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もやしおばば

 初めて行く食堂は緊張する。どこからどんなものが出てくるか、その時になってみないとわからないからだ。
 その客はもやしの皿に手を着けなかったとみえる。
 食器を下げにきたおばあさんが立ち止まり、もやしを見ていた。そして、突然、顔をもやしの皿に近づけた。周りが少しざわついた。おばあさんは、もやしに埋もれてしばらく息をしていたようだった。
 それから何事もなかったように、お盆を両手で抱えて帰って行く。
 その時、おばあさんは急に足を止めて、こちらを振り返った。何か視線を感じたのかもしれない。

「広げるなよ」
 眉間にしわを寄せながら、おばあさんの唇が動いた。
 ここで見たことは誰にも話してはならないのだ。
 あのもやしの行方を決して追ってはならない。


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