩んできたもんバカみたいに
わかったもんなんかありゃしません

深夜一時 街は寝静まって
夜更けと夜明けの狭間
何かに怯えて 空を睨む

どれが本当の姿か
なんて分からぬまま 大人になって
これが本当の姿だ
なんて言い切れぬまま この先も

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うごの世

雨上がりの木々の雫が
揺れて落ちて メガネを濡らす

木漏れ日はまだ夏の余韻を残して
肌を刺すように
それでいて柔らかい 白露の光

誰もいない 平日の昼間
草木と 風と 私だけの時間

雨上がりの木々の雫が
揺れて落ちて メガネを濡らす

雫が視界を歪ませて 目隠しをする
現世が見えないように 

この夢路から醒めないように