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生と死の詠ー短歌集ー

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記事一覧

時はただ小川のように絶え間なく 哀しみの舟を海まで運ぶ

夏来れば スイカ食べたい 病床の声駆け巡る母の命日

ひと休みするねと逝った 亡き魂のひとつずつ立ち昇る朝もや

鮮やかな 秋の銀杏は一斉に 涙のごとき落ち葉踏み踏み

糸引いて 記憶の底を手繰り寄せ 母の匂いの茶色いアルバム

幕引きに 選ばれしこの階段で 夜な夜な父の身になってみる

長き時 共に歩んだ亡き犬の 吠え声だけが年越ししている

もう吠えぬ 積もる粉雪犬小屋の 暮らしの音に穴の空くとは

老いた眼に永き記憶の蓋をして天へ抜けゆく犬の亡骸

春メダカ オスメス忙し追いかけて いのちは常に次世代を想う