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11月23日 留萌駅(北海道)~最後の開業記念日~

11月22日夜、私は7年ぶりに留萌駅に降り立ち、冬の訪れを感じさせる冷たい風を受けながら、町を歩いていた。駅前はもう夜になるとひっそりと静まり人の気配はなかったが、町中には祝日前のどこかのんびりとした空気と人の流れがあった。

翌11月23日 留萌駅の開業記念日である。私は朝8時に留萌駅へと足を踏み入れた。まだ改札と窓口には人がおらず静かだが、湯気もうもうと立ち込める待合室のそばスタンドには、始発列車でやってきた旅人たちが名物「にしんそば」を求めて活気づいていた。

窓口にきっぷを求める列が長くなり、5分早い8時40分、若い男性駅員さんの挨拶とともに駅が動き始めた。やはり人がいるといないでは駅の表情が違うと思う。私は列の一番に並んでいたので、最初のきっぷを買うことができた。私が日にちを合わせて駅に来たことを伝えると、「すごいですね。思い出をたくさん作ってくださいね、ありがとうございます」と情感にあふれたやり取りが心に響く。

15分後の8時55分、ホームに1両の列車が入ってきた。別れを惜しむ旅人で40人ほどはいただろうか。一気に賑わいを増した駅では、この日のために作成された「留萌本線開業記念乗車証明書」が駅員総出で一人ひとりに手渡されていた。また写真展や記念撮影スペースも設置され、駅に花を添えていた。

私はその列車に乗ってきた東京の知人2人出会い、待合室でしばし駅に対する熱い想いを談笑をしていると、テレビ局のインタビューを受けることになった。翌日のニュースには、私の冴えない顔と言葉はなかなか響く映像が流れ、恥ずかしながらも良い思い出になった。

旅の終わりに、知人のレンタカーに乗せてもらい、市街地を抜けて日本海沿いの道を進む。道の横には草むした細長い空き地が続いている。これが、かつて留萌から先へと延びていた留萌本線のレールの跡である。やがて民家の庭ではないかと思うほど小さな空き地に車は止まった。空き地の先には今にも崩れそうな物置小屋があるが、見覚えがある。ここは旧礼受駅があった場所で、物置小屋に見えたのは待合室で、ホームは崩されて跡形もないが、待合室だけはかろうじて残っていた。
高台の駅跡からは、青々とした日本海が一望できる。秋の穏やかな海もこれが最後で、これからは雪深い厳しい海の表情がやってくる。私は何を考えるでもなく、ただしばらく海に見とれていた。

これで留萌から鉄道網は全て消えることになる。地域社会の要としての役割をすでに終え、赤字経営を膨らませていく留萌線を残すことは現実的ではなく、また厳しく致し方ないと私も思う。しかし、心情的にはやはり寂しい。私だけではないはずである。そんな人々の思い出の中に留萌線はこれからも生き続けてほしいと思う。

留萌駅(るもい)-明治43年11月23日開業 開業112年

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