佐伯紅緒

作家/脚本家/俳優。小説『エンドレス・ワールド』映画『RE:BORN』他。執筆のご依頼…

佐伯紅緒

作家/脚本家/俳優。小説『エンドレス・ワールド』映画『RE:BORN』他。執筆のご依頼はアンドリーム、出演はアティチュードまでお願いします。 https://www.and-ream.co.jp/saeki-benio https://www.attitudejp.com

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記事一覧

Netflix映画『アトラス』ー人間とAIのハードボイルド弥次喜多珍道中

賛否両論あるみたいですが、私は、面白かったです。 なんといってもジェニファー・ロペスの説得力。 かつて映画『タイタニック』で、当時体重60キロを超えていたというケ…

佐伯紅緒
2日前
4

映画『ルックバック』というタイトルの本当の意味について

(多少ネタバレを含みます) 京都アニメーション放火事件から今日で5年。 あの事件を知った時、私はいろんな意味で凍りつきました。 あの日たまたま伏見にいたこと、京…

佐伯紅緒
4日前
18

これまでわからなかったことがある日突然わかることについて

若い頃、歌舞伎のどこが面白いのかと思っていました。 歌舞伎好きの友人に「絶対泣くから」と連れて行かれても、子別れの場面に号泣する友人を尻目に、いったいなにをどう…

佐伯紅緒
1か月前
16

父の死と飴ちゃんの神様

今日は珍しく風邪でダウンして床に伏せっているのですが、そういえば今日は父の命日だったな、とふと思い出しました。 2011年5月9日の朝、私は、がんセンターのホスピスの…

佐伯紅緒
2か月前
13

大衆演劇のスーパースターに会ってきました

大衆演劇にハマって早くも一年が過ぎようとしている。 詳しい経緯は今月末配信予定の漫画家の大井詩織ちゃんが描いてくれたエッセイ漫画を読んでくれれば早いとして、そも…

佐伯紅緒
4か月前
15

映画『パーフェクト・デイズ』

話題のヴィム・ヴェンダース監督映画『パーフェクト・デイズ』を観てきました。 主人公の役所広司扮するトイレ清掃員平山は、仕事の合間に毎日木漏れ日の写真をフィルムカ…

佐伯紅緒
5か月前
26

友達100人できるまで(3)

前回の記事はこちら その人は私がよく行く青山の珈琲店の常連だった。 そこは就職に失敗した大学の友人がアルバイトで働いて、当時デパートの店員だった私は勤め帰りによ…

佐伯紅緒
6か月前
9

友達100人できるまで(2)

前投稿はこちらです その女子大きってのボディコン集団「タワーズ」さえもが一目置く、学内三大美女のひとり、さゆりちゃんは誰もが認める桁外れの美少女だった。 イケイ…

佐伯紅緒
6か月前
12

友達100人できるまで(1)

私はコミュ障である。 正確にいうと「だった」のかも知れない。 なぜなら、今も本質は変わってないけど、少なくとも自分から人に話しかけられるようにはなったからだ。 …

佐伯紅緒
6か月前
32

めくらやなぎと眠る女

仏映画監督ピエール・フォルデさん来日。 お初にお目にかかりました。 事の起こりは去年の秋、友人の逸見愛ちゃんが演技レッスンの稽古場で放った一言でした。 「ねえ紅…

佐伯紅緒
8か月前
12

売春島 稽古つれづれ

私は常々、目にうつるものはみんな自分の心の中の反映だと思っている。 それでいうと今、私は稽古場で目にしてるものを見ながら、いま自分の中は一体どうなっているんだろ…

佐伯紅緒
8か月前
11

謎の人

その人は生きている間ずっと私にとって謎の人で、とうとう最後まで何考えてるのかわからないまま死なれてしまって、でも残された身としてはモヤモヤが澱みたくたまったまま…

佐伯紅緒
10か月前
6

イケメン君の逆襲

世の中悪いことというのは本当にできないもので、先日、役者として呼んでいただいたとある映画の撮影現場で、私は、かつて自分がドラマ脚本の仕事をした時に、つい面白おか…

佐伯紅緒
11か月前
16

旅する付喪神

もう書いていて自分でも心底イヤになるのですが、このところ、私は毎日のように同じ日傘をどこかに置き忘れています。 そして忘れる場所もカフェ、飲み屋、整体治療院、神…

佐伯紅緒
1年前
13

自分の人生の中で一番良い思い出

8歳の時、私は原因不明の微熱が1ヶ月ほど続き、柳橋の病院に入院しました。今思えば詐病だったのだと思います。当時、私は学校へ行くのが嫌で嫌で仕方ありませんでしたから…

佐伯紅緒
1年前
19

おばさんが呪いを解いた日

一体どんな平行世界へ来たのかと思いながらテレビを見ていた。 今年のアカデミー賞、ミシェル・ヨーの主演女優賞受賞である。 リアルタイムで見ていた人も多いかと思うが…

佐伯紅緒
1年前
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Netflix映画『アトラス』ー人間とAIのハードボイルド弥次喜多珍道中

Netflix映画『アトラス』ー人間とAIのハードボイルド弥次喜多珍道中

賛否両論あるみたいですが、私は、面白かったです。

なんといってもジェニファー・ロペスの説得力。
かつて映画『タイタニック』で、当時体重60キロを超えていたというケイト・ウィンスレットの堂々たる体躯も氷の海で生き延びたというラストの設定に真実味を与えていましたが、映画『アトラス』のジェニファー・ロペスもまた、宇宙の果てまで暴走したAIテロリストをやっつけに行く女伊達という設定に納得感を与えておりま

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映画『ルックバック』というタイトルの本当の意味について

映画『ルックバック』というタイトルの本当の意味について

(多少ネタバレを含みます)

京都アニメーション放火事件から今日で5年。

あの事件を知った時、私はいろんな意味で凍りつきました。

あの日たまたま伏見にいたこと、京都アニメーション制作の作品のファンだったこと、そして何より、何の罪もないクリエイターの人たちが一瞬にして理不尽な暴力で命を奪われたという事実に対する底知れぬ恐怖です。

そして一昨日、今公開中の映画『ルックバック』を観てきました。 

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これまでわからなかったことがある日突然わかることについて

これまでわからなかったことがある日突然わかることについて

若い頃、歌舞伎のどこが面白いのかと思っていました。

歌舞伎好きの友人に「絶対泣くから」と連れて行かれても、子別れの場面に号泣する友人を尻目に、いったいなにをどうすればこんな見ず知らずの他人の悲劇にここまで共感できるのかと思っていました。
これは危ない、こんな共感の安売りをしてたら、ゆくゆくこの人は絶対悪い人にだまされるに決まってる、と友人の心配までしていたほどです。

それが今、なぜこの文章を書

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父の死と飴ちゃんの神様

父の死と飴ちゃんの神様

今日は珍しく風邪でダウンして床に伏せっているのですが、そういえば今日は父の命日だったな、とふと思い出しました。

2011年5月9日の朝、私は、がんセンターのホスピスの藤棚の下で父が死ぬのを待っていました。

とはいっても別に父が死ぬのを待ち望んでいたわけじゃなく、その数日前に病院側からいよいよです、と引導を渡され、家族交代で病院に泊まり込んでいたのです。

父の死に関してはとっくに覚悟はできてい

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大衆演劇のスーパースターに会ってきました

大衆演劇のスーパースターに会ってきました

大衆演劇にハマって早くも一年が過ぎようとしている。

詳しい経緯は今月末配信予定の漫画家の大井詩織ちゃんが描いてくれたエッセイ漫画を読んでくれれば早いとして、そもそも大衆演劇ってなに? という問いに対しては次の写真を挙げておく。

コレです。

温泉地でこういうの、見かけたことないでしょうか。
これは私が9年前、たまたま別府温泉に行った時に撮った写真なんだけど、このときはただ温泉地の情緒溢れる風景

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映画『パーフェクト・デイズ』

映画『パーフェクト・デイズ』

話題のヴィム・ヴェンダース監督映画『パーフェクト・デイズ』を観てきました。

主人公の役所広司扮するトイレ清掃員平山は、仕事の合間に毎日木漏れ日の写真をフィルムカメラで撮影するという趣味を持っていて、気に入った写真を年代別にコレクションしています。

その平山がシャッターを切った瞬間、木漏れ日に向かって一礼するのを見たとき、私は思わずあっと映画館の中で叫びそうになりました。

昔、これと同じ感覚を

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友達100人できるまで(3)

友達100人できるまで(3)

前回の記事はこちら

その人は私がよく行く青山の珈琲店の常連だった。
そこは就職に失敗した大学の友人がアルバイトで働いて、当時デパートの店員だった私は勤め帰りによくそこに寄っていた。

東京の夜の酒場には、それを叫べばハリーポッターの呪文のごとく人が振り返るマジックワードというのがある。

その言葉とは「ギョーカイ」だ。

私が25才の時に出会ったその人もまた、「ギョーカイ」の人だった。

ジャン

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友達100人できるまで(2)

友達100人できるまで(2)

前投稿はこちらです

その女子大きってのボディコン集団「タワーズ」さえもが一目置く、学内三大美女のひとり、さゆりちゃんは誰もが認める桁外れの美少女だった。

イケイケのタワーズと違って、その見た目は「清楚」の一言。すらりとした細身の身体、腰まで伸びた薄茶色の髪、抜けるように真っ白な肌、色素の薄い大きな瞳。まさに、私の思う「美少女」の概念を体現したような姿をしていた。

私は再び考えた。
どうすれば

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友達100人できるまで(1)

友達100人できるまで(1)

私はコミュ障である。

正確にいうと「だった」のかも知れない。
なぜなら、今も本質は変わってないけど、少なくとも自分から人に話しかけられるようにはなったからだ。

こんなこと書くと「え?」と今の私しか知らない人にはものすごく驚かれるけど、幼少の頃の私を知っている人はうんうん、と深く頷いてくれる。

なにしろ、まず受け答えが変だった、らしい。
何をたずねてもオウム返ししかしない。人と全く交流しないば

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めくらやなぎと眠る女

めくらやなぎと眠る女

仏映画監督ピエール・フォルデさん来日。
お初にお目にかかりました。

事の起こりは去年の秋、友人の逸見愛ちゃんが演技レッスンの稽古場で放った一言でした。

「ねえ紅ちゃん、フランスにいる友達のダンナがひとりでアニメ映画作ったんだけど、日本での売り方がわからないんだって。いちど見てやってくれない?」
「いいよ。友達のダンナさんて何やってる人」
「さあ。音楽関係だったかな」

そんな言い方されたらふつ

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売春島 稽古つれづれ

売春島 稽古つれづれ

私は常々、目にうつるものはみんな自分の心の中の反映だと思っている。

それでいうと今、私は稽古場で目にしてるものを見ながら、いま自分の中は一体どうなっているんだろうと思ってます。

言うなれば、極彩色の闇鍋の中にでも放り込まれたような感じ。

座組も座長の高橋俊次君の意向でしょうか、キレイな女の子たち、イケメンの男の子たち、演技派の人たちとその面子はいろいろですが。

全員、個性が強いという点では

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謎の人

謎の人

その人は生きている間ずっと私にとって謎の人で、とうとう最後まで何考えてるのかわからないまま死なれてしまって、でも残された身としてはモヤモヤが澱みたくたまったままだったから、その答えを知りたくてその人のことを書く、ときがあります。

今、まさにそういう作業のまっ最中。

生前ニコニコ笑うばかりで決して本音を吐かなかったその人は、死してなお相当手強く、書いても書いてもコートの上からカサブタを掻くような

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イケメン君の逆襲

イケメン君の逆襲

世の中悪いことというのは本当にできないもので、先日、役者として呼んでいただいたとある映画の撮影現場で、私は、かつて自分がドラマ脚本の仕事をした時に、つい面白おかしくイジって書いてしまった俳優さんと同じシーンで共演するはめになりました。

しかも、主役と端役として。

彼はその当時から超絶なるイケメンで、業界人の両親を持ち、顔よし声よし姿よし、しかも性格もいいという、どこを切っても非の打ちどころのな

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旅する付喪神

旅する付喪神

もう書いていて自分でも心底イヤになるのですが、このところ、私は毎日のように同じ日傘をどこかに置き忘れています。

そして忘れる場所もカフェ、飲み屋、整体治療院、神社、車の中とこれもまたウンザリするくらいバラエティに富んでいるのですが、不思議なことに私の傘には帰巣本能があるらしく、問い合わせるとそのつどちゃんとどこからか出てきます。

なのでこちらも自分の日傘が手元にないのをひとたび知るや、「またか

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自分の人生の中で一番良い思い出

自分の人生の中で一番良い思い出

8歳の時、私は原因不明の微熱が1ヶ月ほど続き、柳橋の病院に入院しました。今思えば詐病だったのだと思います。当時、私は学校へ行くのが嫌で嫌で仕方ありませんでしたから。

私の両親は娘の私の教育に手を焼いていたようでした。
今の私を知る人には信じてもらえないと思いますが、なにしろ当時の私は普段から感情をほとんど出さず、放っておくと1週間でも10日でも同じ服を着続け、そしてこれからの時代はこれが来る、と

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おばさんが呪いを解いた日

おばさんが呪いを解いた日

一体どんな平行世界へ来たのかと思いながらテレビを見ていた。

今年のアカデミー賞、ミシェル・ヨーの主演女優賞受賞である。

リアルタイムで見ていた人も多いかと思うが、現在60歳のミシェルはプレゼンターから自分の名が告げられた瞬間、少女のような表情になって歓喜し、壇上でオスカー像を振り上げながらガッツポーズを見せて会場から喝采を浴びた。

「ありがとう。いまこの授賞式を見ている、私のような見た目の少

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