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ショートステイ

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クリエイター・リンク集「バスを待つ間に触れられるものを探しています」
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2020年7月の記事一覧

背表紙

背表紙

選ばれなくてもいいので、目で追ってください。

ただ、整然と並べられた、背を、

目で撫でてくださればそれで結構です。

できれば、ゆっくりと、ゆっくりと。

開いて見なくてもいいので、思い描いてください。

あなたが、読みたい物語を、

丁寧に想像して、味わって見てください。

タイトルを覚えてくださればそれで結構です。

できれば、たっぷりと、たっぷりと。

【ショートショート】忙しい1日

【ショートショート】忙しい1日

今日は本当に忙しい1日だった。

朝起きて、学校に遅刻しそうだったもんで、走って学校に向かっていると、
曲がり角でパンをくわえた女の子とぶつかって、口論になって、

学校に着くと、先生が「今日は転校生がいます」と言って、紹介されたのが、まさかのさっきの女の子で、しかも僕の隣の席で、

休み時間にその子と話してたら、急にその子が、「あなたは選ばれし勇者なの」と言ってきて、

どうやらその女の子は、パ

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キュリオシティ

キュリオシティ

火星探査ほどわくわくした気持ちを持てるものは、今の私に他に無い。

あの荒れた赤土の地表を駆け抜けるローバーたちは、生まれ故郷を去り、

全くの新天地で、自分たちの足跡を大地に刻む快感を感じているのだろうか。

信じられないくらい、平たくてずっと続く平原。

系内でいちばんの、高々とそびえ立つ巨山。

ぱっくりと大地を分かつ暗黒の渓谷。

私たちがいけないばかりに、彼らが代わりに見つけてきてくれる

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見つからないなら

スリッパが
勝手にいなくなったこと
許してやってほしい

猫は
死期を悟ると
どこかへ出て行って
人知れず
ひっそりと息を引き取る
というけれど
スリッパも
きっと
そんなふうなのだと思うよ

片方だけ
いなくなったのにも
なにか
特別な
理由があるんだよ

ほら
もう片方を見て
とても
辛そうにしてるじゃない
まるで
何か知っていて
それは
決して口外できない
というような風で

だから
もしか

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水たまり飛んだ

水たまりが飛んでいる
ひらひらと
ぶよぶよと
海月が
波に
揺さぶられるように
風に
揺蕩っている

そうっと近づいて
つかまえようとすれば
蝶のように翻って
蜻蛉のように逃げた

わたしの
悲しそうな瞳の色が
水たまりに映り
波を打つ

それでもっと
哀しくなって
へたり込んでしまう

不意に
頬が冷んやりして
顔を上げると
水たまりが
目の前を飛んでいる

もう
つかまえるのはやめて
ぼんやり

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肋骨に響いて息が止まるほど名を呼び呼ばれせめて夢では

朝の一杯のお茶は
一日の難を逃れるから
飲んで行きなさい


お茶碗の中は
レモンジュース

レタスの葉をめくれば
昨日見た天使が座ってる


あぁ
これもまた運命か

ケーキは均等に切らないと


「シャーレ」

「シャーレ」

風の強い初夏

外で黒猫が泣いている

母はとうもろこしを

三等分に切る

透けた黄色が

とても美しくて

うっとりする

あんなに黒かった群雲が

今は一面白い雲

風がぐんぐん追い払って

地球は本当は平らかもよと

うそぶいた妹の

気持ちがわかる

流れて流れて

SFのようにこの地球は

誰かの顕微鏡の先の

シャーレかと

目が眩む

時間よ止まれ