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雪野他屋敷

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ホラー度も恋愛度もそれ程高くない色んな小説を集めた物。
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記事一覧

【短編】“なるほど”

【短編】“なるほど”

 自ら命を絶つ時、私は一言“なるほど”って思った。
 小さい頃はあんなにも死ぬのが怖くて、死んでしまったらどうなってしまうんだろうって、魂はどこへ行ってしまうんだろうって、怖くて仕方がなかった。
 アニメを観るにも、漫画を読むにも、何に触れても凄く楽しかった。SNSを始めて、自分の呟きがいいねされた時の喜び、その数が増えた時、その内何のきっかけか、ニュースにも取り上げられるような存在になれた。
 

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【短編】意味無しティー

【短編】意味無しティー

「ミルクティーって美味しいなあ」
 その一言に意味はない。午前四時、トイレから帰った私は部屋の中で立ったまま一言、そう呟いた。周囲に人がいれば、その一言は呟けない。“急に何を言い出したんだ、この他人は”としか思われない。生きていくというのは、そういうことだ。何事も常に周りに人がいる。周りの人達と関わっていかなければならない。生きていかなければならない。
 それは、周囲に人の目があるからだ。自分は常

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【短編】シガーデス

【短編】シガーデス

 その忍びの村は少し異常だった。私達外の人間からしたら異次元に近かった。普段着は着物、今時電化製品、テレビゲームもスマートフォンも無かった。子供達の遊びはお手玉やけん玉、外との交流は唐傘を作り売る事。そんな村では唯一、村の真ん中にブラウン管テレビだけが一つあるのだ。
「うわぁ、自然がいっぱいな村だな……」
 私は思い切り空気を吸い込む──とても美味しい空気だが、小さな虫達が周りにいるのが気になった

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【短編】アネモネの手紙

【短編】アネモネの手紙

 校門の前まで着くと、スクールバッグから手紙を取り出す。何を考えているのか、数秒間見つめるとまたバッグに戻し、中へ入って行く女子がいた。
 彼女の名は"文乃(ふみの)"、高校三年生。容姿端麗、その上気配り上手で男女関係なく誰に対しても親切。そんな彼女にはそこそこファンというものがついており、その内の一人であるクラスメイトの女子"憧(しょう)"は、こっそりと遠くから彼女の様子を眺めていた。
 迷惑だ

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【短編】卵の道。

【短編】卵の道。

「これはプリンです。」
 そう女性が言い、指をさしたのは小皿の上に入ったただの生卵だ。何の変哲もない、丸い殻の中に乗っているであろう生卵、あのぷるんとした黄色と茶色の甘いスイーツではない。
 目の前の男性がそれを見て首を傾げていると、女性も同じく首を傾げる。「どうしましたか?」と女性に聞かれれば男性は「いいや、これは生卵です。」と答えるのだ。しかし女性は不思議そうにまた首を傾げた。
 男性は「何故

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【短編】一時的

【短編】一時的

 安井男寒(やすいおさむ)、二十歳の独身。コンビニで働きながらアパートで一人暮らしをしている。休みの日は住んでいるアパートで過ごし、一人スマートフォンで小説投稿サイトで本名を使い、オリジナルの小説を書いては投稿している。
 小説を書き始めたのは中学一年くらいの時だったと彼は思っている……そこら辺の記憶はあやふやだ。その頃からオリジナル小説を主に書いており、元の作品の設定を借りてひっそりと書く二次創

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