正田幸大

正田幸大(しょうだ・ゆきひろ) 1980年兵庫県神戸市生まれ。

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正田幸大(しょうだ・ゆきひろ) 1980年兵庫県神戸市生まれ。

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  • 息子君へ

    息子君へ 遅れてしまったけれど、一歳の誕生日おめでとう。 俺は君のお父さんだよ。けれど、そういう言い方をすると、もしかすると、今俺が語りかけている君は存在しない人間になってしまう可能性もあるし、よくないのかもしれない。もっと確実な言い方をしておくなら、俺は君が母さんのお腹の中で受精した頃から君が生まれて出てくる頃まで君のお母さんと不倫していた男だよ。(本文抜粋)

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【連載小説】息子君へ 202 (41 俺が結婚するためには不自然なことをする必要があった-5)

 もしかすると、そうやって憎しみを抱え込もうとしなかったことで、付き合っていたひとたちとの関係が行き詰まっていったというのもあったのかもしれない。何かが噛み合わないときに、そこには素直に腹を立てておいた方がよかったりする場合も多いのだろう。  俺は噛み合わないところがあると、多少は粘って伝えたいことを伝えようとはするけれど、ある程度でそっとしておく感じに流して、次からはそこを迂回して関わるようにすることが多かったのだと思う。腹を立てはしないけれど、心の中では、このひとと自分で

    • 【連載小説】息子君へ 201 (41 俺が結婚するためには不自然なことをする必要があった-4)

       愛するためには、自分は充分に愛されていないという欠乏感が必要で、そうでなければ、ブリーダーが子犬を育てるような愛情しか持てないということなのかもしれない。充分に愛しているかもしれないし、いくらでもお世話をしてあげられるけれど、かといって、子犬が幸せになってくれればいいとしか思っていなくなって、いいひとにもらわれていったなら、別に自分のところからいなくなってしまうことにはさほど何を思うわけでもないような、そういう愛情で俺は恋人に向き合っていたのかもしれない。  隣人愛とはそう

      • 【連載小説】息子君へ 200 (41 俺が結婚するためには不自然なことをする必要があった-3)

         俺と付き合ったひとたちは、俺のことを特別な相手だと思ってくれていたけれど、それは他のひとたちが興味を持ってくれないところまで自分に興味を持ってくれるし、他のひとたちよりも、自分がどういうひとなのかとか、自分の感じ方や考え方を面白がってくれていたからなのだと思う。 多くのひとが、自分はみんなから軽視されていると思いながら生きているのだろう。付き合ったひとたちにしても、親から軽視され、友達から軽視され、教師から軽視され、昔の彼氏からも軽視されてきたのだ。自分はそれなりに面白い人

        • 【連載小説】息子君へ 199 (41 俺が結婚するためには不自然なことをする必要があった-2)

           もしかすると、君はおかしいと思っているのかもしれない。俺がそんなふうに、ただ動物と動物としてくっつき合っていることの心地よさだけがあればそれだけでいいと思うのなら、そういう相手と一緒になればよかったじゃないかと思うのかもしれない。頭でごちゃごちゃ考えるのがわずらわしいのなら、そういうことを持ち込めない相手のもとに毎日帰ってきて、何も思っていないまま、ただどうでもいいことを話して、なんとなく物足りなくなるたびに相手を腕の中に入れて、何を思いたいわけでもないという自分の気持ちに

        【連載小説】息子君へ 202 (41 俺が結婚するためには不自然なことをする必要があった-5)

        • 【連載小説】息子君へ 201 (41 俺が結婚するためには不自然なことをする必要があった-4)

        • 【連載小説】息子君へ 200 (41 俺が結婚するためには不自然なことをする必要があった-3)

        • 【連載小説】息子君へ 199 (41 俺が結婚するためには不自然なことをする必要があった-2)

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          【連載小説】息子君へ 198 (41 俺が結婚するためには不自然なことをする必要があった-1)

          41 俺が結婚するためには不自然なことをする必要があった 勘違いさせてしまっているかもしれないけれど、俺は長いことセックスフレンドだったひととの関係を特別に素晴らしいものだったと思っているわけではないんだよ。  今のそのひとのことを思い浮かべようとして最初に浮かんでくるのは、ちゃんとセックスしてくれないときに感じていたうんざりした感覚だったりもする。もう十数年以上、そのひとに何か思うとすれば、まずはとにかくもうちょっとちゃんとセックスしようとしてほしいということだったのだ。そ

          【連載小説】息子君へ 198 (41 俺が結婚するためには不自然なことをする必要があった-1)

          【連載小説】息子君へ 197 (40 俺は嘘をつきたくなかっただけだった-7)

           自分の中で恋愛とセックスが分離していることで、自分の何かが歪んでしまったとは思っていないのだ。ただ、恋人という特別な相手として密接な関係を継続していくうちに、蓄積してくるわだかまりのようなものを感じていたし、それが恋人とのセックスを曖昧にぼやけたものにしてしまうようには思っていた。そして、そういう関係性のわだかまりの外側でセックスしているときに、セックスとはこういうものだったなと思って、恋愛によってセックスがぼやけさせられてしまうことに不愉快なものを感じてはいた。セックスと

          【連載小説】息子君へ 197 (40 俺は嘘をつきたくなかっただけだった-7)

          【連載小説】息子君へ 196 (40 俺は嘘をつきたくなかっただけだった-6)

           どうしたら恋人を人生のパートナーだと思えるようになっていけたのだろうと思う。けれど、それ以前のところとして、どうして俺はそんなにも他人は他人だと思ってきたのだろう。仲間のことも仲間だと思う以上に他人だと思っていたと思うけれど、それと同じように、恋人のことも、恋人である以上に他人だと思っていた。  いい加減に扱うのではなく、他者として相手の今の気持ちをちゃんと確かめながら接したいとは思っていたのだろう。けれど、身内だという感覚が希薄だったから、自分のことに干渉されるのにもうん

          【連載小説】息子君へ 196 (40 俺は嘘をつきたくなかっただけだった-6)

          【連載小説】息子君へ 195 (40 俺は嘘をつきたくなかっただけだった-5)

           けれど、俺がそのつど、ずっと一緒にいたくはないと思っていたのは、俺が自分の気持ちばかりを感じていたせいなのだろうか。俺はどのひとに対しても、一緒にいたくないなんて思っていなかったように思う。ただ、ずっと一緒にいたいと思っているわけではなかっただけで、むしろ、ずっと一緒にいたいと思っているわけではないということは、一緒にいたくないということなのだろうと、消去法的に自分が相手を拒否する側であることを受け入れていたというのが実際のところだったようにも思う。もしかすると、俺はずっと

          【連載小説】息子君へ 195 (40 俺は嘘をつきたくなかっただけだった-5)

          【連載小説】息子君へ 194 (40 俺は嘘をつきたくなかっただけだった-4)

           けれど、どうして俺はこんなにも嘘が嫌いになってしまったんだろうかと思う。確かに、親からは、嘘をつくなということだけを唯一怒られて育てられたような感じではあった。そのせいで、嘘さえつかなければそれでいいというような人生観になったのかもしれない。けれど、俺はいつだって全く嘘をついていなかったわけでもないし、嘘をついてもさほど後ろめたかったことがなかった。自分のルールとして嘘をつかないことを神経質に守ろうとしているような感じではなかった。  それでも、明らかに俺は気軽に嘘をつくタ

          【連載小説】息子君へ 194 (40 俺は嘘をつきたくなかっただけだった-4)

          【連載小説】息子君へ 193 (40 俺は嘘をつきたくなかっただけだった-3)

           俺が自分の実家を退屈なものに思って、さっさと家を出るつもりになったとか、自分が将来結婚するとしても、両親のような関係になるような相手とは一緒になりたくないと思っていたというのがどういうことなのかわかっただろう。  そして、俺はちゃんとそう思っていた通りにやってきたのだ。実家を出てからは、一人暮らしするはずだったのに大学の学生寮に入れと言われて、不満たらたらで学生寮に入ったりはしたけれど、学生寮もいろんなひとがいて、何か面白いことをしようとしていたり、いつでも面白いことを言お

          【連載小説】息子君へ 193 (40 俺は嘘をつきたくなかっただけだった-3)

          【連載小説】息子君へ 192 (40 俺は嘘をつきたくなかっただけだった-2)

           ずっと一緒にいることを要求されることは、そういう愛され方を受け入れることを要求されることのように俺には感じられていた。俺にとっての今この瞬間の俺ではなく、そのひとにとっての俺とか、俺とそのひとの関係をそのひとが愛している姿を見て、自分が愛されていると感じて、それを喜ぶようにならなければ、その愛を受け入れたことにならないのかと思って、そんな愛され方にこれからずっと付き合い続けたいんだろうかと、俺はうんざりしていたのだと思う。  相手の方は、関係が深まったから、このままずっと一

          【連載小説】息子君へ 192 (40 俺は嘘をつきたくなかっただけだった-2)

          【連載小説】息子君へ 191 (40 俺は嘘をつきたくなかっただけだった-1)

          40 俺は嘘をつきたくなかっただけだった ここまで読んできて、俺がどうして誰かと一緒になることを選ばないままになったのかわかっただろうと思う。  俺は女のひとたちと関わるようになって以降、概ねずっと、近くにいたひとと自然と仲良くなって、自然と関係が深まっていって、そのひとからずっと一緒にいたいと思ってもらえる人間としてやってこれた。だから、君は自分が結婚すらできなかった男の息子なのだと悲観することなんてないんだよ。  もちろん、結婚できるチャンスが何度もあっても、自分の中で考

          【連載小説】息子君へ 191 (40 俺は嘘をつきたくなかっただけだった-1)

          【連載小説】息子君へ 190 (39 どうしたらずっと一緒にいたいと思えたのだろう-4)

           そういえば、そのときはそう言うのが妥当だろうと思ったし、君のお父さんになれるのならそれでいいからと思っていたから、俺は君のお母さんが妊娠して、血液型も大丈夫だから生むと言ったのに対して、俺はお腹の子が自分の子だと思っているし、もしお腹の子が俺のであることで、困ったことになったときは、俺がどうにかしてあげるつもりでいるからね、というようなことを言った。そのときはそう思っていなかったけれど、それは離婚された場合には結婚しようというプロポーズだったのだろう。はっきり覚えていないけ

          【連載小説】息子君へ 190 (39 どうしたらずっと一緒にいたいと思えたのだろう-4)

          【連載小説】息子君へ 189 (39 どうしたらずっと一緒にいたいと思えたのだろう-3)

           ひとに依存できない弱さというのがあって、俺はそういう意味では弱い人間なのだろう。  そこにいることが楽しくなくなったり、嫌になっていても、自分はそのうちここからいなくなるのだし、それまで我慢していればいいと思ってきた。そして、実際、仲間とも、恋人とも、職場でも、もういいやと思ったら、もうしばらく耐えて、よさそうなタイミングでそこから離れていた。  小さいときからずっと、自分はそのうちここからいなくなるという気持ちでひとと一緒にいたり、集団内で活動していたから、誰かとずっと一

          【連載小説】息子君へ 189 (39 どうしたらずっと一緒にいたいと思えたのだろう-3)

          【連載小説】息子君へ 188 (39 どうしたらずっと一緒にいたいと思えたのだろう-2)

           どうしたところで、男には男の感情の動き方というのがあるのだ。例えば、相手を自分のものだと思って、誰にも触らせたくない、他のひとから守りたいという気持ちにさせるホルモンがあるようで、それは射精によって分泌されるものだったりするらしい。男の自分のパートナーへの嫉妬が攻撃的な独占欲として現れるのも、ホルモンによってそういう方向性の衝動が働いてしまうからということらしい。相手を自分のものとして守ろうとするし、それに近付いてこようとする相手がいたらそれを撃退しようとするような、縄張り

          【連載小説】息子君へ 188 (39 どうしたらずっと一緒にいたいと思えたのだろう-2)

          【連載小説】息子君へ 187 (39 どうしたらずっと一緒にいたいと思えたのだろう-1)

          39 どうしたらずっと一緒にいたいと思えたのだろう どうして俺は誰にもずっと一緒にいたいと思えなかったんだろうと思う。  ずっと一緒にいたいというのは、自分の人生を、そのひととずっと一緒にいる人生に変えたいということなのだろう。そうだとして、ずっと一緒にいたいということは、恋愛がうまくいっていれば、そのうちそう思うようなことなのだろうか。俺からすると、それは恋愛とは関係がない思いというか、恋愛の延長線上にあるような気持ちではないように思ってしまう。  時代を遡れば、結婚相手と

          【連載小説】息子君へ 187 (39 どうしたらずっと一緒にいたいと思えたのだろう-1)