フォローしませんか?
シェア
ロボモフ
2021年2月15日 02:54
会館の隅を勝手に借りて着替えた。徹夜仕事の疲れが残っているせいか、ボタンを外すのにも苦労した。向こうの方に黒いスーツの影が見え、徐々に人の気配が増してきた。少し無理をしている気もしたが、正式なビブスをつけると誇りが立ち上がり始めた。さあ行くぞ。会館を出ると駐車場に長距離バスが到着していた。中から旗を持った人々があふれ出てくる。皆マラソンを応援する人々だ。交差点を越え、園児たちの集団(ワゴンに乗っ
2020年11月4日 23:02
信号機よりもまだ高いところに細い吊り橋がかかっていて、僕らはそこに跨がって交差点を見下ろしていた。交通調査の仕事だ。 最初は見ているだけだったが、誰かがハンカチを落としたりしたら叫んでしまう。しつこい勧誘につきまとわれている人を見ると口を出してしまう。おかげで僕らは目立つ存在だった。たすきを巻いたおかしな政治家みたいなのがやってきて、文句を言い出した。「下りなさい! 危ないじゃないか!」
2020年10月12日 21:21
「帰るのか? 雨が降るぞ」 父が言った。 ラジオのチャンネルを研究している内に夕方になってしまった。支度をして家を出る。家には誰もいないはずだった。父の声はラジオだったのか。玄関を出たところで明かりを1つ消し忘れていることに気がついた。靴を片方履いたまま中に戻った。 鍵をかけると玄関に友達が立っていた。「帰るの?」 自分は帰るのをやめたと友達は言った。「安全第一だから」 タクシ
2020年10月5日 06:22
父兄が降りて行きホームは緊迫した空気に包まれた。万一に備えて僕もホームに立っていた。子があとを追って飛び出して行かないよう警戒線が張られた。どこからか転がってきたボールを僕は足の裏で止めた。誰も気づいていないようだったが、説得の声に耳を傾ける内、足下を離れ反対側に転がって行く。まずい。と思った瞬間、偶然、ボールは特急を待つ紳士の足に当たって蹴り返された。僕はトラップして軽くドリブルをしてから定位
2020年9月16日 23:05
「次は終点……です」 いい声の車掌さん。「お葉書です。クリスマスを待ちながらさんから。いつも運行お疲れさまです。私は電車に乗って隣の町の歯医者さんまで行きます。昔からある歯医者さんなのですが、最近ちょっと変わったことがありました……」 車掌さんが葉書を読む声を聞きながら、僕はうとうとする。終点が近づくと、僕はいつでもそうしなければならないのだ。車掌さんの声とちょうどいい揺れとの間にだけ安ら
2020年9月13日 02:24
明け方からどこかで洗濯機が回っている。迷い、躊躇い、疑い、憂鬱。おなじみの破れかぶれを入れて、ぐるぐると回り続ける。出口はどこにもない。あったとしても循環が続く間は見つけられない。一瞬の躊躇いが、長い冬の時代を築く。例えばそれは一つのゴミ、一群の洗い物。放置された物に触れることは難しい。鍵も扉もなく手を伸ばせば届く距離にあるのに、世界が切り離されているように遠い存在になることがある。間を打ち破る
2020年9月6日 06:18
昔の友達が遊びに来た。昔は仲がよかったが、それはまだ10代に差し掛かるくらいまでだった。面影はあるものの、親しかった頃の感覚は戻らなかった。遊びに来たのは一度ではなかった。だんだんと間が開けばいいと思っていたが、だんだんと近づいてきた。(友達は泥棒になった)どこかで耳にした噂を思い出す。 そう言えば最近家の中の物が、微妙に動いていたり減っていたりする。僕のいない間にもあいつが入り込んでいるの
2020年9月3日 07:11
初めて行く食堂は緊張する。どこからどんなものが出てくるか、その時になってみないとわからないからだ。 その客はもやしの皿に手を着けなかったとみえる。 食器を下げにきたおばあさんが立ち止まり、もやしを見ていた。そして、突然、顔をもやしの皿に近づけた。周りが少しざわついた。おばあさんは、もやしに埋もれてしばらく息をしていたようだった。 それから何事もなかったように、お盆を両手で抱えて帰って行く。
2020年6月14日 09:48
「どうも食欲がない」 と姉が言った。「何か軽く食べに行く? それともピザでも買ってこようか」「それがいい」 姉が軽く賛成した。 スーパー前で見知らぬ老人と対局した。 老人は豪腕でとても早指しだった。「もう一局教えてやろう」 軽く飛ばされて、今度は負けた僕からだ。老人はすぐに角を換えてくる。すいすいと銀を繰り出してくる。早指しの勢いで銀の進出がとても速い。先手番のはずがいつの間にか
2020年2月29日 13:02
売場のすぐ横にあるイートインコーナーでお弁当を食べた。「7の数がつく総菜、お弁当は半額になります」えーっ、そんなことが。おばちゃんが気合いを入れて半額シールを貼りつけているのが見えた。シールは事前に購入しておく必要があるのだとか。 お弁当を食べているとお茶が欲しくなった。そう言えばお弁当代を払っていなかった。とりあえずはお茶だ。レジに急ぐ。お茶だけを買ってイートインコーナーに戻る。いや待て、何