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【夢のミッション】

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みた夢の小説。他に、夢にまつわる話を少し。
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#ショートショート

飛び入りランナー

飛び入りランナー

 会館の隅を勝手に借りて着替えた。徹夜仕事の疲れが残っているせいか、ボタンを外すのにも苦労した。向こうの方に黒いスーツの影が見え、徐々に人の気配が増してきた。少し無理をしている気もしたが、正式なビブスをつけると誇りが立ち上がり始めた。さあ行くぞ。会館を出ると駐車場に長距離バスが到着していた。中から旗を持った人々があふれ出てくる。皆マラソンを応援する人々だ。交差点を越え、園児たちの集団(ワゴンに乗っ

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吊り橋交差点

吊り橋交差点

 信号機よりもまだ高いところに細い吊り橋がかかっていて、僕らはそこに跨がって交差点を見下ろしていた。交通調査の仕事だ。
 最初は見ているだけだったが、誰かがハンカチを落としたりしたら叫んでしまう。しつこい勧誘につきまとわれている人を見ると口を出してしまう。おかげで僕らは目立つ存在だった。たすきを巻いたおかしな政治家みたいなのがやってきて、文句を言い出した。

「下りなさい! 危ないじゃないか!」

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帰省飛行デモンストレーション

帰省飛行デモンストレーション

「帰るのか? 雨が降るぞ」
 父が言った。
 ラジオのチャンネルを研究している内に夕方になってしまった。支度をして家を出る。家には誰もいないはずだった。父の声はラジオだったのか。玄関を出たところで明かりを1つ消し忘れていることに気がついた。靴を片方履いたまま中に戻った。
 鍵をかけると玄関に友達が立っていた。

「帰るの?」
 自分は帰るのをやめたと友達は言った。
「安全第一だから」
 
 タクシ

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転校プラットホーム

転校プラットホーム

 父兄が降りて行きホームは緊迫した空気に包まれた。万一に備えて僕もホームに立っていた。子があとを追って飛び出して行かないよう警戒線が張られた。どこからか転がってきたボールを僕は足の裏で止めた。誰も気づいていないようだったが、説得の声に耳を傾ける内、足下を離れ反対側に転がって行く。まずい。と思った瞬間、偶然、ボールは特急を待つ紳士の足に当たって蹴り返された。僕はトラップして軽くドリブルをしてから定位

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夢の駅

夢の駅

「次は終点……です」
 いい声の車掌さん。

「お葉書です。クリスマスを待ちながらさんから。いつも運行お疲れさまです。私は電車に乗って隣の町の歯医者さんまで行きます。昔からある歯医者さんなのですが、最近ちょっと変わったことがありました……」
 車掌さんが葉書を読む声を聞きながら、僕はうとうとする。終点が近づくと、僕はいつでもそうしなければならないのだ。車掌さんの声とちょうどいい揺れとの間にだけ安ら

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エンドレス・サマー

エンドレス・サマー

 明け方からどこかで洗濯機が回っている。迷い、躊躇い、疑い、憂鬱。おなじみの破れかぶれを入れて、ぐるぐると回り続ける。出口はどこにもない。あったとしても循環が続く間は見つけられない。一瞬の躊躇いが、長い冬の時代を築く。例えばそれは一つのゴミ、一群の洗い物。放置された物に触れることは難しい。鍵も扉もなく手を伸ばせば届く距離にあるのに、世界が切り離されているように遠い存在になることがある。間を打ち破る

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友達の捕獲

友達の捕獲

 昔の友達が遊びに来た。昔は仲がよかったが、それはまだ10代に差し掛かるくらいまでだった。面影はあるものの、親しかった頃の感覚は戻らなかった。遊びに来たのは一度ではなかった。だんだんと間が開けばいいと思っていたが、だんだんと近づいてきた。
(友達は泥棒になった)どこかで耳にした噂を思い出す。
 そう言えば最近家の中の物が、微妙に動いていたり減っていたりする。僕のいない間にもあいつが入り込んでいるの

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もやしおばば

もやしおばば

 初めて行く食堂は緊張する。どこからどんなものが出てくるか、その時になってみないとわからないからだ。
 その客はもやしの皿に手を着けなかったとみえる。
 食器を下げにきたおばあさんが立ち止まり、もやしを見ていた。そして、突然、顔をもやしの皿に近づけた。周りが少しざわついた。おばあさんは、もやしに埋もれてしばらく息をしていたようだった。
 それから何事もなかったように、お盆を両手で抱えて帰って行く。

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ピザと早繰り銀

ピザと早繰り銀

「どうも食欲がない」
 と姉が言った。
「何か軽く食べに行く? それともピザでも買ってこようか」
「それがいい」
 姉が軽く賛成した。

 スーパー前で見知らぬ老人と対局した。
 老人は豪腕でとても早指しだった。
「もう一局教えてやろう」
 軽く飛ばされて、今度は負けた僕からだ。老人はすぐに角を換えてくる。すいすいと銀を繰り出してくる。早指しの勢いで銀の進出がとても速い。先手番のはずがいつの間にか

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イートイン・ドリーム

イートイン・ドリーム

 売場のすぐ横にあるイートインコーナーでお弁当を食べた。「7の数がつく総菜、お弁当は半額になります」えーっ、そんなことが。おばちゃんが気合いを入れて半額シールを貼りつけているのが見えた。シールは事前に購入しておく必要があるのだとか。
 お弁当を食べているとお茶が欲しくなった。そう言えばお弁当代を払っていなかった。とりあえずはお茶だ。レジに急ぐ。お茶だけを買ってイートインコーナーに戻る。いや待て、何

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