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ピザと早繰り銀

「どうも食欲がない」
 と姉が言った。
「何か軽く食べに行く? それともピザでも買ってこようか」
「それがいい」
 姉が軽く賛成した。

 スーパー前で見知らぬ老人と対局した。
 老人は豪腕でとても早指しだった。
「もう一局教えてやろう」
 軽く飛ばされて、今度は負けた僕からだ。老人はすぐに角を換えてくる。すいすいと銀を繰り出してくる。早指しの勢いで銀の進出がとても速い。先手番のはずがいつの間にか先攻されてしまう。なんて早繰り銀だ!「もう一局!」何度やってもとても歯が立たない。僕とは鍛えが違うのだ。空になったペットボトルをゴミ箱に捨てる。振り返ると老人の姿はなかった。警備員が手際よく盤を片づけている。

 ポカリスエットを買いにスーパーに行くと雑誌コーナーの向こうに壁が見えた。店内が狭く、近くにエプロンをした店員がいた。みんな見覚えのある顔だ。ここはコンビニじゃないか! 頭の中で反省会をする内に道を間違えてしまった。その時、突然、本文を思い出した。
 食欲がないから一枚で十分だな。

 一時的によみがえっていた父がピザを食べ始めた。負けずに姉もピザを食べた。二人してむしゃむしゃとピザを食べた。なくなった! 今夜は敗戦続きだ。もう一枚買いに行こうか。
 もう一度、夜の中へ。早繰り銀のように、僕は家を飛び出した。


#将棋 #夢 #小説 #創作 #早繰り銀

#ショートショート #負けました

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