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【夢のミッション】

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みた夢の小説。他に、夢にまつわる話を少し。
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カテゴリの神さま

カテゴリの神さま

 後悔の渦の先に新しいチャンスがやってきた。飛び込む以外の選択はない。
「さあ!」
 優しい顔をしたおじさんは大きく両手を広げていた。その場所こそが僕が目指すべき着地点だ。優しい顔をした存在こそが邪魔者だなんて。
「チケットは持ったか?」
 自分に問題はないという顔をしていた。同じ座標に共存することはできない。世界の掟に背いて僕は飛ぶ。誰かを傷つけたとしても逃せないチャンスがあるからだ。
 階段か

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スマホ戦争

スマホ戦争

 前方不注意主義者のスマホ男が、道を完全に人任せにして歩いてくる。俯く姿勢から無言の圧力を発しながら、ゆっくりとこちらの方へ。わかってるな。お前が変えろよ。俺は今この手の中の方でいっぱいだから。俺の進路をちゃんと読んで、お前が変えろよ。忙しい俺を煩わせるなよ。男は一瞬も視線を上げようとはしない。

 力に屈した日のことを思い出す。口の中に手を突っ込まれて、歯を全部抜かれてしまいそうになった日。抗う

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モーニング・サービス

モーニング・サービス

 宿題をすべて片づけて、安心して眠りたいと思う。けれども、片づいたと思ったら現れる。片づけるほどに散らかっていく。根本的には、何が宿題なのかがわかっていない。問題がわからないのだから、解決困難だ。物心ついてから、ずっと仮眠しか取れていないように思える。本当に安らかに眠れるのは、死んだ後かもしれない。眠りと死は、似ているようで真逆だとも思う。決して死を望んでいるわけでもないし、憧れるものでもない。死

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夜明けの護送

夜明けの護送

 包囲された空間にいることが、大人であることの証明だった。折れ曲がった矢印が進むべき道を迷わせる。タクシーの刺客が交差点で牙を剥いて襲いかかってくる。プールの中に飛び込んで必死で腕を回した。クロールは間違った学習だったと思わせる。かいでもかいでも前に進むことができない。ターンする壁をずっと探している。

「ランウェイか」
 課長はそう言って電話を切る。アピールできるチャンスだ。

「自分行きます」

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ファースト・テイク

ファースト・テイク

 カウンターの上に見えたバーガーを食べた。パサパサしているけどわるくない。横にあふれたポテトを食べていると、店員さんが駆け寄ってきた。何か驚いたような様子だった。

「そちらは……」
 必死に適当な言葉を探しているように見えた。

「別の人のですか?」

 店員さんの表情から、僕は察した。バイキングみたいなところだと思っていたが、どうやらやってしまったか。だけど、食べ始めてしまったものは、もうどう

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友達対局

友達対局

 決勝戦はたっちゃんとの対局になった。大優勢を築いてからのたっちゃんの指し回しの緩さときたら目を覆うばかりだ。彼女ができてから棋風が変わりすぎじゃないか。あんなに尖っていたのがうそみたい。まあそれでたっちゃんが幸せならば別にいいんだけどさ。厚みは崩壊、攻撃は空回り、あれよあれよという間におかしくなって、大駒4枚は僕のものになっていた。控えめに言って必勝形。だけど、よすぎると逆にどうしていいかわから

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夢であったら/夢であった

夢であったら/夢であった

 いつものようにセルフレジでコーヒーを注文する。いつもは電子決済するのだが、それだとなぜが決済のみ対人式となる。そこで今日は小銭を用意してきた。順調に進みいざ支払いのところにきて僕は戸惑った。小銭を入れるところがぱっと見でわからなかったのだ。お札を入れるようなとこはある。お釣りが返ってくるようなところもある。しかし、硬貨は……。僕は思い切ってお札投入口に硬貨を押し込んだ。特に反応はない。続けてもう

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からくりカラアゲ

からくりカラアゲ

 注文が入り、レジを開けて唐揚げを作った。その横から別のお客さんが入り込んできた。
「お金が2枚飛んでいったんです」
 レジの中を探るとおかしなところに4枚の札があった。
「4枚ありましたよ」
 札を手早く引き取ると女は笑顔もなく足早に去っていった。
(しまった!)
 彼女は自分のとは言わなかった。なのに僕は思い込みから札を彼女に手渡してしまったのだ。これはすっかりやられてしまったぞ。
 だが、冷

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明るすぎるカフェ

明るすぎるカフェ

 エレベーターを出ると右側に男女のマークがあってそこはトイレだった。正面が店の入り口だ。ドアを開けると通路が縦に長い。

「いらっしゃいませ」
 どこからともなく男性の店員が出てきたが、店員は靴を履いていた。

「ああ、脱がなくていいんですね」

 僕はなぜか靴を脱いで手に持って歩いていて、自分がなぜそうしたのかわからなくて恥ずかしくなって笑った。店員も一緒になって笑ってくれた。どこがいいか相談し

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普通の味

普通の味

 部屋にいると先生が何をしているのかとたずねてきた。僕はタオルの用意やお菓子の整理をしているのだと答えた。切符はまだ買っていなかった。切符などいつでも買えるからだ。

「今行け!」

 先生は今すぐ切符を買いに行くように言った。窓口に行くと半分明かりが消えて閉まりかけていた。自販機はまだ大丈夫だ。切符を買おうとしたがどれを買えばいいかわからなかった。

「みんなは何を?」

「博多でしたよ」

 

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豆腐と国際スパイ

豆腐と国際スパイ

 ファミレスのテーブルはみんなつながっていて、どこかの宴会場のようだった。単品の注文センスについて姉がやたらとダメ出ししてくるのが疎ましい。理屈で抵抗することをあきらめて感情を露わにすると、気まずい空気が周囲にまで感染してしまった。姉は消えて、路上に母と二人になっていた。
「何食べたい?」
「豆腐」
 豆腐か……。僕は新幹線の時間が気になっていた。母や今日家に帰らなければならないのだ。ネットで豆腐

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流刑100万キロ

流刑100万キロ

 何もない直線道路で警官に止められた。
「出てたね。ここは8キロだよ」
「8キロ?」
「そう。かなり出てたよ。20キロね」
「えっ? どこに書いてます?」
 どこにもそんなことは書いてないのだ。僕は自転車を押しながらそのまま逃げて行こうとした。
「何?」
 警官の一人がハンドルを両手で掴んで固定した。1ミリも動かすことができない。
「公務執行妨害未遂で逮捕する!」
「緊急逮捕! 23時25分45秒

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野蛮な手先

野蛮な手先

 土地が足りなかったか。家の居間が新しくできたフットボール・スクールの練習場にされていた。広さとしては明らかに不十分だったが、場所を選んでいるようでは真の一流には届かないというのは理解できた。畳でつるつると滑って転んではボールを失った。異国の選手は平然と立っていることに驚く。パスは何本もつながった。惜しいシュートもあった。全体的に言えばチャンスの数は少な目だったと思う。シュートが打てた場面をコーチ

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裏街道の逃亡者

裏街道の逃亡者

 色々あって指名手配されることになった。おたずねものとなった不安からか、気がつくと僕は見知らぬ民家をたずねていた。ベルを鳴らすと若い男が出てきた。最近事件があってですね……。

「怪しい男をみかけませんでしたか?」

 僕はヘルメットを脱いで自ら顔を晒した。そうすることで自分は全く無関係であることを装えると思ったからだ。男は怪訝な様子だった。まじまじと僕の顔をみているようだ。

「そうですか。なら

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