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小説メインでたまに新書、いずれ漫画も。
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極限推理コロシアム / 矢野龍王 | どストレートなタイトルのデスゲーム

極限推理コロシアム / 矢野龍王 | どストレートなタイトルのデスゲーム

第30回メフィスト賞受賞作。
メフィスト賞はなんというか、自分の好みに合ってるんで、気に入っている小説にメフィスト賞受賞作は多い。そのうち全作読みたいと思ってるくらい。

そしてこの本。まずタイトルがいい。
極限推理コロシアムって…マジで直球ストレートすぎて、最高。
読み終わってみると、たしかにそんな話だけど、ちょっとした恋愛要素もあって、「極限推理」というほどではないかも…いや、まぁ生き死にはか

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『同志少女よ敵を撃て』/ 逢坂冬馬 | 狙撃兵になったロシアの少女

『同志少女よ敵を撃て』/ 逢坂冬馬 | 狙撃兵になったロシアの少女

2022年本屋大賞受賞作。知ったきっかけは、バキ童ことぐんぴぃのnoteで、何年か前のベスト10に入ってたんで、なんとなく気になってた。戦争ものっぽいけど、本屋大賞受賞作だからあんまりシリアスな感じじゃないかと思ってたけど、思ったよりシリアスだった…

舞台はドイツと戦争中のロシア。家族や村を焼かれた女の子セラフィナが狙撃兵になる話。

ドイツ兵に村を襲われ、セラフィマは狙撃兵に母親を撃たれて殺さ

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『想像ラジオ』/ いとうせいこう | 死者と生者をつなぐもの

『想像ラジオ』/ いとうせいこう | 死者と生者をつなぐもの

『いとうせいこう』のイメージは、子どもたちにとってはNHKの教育番組に出てる人で、自分にとっては日本語ラップ黎明期のラッパー。

『東京ブロンクス』はクラシックだよな〜、みたいなイメージ。久しぶりに聴いたけどやっぱいい曲。センスがいいんだろうな…今でも古びない。ただ、小説となるとどうだろう…という勝手な心配はあった。

とりあえず結論から言うと、素晴らしい小説だった。ただ、同じ東日本大震災を題材に

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『あの子が考えることは変』 / 本谷有希子 | 邪悪な同居生活会話劇

『あの子が考えることは変』 / 本谷有希子 | 邪悪な同居生活会話劇

いやー変な本!

話の内容うんぬんより、設定だけで常人には思いつかないパーツの組み合わせだな〜と思ってたら劇作家だということを思い出して、すげーと思いながら読んでた。

一言で言うと、いわゆるイタい女2人のワイワイ生活本。そのうちの1人の変な部分として、自分が臭いと思ってることがけっこうあらすじとか帯とかでアピールされてるけど、うーん、そこはあんまりメインじゃない気がする。

この本ですごいと思っ

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『そして生活はつづく』 / 星野源 | どんなスターにも生活がある

『そして生活はつづく』 / 星野源 | どんなスターにも生活がある

星野源のことはまず歌手として好きだ。
POP VURISは超名盤だと思うし、素晴らしい曲を作る人だと思う。

そんな星野源の初エッセイ集。今じゃドームツアーをしてる星野源がまだ庶民的な生活をしていた時代の話を知ることができる。単身赴任のお父さんが住むようなマンションに住んでおり、乾燥機を使いに共有スペースに行ったら、大量の女性用下着が入っていてあせったり、皿洗いがめんどくさいと言いつつ、生活自体が

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『私がオバさんになったよ』 / ジェーン・スー |誰かの話は心に刺さる対談集

『私がオバさんになったよ』 / ジェーン・スー |誰かの話は心に刺さる対談集

いいタイトルの本。
オバさんでなくても刺さる話がどこかにある。
昔からジェーン・スーは頭が良くてフェアな人と思ってる。相手の話の要点を掴んで、膝を打つような返しをする。ワードセンスもあって、秀逸な例えをする。そんなジェーン・スーの対談集なら、そりゃ面白い。

対談相手の人選もいい。光浦靖子に山内マリコや海野つなみ、宇多丸ときて、最後は能町みね子。
女性が多いので、ジェンダー論、フェミニズムの話にな

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『わたしを離さないで 』/ カズオ・イシグロ | 冬の曇った日に見るの海沿いの木

『わたしを離さないで 』/ カズオ・イシグロ | 冬の曇った日に見るの海沿いの木

読み終わった後に、いろんなイメージが残る本。昔観た映画のイギリスの曇り空とか、観光地じゃない海沿いの景色とか、雨上がりのグラウンドの水が残ってる地面とか…
ずっと忘れてた、自分の心の中にある寂しい景色がフラッシュバックして、明るい気持ちにはなれないけど、それでも少し心が温まるような本。

ネタバレが嫌な人は以下を読まない方がいいかも・・・
ストーリーは設定だけ抜き出すと、ファンタジー、というかSF

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『自由をつくる自由に生きる』/ 森博嗣 | 自由と支配に対する考え方…

『自由をつくる自由に生きる』/ 森博嗣 | 自由と支配に対する考え方…

『すべてがFになる』『スカイ・クロラ』などが有名な森博嗣の新書。元理系大学教授の書く自由論に興味があったので読んでみる。
人生の目的は自由という話から始まる。
自由という言葉は確かにいろんな意味があるけど、自由になろう!というよりは、自由の反対、支配に対する自分の在り方を考えることに重きを置いているように感じた。
昔は社会のシステム的に支配されているとわかりやすかったけど、現代は巧妙になっている、

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『映画を早送りで観る人たち: ファスト映画・ネタバレ-コンテンツ消費の現在形』/稲田豊史 | まぁそんな人達も多いだろう…っていう…

『映画を早送りで観る人たち: ファスト映画・ネタバレ-コンテンツ消費の現在形』/稲田豊史 | まぁそんな人達も多いだろう…っていう…

映画を早送りで見たことはないけど、見る人もいるだろうな〜とは思ってた。

というのも、最近は面白いエンタメが多すぎる。サブスクに電子書籍、SNSで大量にいろんな人からオススメされる時代なんで、映画なんて長尺のコンテンツ、ゆっくり見てられないんだろうな〜とは思う。
自分では早送りしない理由は、若者でもないし、長年の慣習として、映画はじっくり見るべし、と単に癖になってるだけで、深い理由はない。いい映画

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『地球人間』 /  村田沙耶香| サウンドノベルゲームのバッドエンド

『地球人間』 / 村田沙耶香| サウンドノベルゲームのバッドエンド

村田沙耶香作品を読んだのは『コンビニ人間』に続き2作目。
どっちもテーマとしては似ている作品だと感じたけど、他の本はどうだろう・・・
ストーリーは相変わらず世の中に対して生きづらさを感じている人がたくさん出てくる。社会を「工場」と言ったり、タイトル通りみんなは「地球星人」で自分は違う星の人間と言ったり・・・ただ別にファンタジーではなくとことんシリアスな話だったし、ラストは読み始めた時の感覚と全く違

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『現実脱出論』/ 坂口恭平 | 見えないものが見えてくる本

『現実脱出論』/ 坂口恭平 | 見えないものが見えてくる本

坂口恭平はたしかアフター6ジャンクションで知ったのかな?0円ハウス的な話をしていたような気がするし、面白い人の印象。

なんとなく現実逃避的な印象を持たせるタイトルだけど、内容は全然違う。現実逃避しても現実はより存在感を強化してしまうという考えなので、逃避をまったく肯定していない。『現実脱出』は、存在は体感しているけど、現実的でないと切り捨てていたものを直視することらしい。

居酒屋の話が例に出さ

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『もういちど生まれる』/ 朝井リョウ | ウイイレ、サークル、麻雀、大学生…

『もういちど生まれる』/ 朝井リョウ | ウイイレ、サークル、麻雀、大学生…

『桐島、部活やめるってよ』、『何者』、最近だと『正欲』だったり、いい本を書く人とはわかっていた。現代らしい切り口だけど、この人ならではの視点だし、なおかつ共感もできる、みたいなとにかく信頼がおける作家。

重すぎず軽すぎずで、何かの待ち時間にはよくお世話になってきた。

今回のこの本も待ち時間に読もうと思って買っていた。短編集で、恋愛っぽい始まり方だったんで、ちょっとそんな気分じゃないかも…と思い

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『三体』劉慈欣 | 手が止まらない系面白SF

『三体』劉慈欣 | 手が止まらない系面白SF

とにかく面白いSF、という噂は聞いていてずっと読みたかった本だった。ラジオのアフター6ジャンクションでも何回か紹介されてた気がする。

しかし本当に面白いらしく、中古の値段も全然下がらないんで図書館で借りることに。ベストセラーって安くなるイメージだったけど、この本は全然下がらなかったんでびっくりした。

ストーリーは・・・がっつりネタバレするけど、最初は文化大革命の話で、中国の近代史か〜と思いなが

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『前の家族』/ 青山七恵 | 引越しホラー小説

『前の家族』/ 青山七恵 | 引越しホラー小説

タイトルと表紙で、重たい小説の息抜きと思って読んだらまさかの引越しホラー小説だった。
ストーリーは、買ったマンションの前の住人がやたらと接近してくる話。

前の住人は、新しい家があるのに、すごく前の家を気に入っていて、なんなら住んでた子供達からは敵意を持って見られるくらいな感じ。なぜ引っ越すかというとお父さんが新しい家に住みたいからで、他の皆はあまり納得していない…

暮らし始めると前の住人の子供

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