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感情のエッセイ

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気持ちを込めて書いた文章
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#心

どうしようもない夜

どうしようもない夜

ケアマネ試験合格発表の日。酔いつぶれて朝を迎え、肝臓の苦しそうな声を遠くに聞きながら夜となった。祝勝会を求め、夫婦でちょっといい居酒屋にいった。

いつもなら最初の一杯はビールなのだけど、なんだか気分じゃなくてのっけから日本酒を頼んだ。日高見という、宮城のお酒だった。
お通しはポテトサラダ。水分多めのしっとりとした仕上がりのなかに、熱の通しすぎない玉ねぎの程よい食感。わけあって肝臓以上に悲鳴をあげ

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土足で入ってこいよ

土足で入ってこいよ

コミュニケーションに飢えている。
それが偽物であっても、自分に向けられる好意(のようなもの)に安心感を覚えてしかたがない。

むかしからそうだった。不良のパシりに使われる時、そこに仮初めの暖かさがあるだけで惨めさと同じくらいの嬉しさがあった。自販機の前で財布をわすれて困ってるやつに奢ったことすらある。たった120円で友達のような気になれるのだから、安いもんだった。

「ナメられる」というのは僕にと

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嫌いなままでいさせてくれよ

嫌いなままでいさせてくれよ

介護士は別に優しくない。端から見ればその職についているだけでという感じだけど、当事者に言わせればむしろ冷たくないとできない仕事だと思う。僕のような施設勤務の人は、特に。

なにせ老人というのは弱っていく。
まるで花が枯れるような速度で、昨日のあの人が過去になっていく。
歩けていた人が歩けなくなり、覚えていたことを忘れ、我慢できていたことが我慢できなくなる。

それを目の当たりにしながら、他人事だと

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冷酒のように味わって

冷酒のように味わって

夜。風呂上がりに涼もうと外に出る。ひんやりとした風が気持ちいい。
月がでている。そこいらのコンクリに腰かけて、ゆっくりと味わうように息をすいこむ。

日中に揮発した草や土の水分がいっぱいに溶け込んだ空気。ゆっくりと冷やされたそれが、ひとつの贅沢として僕をみたしていく。

あぁ、夏の夜の匂いだ。

季節を彩る香りのなかで、最も芳醇で豊かな味わい。味わうごとにいろんな思い出が通り抜けていって、火照った

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不良と優良

不良と優良

アニメやドラマで、不良が更生するくだりがたまにある。それ自体がテーマとされていることもある。

僕はあの流れが、どうにも震える。うるっとくる。
このあいだ、Amazonプライムで火ノ丸相撲というアニメを見ていた時も、涙が出た。

相撲部を荒らしていた不良グループのリーダーが、主人公により無理やり相撲部に入れられることになるのだけど。練習や交流を経るうちに自分がなにを踏みにじっていたか自覚していく

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隠れた琴線

隠れた琴線

高校生の頃、大事な友人との会話のなかで涙が漏れ、止まらなくなったことがあった。
それ以来、なんだか僕は涙もろい。

アニメやドラマなんか見たらもうだめだ。全然ストーリーを知らないドラマでも、それがグッくるシーンだと涙ぐんでしまう時もある。

昔はそんなことなかった。おざなりに言えば「人の痛みが分かるようになった」なんてことなんだろうけど、そんな単純なことだろうか。

熱いシーンやキャラが好き。絶望

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