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生まれつきの気質や親からの育てられ方が両親でかけ離れている場合、子供は自分の親からのちぐはぐな影響の受け方をどう自分で噛み砕くべきなのか

(こちらの記事の続きとなります)

俺は親から何も押し付けられずに、一方的なことも何もされずに育ったのだと思う。

俺は全く反抗期がなかったけれど、それは親がいつでもその時点の俺に合わせた接し方をしてくれていて、自分の扱われ方が窮屈だったり不快だったりすることがなかったからなのだと思う。

君のお母さんがそこまで何も押し付けないように気を付けた接し方をするなんてことはありえないのだろう。

子供からいかにも母親が大好きな子供っぽく反応してもらいたいのだろうし、いかにも子供が大好きな母親っぽく子供に接しようとするのだろう。

みんなが楽しんでいる子育て生活を自分も楽しみたいというモチベーションで、せっせと今どきの育て方をして、いいお母さんをやってあげようとするのだろうから、どうしたってそうなるのだろう。

君にとっては、普通にお母さんからたくさんかわいがってもらいながら育ててもらったということになるのだろうけれど、君にとってはそれが普通だとしても、実際のところは、君は生まれてからずっと、君のお母さんのいいお母さんノリにひたすら付き合わされていたということになるんだ。

君がどういう気分だからというのを見守りながら声をかけてくれるわけでもなく、できるかぎり何も誘導しないように、君が何をしたいと思うのを待ってあげようとするわけでもなく、君のお母さんはどんどんしてあげたら喜んでくれそうなことを君にしてきたのだろう。

君のお母さんは、君のことを見てくれていて、君を喜ばせたいとは思っていても、自分が何をしたいと思いついたところを起点にしか君に何かをしてくれない。

君は生まれてからずっと、そんなふうに自分のペースでかわいがろうとするひとの行動パターンに付き合わされることになってしまったのだし、君の生きていることの基本が、いいリアクションを引き出せるようにパターンにうまく合わせて行動するということになってしまっているのだ。

君の場合、感情の行き来としては、生まれてからずっとお母さんと過ごしてきたというより、君のお母さんのパターンと過ごしてきたという方が、より実際に近かったりはするんだ。

君がお母さんのことを知らないというのはそういう意味で、そして、君が君のお母さんのことを知らないように、君自身も、君のお母さんのいい母親ノリに付き合い続けたことで、君のお母さんの行動パターンに合わせたときに自分がどんなふうに行動するのかは知っていても、自分の気持ちに寄り添ってくれるひとの前で気持ちのままに振る舞ったときに、自分がどんなことをしようとするのか、自分でよくわかっていないひとになってしまっていたのだと思う。

それが自分らしさを奪われているということなのだというのがわかるだろうか。

だからといって、これを読んでいる君は、もうそれなりに自分らしさを自分に感じながら生活している状態なのだと思う。

俺はその自分らしさを偽物の自分らしさだと言いたいわけではないんだ。

ただ、君が最初に人間に慣れていくときに、どういう人間に慣れることで人間に慣れていったのかというのがあって、それは俺が自分の母親を通して人間に慣れたのとは全く別の影響を君に残しているはずだから、それがどういうものなのか、自分で考えてみた方がいいということなんだ。

この手紙のようなものを読んで、君のお母さんの心の動き方のようなものが、どういうものなのかぼんやりとはイメージできるようになったんじゃないかと思う。

君は君のお母さんと心の動き方が違いすぎるから、いろんなことを振り返って、自分の母親を普通だと思って世の中を見てしまっていたところがあったなら、それは改めるべきだし、自分の中で母親の行動パターンに適応することで身に付けてしまった行動パターンがあるように思ったら、その癖とか習慣が君自身を幸せにするようなものなのか、ちょっと立ち止まって考えてみるといいのだと思う。

君は自分のお母さんとの日々から、人間はあまりにも根深いところからばらばらなんだということを実感することができる。

これを読んだ人生の早い段階からそう思った状態で世界を知っていくことができる。

それはいいことでもあるのだと思う。

君は自分がお母さんと接してきてたっぷりと体感した、得体のしれない気持ちの伝わらなさみたいなものが、だんだん世界の中で濃度を上げていっているんだなと思いながら、世の中のいろんな変化を眺めていればいい。

そして、そういう世の中で、君が自分の感情を自分で生きながら、自分の感じ方を楽しみながら生きているひとたちから自分を面白いところのあるやつだと思ってもらえるようになっていくために、みんながそうしているからといって、どういうものには馴染んでしまわない方がいいということに気が付いていってくれればと思う。


(終わり)


「息子君へ」からの抜粋となります。


息子への手紙形式で、もし一緒に息子と暮らせたのなら、どんなことを一緒に話せたりしたらよかったのだろうと思いながら書いたものです。

(全話リンク)


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