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営業DXとは?まとめ・歴史・概要(1.5万字でセールステックの歴史を紐解き営業戦略に活かす)

弊社openpageは、デジタルセールスルーム製品として営業DX展示会への出展、ITmedia「新時代セールスの教科書」連載などの影響から、大手企業からの営業に関するご相談も増えました。

大手企業の営業責任者、営業企画、DX責任者など複数名お話をしたのですが、「Salesforce以外、正直よく営業DX全体像がわかっていない」「自社の営業戦略に役立てるように噛み砕いてほしい」という本音を聞くことが多くありました。

そこで、法人営業においてどのようなツールが、どんな背景で生まれたのか。その歴史と現状をざっくり振り返りながら、自社の営業DX化にどのように役立つのかという観点で解説したいと思います。

SFA以外の10以上の主要なセールステック(セールステクノロジー)のベンダーを洗い出しながら、適時固有名も出しつつ紹介しました。

紹介していくうえで、2000年代の営業DX、2010年代の営業DX、2020年代の営業DXの3つの世代に分けて解説をすることで、同じ営業DXといっても新しさや価値、テクノロジーに違いがあることを説明しています。

ー2000年代の営業DX

◯営業DXの元祖は「SFA」

営業DXの元祖はSalesforceのSFAでしょう。
営業入力による顧客情報管理ツールです。弊社openpageの取締役の壷内も、Salesforceの市場開発に邁進した人間なのですが、Excel管理 or 管理なしの状態から、営業部門がクラウドツールを使うという文化が出来たのはSalesforceの影響が最も大きいです。

Salesforceは1999年創業された会社で、Salesforceの代表マーク・ベニオフはもともとオラクル出身です。これはあまり知られていないのですが、マーク・ベニオフの上司はトム・シーベルで、オンプレミス型のSFAではトップ級のベンダーの代表です。

ただ、シーベル製品はとても高く、オンプレミスの製品のため導入にエンジニアやPMが必要で、日本円にして億単位のコストがかかるものでした。

Salesforceは、AmazonのようにWEBで使えるサービスをと開発されたソフトウェアで、クレジットカードで決済出来る。サービスのようにソフトウェアを導入できるSaaS(Software as a Service)を初めて提唱した会社です。 

SaaSは当時は画期的で、インターネット上でクラウド上で営業データを溜める考え方は、全く新しいものでした。
SalesforceはSaaSとして、クラウド空間に顧客企業情報、担当者情報、商談情報などを貯めていきます。
2010年代から日本の大企業の導入と進み、Salesforceのデータによると大手企業は9割以上がSFAを導入しているとのことです。大手の通信やSIの企業は、自社で導入しつつ代理販売する会社も多くあります。

しかし、 SFA運用の実態としては入力は手入力となるため、営業担当がSFA入力をサボってしまったり、レポートを管理者が上手く見ない場合、日頃の運用に回らない会社も多いです。
SFAのレポートデータを元に営業組織を改善するためには、前提として現場の営業マネージャーが計数管理に強くなければなりません。
数字やステータスに応じて営業担当に対して取るべきアクションをフィードバック出来なければ、営業力は改善しません。

とはいえ、なかなかそれが出来る営業マネージャーが世の中に多くなく、営業力の強化という点ではSFAを営業力の強化の観点で運用が回せてない企業様からも多くご相談があります。

私は、営業企画業務の経験をしたことがあるのですが、SFAは株主に向けたIRの報告などで、精緻な予実報告に活用できます。
ですので、実は営業の数値改善よりは、経営者や投資家への営業レポートツールのほうが実際のところなのかもしれません。

◯BtoBマーケティングを実現する「MA」

SFAのあとに普及した営業DXツールはMA(マーケティングオートメーション)です。
MAは、サイト構築、フォーム実装、メール配信などの機能がついており、主にメールを中心としたマーケティング活動の自動化(オートメーション)を行います。
マルケトやhubspotといった会社が2006年に設立され、SFAに次いだ営業DX用のソフトウェアとして普及しました。

MAの機能を具体的なイメージを解説します。まず、サイトなどにMAツールで構築したフォームを設置します。
そのフォーム入力をした顧客候補(リード)に対して、MAツールより自動でメールを送ることが出来ます。
MAから配信されたメールの開封や読了の状況をチェックすることができ、これを見て営業をかけるという流れで運用されます。

実はこのMAも、使いこなしは難しく、営業DXとして上手く回せている会社様ばかりではありません。
まず、フォーム入力数を増やすために、サイトに大量のトラフィックを集めないといけません。
そのためには、圧倒的な物量の広告投下、もしくはコンテンツマーケティングでの大量流入が必要です。

この自社サイトに人を集める仕掛けがないとMAでメールを打つリード数がたまらず、MAの本来の価値が発揮されません。

しかし、これに長けたBtoBマーケター自体がまだ市場に少ないのです。
まず、BtoBは広告の相性が悪いことがあります。多くのメディアはto Cの一般視聴者に向けたコンテンツが中心で、自社が訴求したい顧客候補にうまくリーチ出来ないことがあります。
主にFacebookやTwitterなどの運用型広告を活用することになりますが、一定の広告運用のノウハウが求められます。

とするとMAの前にサイトや広告のノウハウを持たなければなりません。つまりMAは営業部門で完結できるツールではないのです。

また、コンテンツマーケティングでサイトにユーザーを集めるには、製品ならびに製品関連分野への高度な専門知識が必要です。
検索エンジンやSNSユーザーが認める「信頼があって充実した情報」コンテンツを作成するには、相当の専門性が必要です。例えばIoT製品を販売するうえでコンテンツマーケティングをするなら、IoTの最新トレンドや業務活用事例など細かく知っていなければなりません。しかし、実際の製品販売や業務の経験がないマーケターが、付け焼き刃でBtoBのコンテンツを書こうとしても難易度が高いです。

また、サイトへの流入がうまくいき、メールが配信され、仮にそのメールの反応が良かったとしても、そこからアポイントを取る営業(インサイドセールス)の体制も必要です。

そのため、MAを使いこなすということは、サイトアクセス数、メール送信数、メール反応数、架電数、商談数という「マーケティングから営業」までの各種KPIを高めなければなりません。

すべてを設計しきり、実際に数字のいい反応を出すのはなかなか骨の折れる仕事です。営業 DXとしてMAをうまく使いこなすことをやれている会社とそうでない会社で分かれているのが実態でしょう。

ー2010年代の営業DX

◯SFAとMAを組み合わせたデータ・ドリブンな営業「インサイドセールス」

インサイドセールスとは、MAなどに蓄積されたリードに対して非対面で架電をすることで商談化する職種です。
インサイドセールスの歴史はさまざまに語られていますが、私の認識では、これもSalesforceが由来です。
Salesforceの初の営業責任者であるデイビッド・ルドニツキー氏が、「Salesforce11の営業ルール」にて、顧客に架電をするときに顧客の情報や繋がりをたどって電話をするように、と2000年代前半より営業部門を作っており、これがインサイドセールスの原点だと捉えています。

インサイドセールスは、MAに蓄積された顧客の反応データ(例えばサイトアクセスやメール開封など)がSFAと連携されているという前提で、SFAに蓄積された顧客データを元に架電をして、商談を取るという仕事です。つまり、 SFAやMAと非常に密接している職業なのです。

わかりやすぐ言えばテレアポなのですが、従来のテレアポと違うのは、顧客データの有無です。
全く知らない会社の知らない相手に架電する
場合と、担当者の情報がわかっていて、どのようなフォームに情報入力し、どんなメールに反応しているかわかっている相手に電話する場合とは、話の内容が全く変わってきます。

顧客のことをわかった状態で架電をするほうが、事前に課題やニーズを推測できる分スムーズな会話が出来ます。
おそらくこういったことに課題がある、情報収集してると思われるので、自社のソリューションが有効ですと、顧客の文脈に合わせてアプローチをするわけです。

いきなり話を聞いてくださいというより、「あなたの課題や興味にあった提案をするので話を聞いてください」と伝えたほうが、双方にとってwinwinです。

inside(顧客の内側)を理解して、insided(顧客の中)に入って会話をする。これはインサイドセールスに限らず、営業職すべてに求められる姿勢です。
SFAやMAのデータを活用し、非対面でセールスするインサイドセールスは、日本ではデジタルセールスとも言われました。

ただ、とはいえデジタルな顧客理解も重要である一方で、架電数自体も担保しなければ商談数が稼げません。
①顧客に合わせた連絡をする
②効率よく次々と連絡をする

インサイドセールスで商談数を増やすにはこの2点が必要です。

この2つを出来る能力を持った組織を作るという点ではツールだけでなく、組織開発の話にもなります。②の効率性だけを追求する組織は単なるテレアポ組織と変わりがないので、インサイドセールスと呼称するのであれば①の提案力の要素が不可欠です。

インサイドセールスは、SFAやMAといったツールを使いこなし、非対面でデータを活用しながら、効率よく最適な商談創出をする。MAで行われるBtoBマーケティングを実際の営業商談と結びつけ、会社の売上のエンジンとなる仕事なのです。

◯SFAやインサイドセールスを広めた書籍「THE MODEL」

THE MODELは、インサイドセールスの分業や、SFAによる顧客管理、MAによる顧客育成といった米国のセールステックを活用した新しい営業スタイルを一気に広めた書籍です。

そもそも、THE MODELのようにセールスをファネルで分けるというのは米国流です。オラクル、Salesforceのような外資企業のテクノロジーベンダーが主に実施している営業手法でした。

ですから、THE MODELの著書である福田さんは、SaaSやクラウドベンダーの一部の営業しか読まないだろうと想定して出版していたらしく、想像以上の広がりに驚いたようです。

米国では2000年代からSFA、MA、インサイドセールスとセットで、ファネル型の営業分業組織(マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセス)が流行ったのですが、日本では2010年代に徐々に広まります。
SFAのSalesforceやMAのMarketoが日本で広まったのが2010年代のため、ツール導入の遅れも影響しています。

THE MODEL出版の2019年時、日本企業の多くは参考はしつつも、実態としては訪問をベースとした法人営業を実施していました。
十分なリードがMAに溜まっている企業も少なく、ヨミ表の影響で顧客情報を管理するSFAはイメージがわくものの、非対面のインサイドセールスにピンと来ていない人も多かったでしょう。

実は私も、「訪問しないで営業ってどうやってやるんだ?」と初めてTHE MODELを読んだときには半信半疑でした。
その様相はあるキッカケで大きく変わります。それは、2020年から始まる新型コロナの普及です。

◯新型コロナによるリモートワーク化で「WEB商談ツール」の普及

新型コロナウィルスは2019年の12月に初の感染者が発見。翌年の2020年には感染抑制のための「リモートワーク」が一気に普及しました。
これにより、WEB商談ツールとしてのZoomやMicrosoft Teamsといった遠隔会議が当たり前になりました。
営業が顧客に会えないことをきっかけに顧客の情報収集自体もデジタルベースなものに大きく変化しました。

つまり、MAの前提条件だった、顧客が自ら情報収集をしてサイトにアクセスするという行動が増えたのです。
サイトにアクセスが集まると、フォーム入力が増え、MAを走らせるのが出来るようになります。
また顧客も非対面の商談を良しとするようになり、架電でのインサイドセールスのアプローチが機能し、そこからWEB商談ツールでスムーズに商談するということが自然になりました。
これは営業のデジタル化、営業DXの大きな転換期と言えます。

ー2020年代の営業DX

◯WEB商談から生まれた「商談分析ツール」

商談がリモートワーク時にWEBベースで行われるようになることで、WEB商談の分析ツール、商談音声解析ツールが登場します。
ZoomやTeamasなどのツールでは、ミーティングの動画を自動録画できる機能があります。
この録画データを活用して、商談動画を自動でテキスト化し、分析する技術を活用したツールが誕生しました。

海外ではGong、日本ではミーテル、AI lead、amptalkといったツールです。
商談分析ツールでは、話の抑揚、相手と自分の話のバランス、質問への受け答え、クロージングのトークなどが可視化されます。声色から感情を分析するようなツールも出てきています。

商談分析ツールにより、議事録でしか把握できなかった営業の商談の様子がわかるようになりした。
WEB商談から自動生成されたデータを見ながら、顧客へのアカウントプランニングを考えたり、営業担当を育成したりするということが出来るようになったのです。

◯デジタル営業を自動化する近未来ツール「セールスエンゲージメント」

SFA、MA、WEB商談といった営業工程におけるデジタル管理が増えるにつれ、生まれた新ジャンルの営業DXが「セールスエンゲージメント」ツールです。
米国では2014年に設立されたoutreach、国内では2018年より運営されているマジックモーメントplaybookが有名です。
※つまり、まだかなり新しい営業DXの領域です。

マジックモーメントplaybookの画面

セールスエンゲージメントのツールで行うことが出来ることは、営業業務工程の自動化です。
繰り返しになりますが、顧客への連絡がWEB商談化することで、メール、SNS、チャット、IP電話といったデジタルツールを介するケースが増えました。

とすれば、デジタルツールを活用した営業行動自体、デジタルで自動化できるのでは?と考えるのがセールスエンゲージメントツールの考え方です。

まず、SFA、MA、メール、WEB商談、電話といったあらゆるツールをセールスエンゲージメントの製品に接続(データ連携)します。
そのうえで商談工程を分析し、自動化できるロジックを設計します。例えば…

・商談X日後にメールでフォローする、といったタスクが自動発火される
・そしてそのメール文自体も自動作成される
・メール送信内容はSFAに自動連携される
・メールの開封有無がSFA、MAに連携される
・フォローメールが開封されたときにメールとSlackに通知される

といったような、一連の営業活動の自動化と自動記録をセールスエンゲージメントツールは行います。これによって営業の型作りや、営業のデータ蓄積が楽になるわけです。

ただ、私はこの分野の製品を「セールスエンゲージメントツール」と呼ぶ表現は、少しわかりにくいなと思いました。

セールスエンゲージメントと呼ばれるカテゴリの製品が行っていることは、要するに営業による顧客接点(先ほどのメールやWEB商談)のデータをひとまとめにして、タスクを自動発火させることです。

一元化されてるので顧客との関係構築に役立つ(エンゲージメントする、絆を深める)と言われていますが、カスタマーサクセスの専門家の立ち位置の私の感想としては、関係構築が促進されるようは機能は強くなさそうです。
あくまで営業のタスク自動化のイメージで、顧客との関係構築自体はセールスエンゲージメントの外にあるような印象を持ちました。

SFAがセールスフォースオートメーション(営業の力をオートメーション・自動化する)という表現ですので、感覚的にはSFAのほうがニュアンスが近いです。「SFA改」「SFA ver2」といったところでしょうか。

SFAとセールスエンゲージメントの違いは、他の営業DXツールとの接続、タスクの自動発火とデータの自動蓄積にあります。改めて考えても、エンゲージしてるというより「オートメーション化」している印象が強いです。もちろん、これは悪いことではありません。

SFA導入後につまづくのは、SFAへの入力や、SFAのデータを見てアクションを取る、ということですので、これを補助するようなツールは確かに必要です。営業の関係性構築よりは営業の生産性向上の立ち位置かと私は捉えています。

◯相性のいいターゲット顧客の営業リスト作成「ABM、インテントセールス」

コロナ禍のインサイドセールスの高まりの前後で、自社のBtoBマーケティングで獲得したリードだけではなく、戦略的に自社に相性の良い顧客を探してアプローチしたいというニーズが生まれました。
また、一概には言えないものの、大手企業の決裁者は若いベンチャー企業と比較したときに、そもそもWEB上で情報収集することをしない傾向にあります。

そこで、営業リストや営業ターゲットの自動作成をするようなツールが誕生しました。
AMB(アカウントベースドマーケティング)、インテントセールスと呼ばれるジャンルの営業DX製品です。
これらのツールは、自社でリードを保有していないものの、相性が良いと思われる営業先のリストを自動作成して、営業アプローチの効率を高めます。

営業活動がデジタルになる昨今、顧客のSNSや検索エンジン上の行動といったデータ量が増えています。
また、法人番号をベースに法人企業がリスト化されたり、帝国データバンクの企業データもデジタル化されたりと、法人企業のデジタルリスト化が進んでいます。

企業リストに加えて、検索・SNSなどのCookieデータをマージすることで、リッチな顧客リストを作成できるようにする。そのうえでアプローチするべきリストやターゲットをAI機能を活用しながらデジタル上で作成する。
こちらがABMやインテントセールスの仕組みです。

米国では、2019年にビジネスパーソンDBのM&Aとともに設立されたZoominfo Technologiesが最も有名です。
日本では、FORCAS、Sales Marker(セールスマーカー)、LeadPool、ユーソナー、Musubuといった製品が類似製品です。

批判的な目で見れば、勝手にデータを集めて、勝手に営業アプローチをするわけなので、辛辣な言い方をすればストーカーツールです。
ただし、肯定的に見れば、より自社の相性のいい企業や担当を見極めてセールスをしようという、インサイドセールスの哲学にも合ったツールだと思います。

インサイドセールスはこのAMBやインテントセールスのツールを活用して電話営業のアプローチをします。外資系やIT企業では「BDR」と呼ばれるアウトバウンドの営業チームがキーパーソンへの営業活動に用いています。また、実は手紙ツールと組み合わせて使われてることも多くあります。
手書きのフォントを真似て郵送できるようなサービスも登場しており、営業リストに対して直接送付するわけです。
相性の良い企業や担当者を発見し、その相手に手紙を郵送することをちゃんと行えば、1to1の内容で顧客視点の情報提供ができます。

しかし、この領域で留意するべき観点はCookie規制や個人情報保護についてです。
私はもともとはアドテクノロジーの業界で働いていたのですが、広告マーケティングの世界では、自社ではない外部サイトのCookie(3rdPartyCookie)の活用に規制がかかっており、これを活用した製品はほぼすべて事業変更を余儀なくされました。

JR東日本のSuicaデータの外販が過去炎上したなど、マーケティングにおいては第三者のデータ活用のトラブルが相次いでいます。

セールスにおいてもデータの扱い方を間違えれば同様のトラブルがあると想定し、顧客情報に対するガバナンスを持つべきです。自社が保有していないデータへの扱いについては、セールスマーケティングの活用における一定の自主規制や倫理観が求められるでしょう。

◯顧客の圧倒的な一次データを持って伴走する「カスタマーサクセス」

マーケティングの世界ではCookie廃止に対応するべく、自社データ中心のデータ投資をし、既存顧客をベースに売上を最大化する方向へと切り替わりつつあります。
セールスにおいても同様に、自社保有の顧客データを膨らませ、既存顧客との関係性を強化する営業活動を推進していくカスタマーサクセスが期待されています。

米国企業では、既存顧客の営業売上の伸び率「NRR(売上継続率)」をIR上に掲載する企業が増えており、既存営業を重視する動きも進んでいます。
これまでの解説は新規の営業受注をメインに話をしていましたが、カスタマーサクセスは既存顧客の基盤をうまく活用しながら、いかに既存営業の売上を高めていくかに焦点が当たっています。

カスタマーサクセスの認知度が上がったのは、米国で2016年、日本では2018年に出版された、通称「カスタマーサクセスの青本」からです。
書籍ではカスタマーサクセス10の原則と呼ばれるカスタマーサクセスのフレームワークが紹介され、業務や職種のあり方が啓蒙されました。

こちらの書籍をまとめあげたのはGainsightで、2010年代初旬でカスタマーサクセスのフレームワークを構築し、2016年に書籍出版、2020年にPEファンドのM&Aによりユニコーン企業となった会社です。

Gainsightの特徴は、SFA、MA、加えて契約管理システムや、コールセンターシステム、SaaS/クラウドの自社製品自体などと接続し、顧客の状態を可視化するヘルススコアを設計できる機能にあります。

既存顧客に対し、部署拡大、利用者拡大、契約製品拡大を促すことで既存顧客の営業売上を最大化するには、既存顧客の営業のシグナルやロジックとなるようなデータが必要です。
そのデータを整理したり、新たに生み出したりするツールがカスタマーサクセスツールなわけです。

Gainsightは定量データに強いのですが、弊社のopenpageは定性データに強いカスタマーサクセスツールです。2019〜2020年にopenpageはローンチされましたが、顧客課題、顧客とのネクストアクション、商談議事録、顧客の担当者ごとの興味などのデータを蓄積し、顧客に対してどのようにアカウントプランニングを立てていくか考える機能を実装しています。

先ほど紹介したインテントデータに、さらに生の取引を通じた顧客の情報を格納していくことで、顧客の像がよりはっきり映るようになり、深いソリューション提案が可能になります。営業DX観点でいえば、カスタマーサクセスツールはソリューション営業のためのツールと捉えても間違いはありません。

日本企業においては大手企業の営業活動は実態として既存営業が多く、カスタマーサクセスに近しい動きをしています。
とはいえ、カスタマーサクセス職種と呼んでいるのは、大手企業よりはベンチャー企業のSaaS事業者が行っている活動のほうが印象として強いです。

しかし、カスタマーサクセスとは呼んではいない場合においても、既存顧客に対する営業を行っている会社は数多く、顧客データをもとに踏み込んだソリューション営業をする会社を中心にカスタマーサクセスはより広がっていくと思われます。

◯営業担当をデジタルに育成・サポートする「セールスイネーブルメント」

新型コロナウィルスによるリモートワークが普及し、営業DXに多くの会社が投資をしました。
リモートワークにより苦労するのは、従来は勉強会やOJTで育成できていた営業担当を、デジタルの手段で育てないといけないということです。
昔からセールスの育成ツールはありましたが、デジタルでの営業育成の強化に各社がより一層積極的に乗り出しており、「セールスイネーブルメント」と呼ばれるツールへの投資が加速しています。

セールスイネーブルメントツールは、主にドキュメントやコンテンツを活用した顧客や従業員の育成を行うツールです。
お客様はWEB商談と資料で製品導入を判断することが増えてきており、セールスコンテンツの整備と、そのコンテンツを活用した営業活動が重要になっています。

セールスイネーブルメントツールは、営業に関するあらゆるコンテンツを整理して、社内に共有したり、これを使って育成したり、顧客共有に使ったりといった機能が実装されています。その意味では、営業コンテンツの管理ツールとも言えます。

日本ではベンダーとしてはナレッジワークが有名であり、コンサルティングとしてはSalesforceでセールスイネーブルメントの本部長を務めたR-Square & Companyの山下貴宏さんが有名です。両社ともに書籍も出版し、2020年前後からセールスイネーブルメントの取り組みを啓蒙されています。

米国では2012年に設立されたhighspotが、2億4800万ドルの資金調達を行い、800万人以上の営業担当が同社のセールスイネーブルメントの恩恵を受けていることを発表し驚かされました。

私の感覚としても、SFAは正直、営業力を上げるツールというよりはモニタリングや報告のツールだと捉えており、営業業績を上げる観点では、セールスイネーブルメントツールに期待しています。
営業成績は顧客への提案をいかに適切なものにしていくのかが重要ですので、営業コンテンツを整備して従業員に教え込むほうが、直感的にも営業力が伸びるイメージが湧くはずです。

弊社openpageもセールスイネーブルメントツールとしての活用が今年に入ってから増えており、営業担当が提案するうえでどんな内容の提案をするべきなのか、セールス用のコンテンツを整備することで営業活動の型化や水準向上を狙うプロジェクトが多くなりました。

SFAの次のステップは、営業へのナレッジや武器の提供です。
従来から営業研修は行われていましたが、より営業現場に踏み込んで営業の成績を高めるための育成や情報提供という観点でマネジメントや企画を行う組織が増えています。

米国企業では、営業マネージャーが数値目標とともに育成目標も提出する会社もあるようです。WEB商談ベースに変わることで、商談の録画データにフィードバックするような営業DXの製品も出てきており、営業担当のどこに改善点があるのか商談分析し、育成計画を立てられるようになりました。
営業成績を上げるために必要なセールスコンテンツを用意して教育を行うというのが最先端の成長企業で当たり前になりつつあります。

営業担当が提案力を上げなければならないという事情は、実は米国ではより顕著です。2023年現在、ウクライナ紛争の影響もあり世界的な不況期がつづていおり、米国では顧客の法人取引(つまり営業シーン)においても、自社のROIに合わない製品は営業担当のプレゼンを聞いても契約しない厳しい態度を見せるようになっています。

そうすると、営業担当に求められるのは、顧客に合わせた提案、本当に顧客の期待に応え、顧客が成功する(カスタマーサクセスする)提案を行わなければなりません。顧客の課題や目標を理解して、より高い提案力で顧客の課題に応えなければならないのです。

◯バイヤーイネーブルメントを実現する営業DX「デジタルセールスルーム」

お客様向けの提案を作り込み、顧客の真のカスタマーサクセスを叶える提案をしていくという点では、デジタルセールスルーム(DSR)の製品が期待されます。
デジタルセールスルーム(DSR)は営業担当が顧客向け提案サイトを構築できる営業DX製品です。

これまでの説明の流れからも、営業におけるあらゆる工程がデジタル化されてゆきました。
すべてを導入するなら、顧客情報をSFAで管理し、MAでナーチャリングし、WEB商談をして、商談分析ツールで分析し、商談前後の工程はセールスエンゲージメントツールで自動化し、契約後はカスタマーサクセスツールで売上最大化を狙う…といったあらゆる営業の側面で「デジタル」が絡んでいます。

そのうえで、いま米国を中心に話題になっているのは「営業成績を高めるには営業担当だけをDXしたり、能力開発するだけではダメなんじゃないか」という論調です。

法人営業のシーンでは、実は営業担当が顧客のすべての人を説得して受注するのではありません。
なぜなら、企業は合議体だからです。営業担当の話相手となる「顧客の担当者」が、新しい取り組みを始めたいと社内に企画をあげて、周囲を説得した上で購買をするのです。
仮に社長や役員が相手でも、法人であればチームで仕事をしているので、各部門の課題やニーズ、会社としてのガバナンスなどを加味して取引先を選びます。

とすると、実は営業担当だけでなく「顧客の担当者」も社内説得に向けて「社内営業」を頑張ってもらう必要があるのでは?という観点が生まれます。
米国の企業では購買活動に平均7名以上の人間が関わると言われています。
複数人の合意形成をするのは大変です。会社内の全社や部門の方向性、そして会社内の各人の思惑を尊重しながら、会社の成長に向けて正しい意思決定をするよう、働きかける必要があります。

しかし、これまでの営業DXは営業担当者に向けた製品であり、「顧客担当者による社内説得」に焦点を当てたツールや製品はこれまでありませんでした。ここに着眼点を当てたのがデジタルセールスルーム(DSR)です。

デジタルセールスルーム(DSR)は、顧客が社内説得できるロジックや情報提供を、営業担当と顧客とで「共通で」作っていくという発想をしています。
ルームは部屋という意味ですが、取引先として案件を一緒に進めるためには、一方的に提案をするというよりは、一緒に議論して前に進んでいくあり方のほうが望ましいです。
法人取引においては新規取引は仕事を一緒にする新しいパートナーになるということですので、同じ方向を向いていけるかが契約後のことを考えても非常に重要です。

具体的な仕組みとしては、営業担当者がデジタルセールスルーム(DSR)と呼ばれる「営業用サイト」を発行し、こちらにお客様を招待します。
この中で、顧客の課題や方向性などを共に整理し、お客様が社内に説得するためのロジックやネクストアクションを整理していくのです。
顧客としては、自社で新しい取引先に発注するために、どのように社内に説明していけばいいのか。どんな手順でこの案件を実施、成功に進めていけるのかをデジタルセールスルーム(DSR)の中で確認することが出来ます。

顧客の社内説明力が高まれば、結果として営業の成約率や成約リードタイムが良くなります。
openpageはデジタルセールスルーム(DSR)のカテゴリでは2020年より利用されている国内初の製品であり、お客様と情報をオープンにし合うサイトという意味で「openpage」と名づけました。

バイヤーイネーブルメント、買い手側をエンパワーメントするという概念を営業担当が持つことで、営業は「売る」のではなく「買う」ためにサポートをする仕事なのだ。という本質的な視点が養えます。

もっといえば「お客様が成功するために買う」「買ったあとにお客様を成功させる」というカスタマーサクセス観点も、個社に向き合う提案をする中で営業担当に備わせることが可能です。そうすると、単にセールス活動をデジタル化するに留まらない営業力の本質的な強化をDSRは実現させるのです。

デジタルセールスルーム(DSR)が現状の営業DXツールの中では最も新しいジャンルのため、今後どのように普及していくかに期待です。

◯営業データを接続させる「iPaaS」

これまで様々な営業DXツールを解説してきました。同じ営業向けのツールでありながら、複数の分野のツールが登場していることがわかると思います。

様々なツールがありますが、最も普及しているのはやはり営業DXの元祖であるSFAであり、SFAを顧客情報の基盤にすることになるでしょう。
そうすると、この顧客基盤となるSFAに対して、それぞれのツールに入った顧客情報をマージして格納させたいというニーズが生まれます。

マーケティングにおいても、複数のデータソースをマージさせるDMP(データマネジメントプラットフォーム)、CDP(カスタマーデータプラットフォーム)といったデータを統合するようなソリューションが人気となりました。
これは営業活動でも同様のことが起こるでしょう。

営業DXにおいては、各製品のAPIを介して、顧客データをSFAに格納するiPaaS (Integration Platform as a Service)が鍵になるでしょう。
lPaaSはデータを統合したり一元化するためのソリューションであり、営業DXの文脈では主にSalesforceに他ツールのデータをインテグレーション(統合)する目的で使われることが多いです。

SalesforceもMuleSoftと呼ばれるiPaaS製品をを2021年に買収しています。
米国ではZapier、Workatoが有名で、日本では大手SIerのセゾン情報システムズがHULFT Squareをリリースし事業開発を強化しています。
国内ベンチャー企業では株式会社MerがMakeを利用したlPaaSの支援事業を行っています。


用意されたAPIのみでプロダクト間のデータを繋ぐにはエンジニアが必要だったりするのですが、iPaaSソリューションはエンジニアなしで管理画面で簡単に接続できるため、営業部門がワークフローを考えながら設計することが可能です。
複数の営業DX製品を使う場合に、ツールごとにそれぞれデータが溜まるのは仕方がありません。
米国企業は日本の10倍ほど自社にSaaS製品を導入していると言われており、そうするとiPaaSのようなデータ接続を行うことで営業データを一元化することが営業上必要になります。
米国では、SalesOps、BizOps、RevenueOpsといった、テクノロジー・データ・業務フローを最適化する「Ops(オプス、オペレーション)」職種が人気職種になっております。日本においても同様の動きは盛んになると考えられます。

ー営業DXの最新製品「openpage」

◯デジタルセールスルーム(DSR)としてのopenpage

弊社openpageは、カスタマーサクセスツール、セールスイネーブルメント、デジタルセールスルームの機能を有した製品です。
2019年にカスタマーサクセスツールとしてローンチされ、昨今ではデジタルセールスルーム(DSR)の製品として営業DX展示会にも複数出展展示会における最も人気のセールステック製品の一つになっています。
カスタマーサクセスとしての発信は多くしているため、今回はデジタルセールスルームとしてのopenpageの側面を紹介します。

営業担当者の手で、顧客向けの提案サイトが作れるというのは画期的で、先日出展した営業DX展示会では、出展企業の中でも最も多くのリードを集めた企業がopenpageでした。

デジタルセールスルームの良さは、営業マンとしての取っ付きやすさ、直感性にあると思います。「営業が提案書ではなく、提案ページを作ってくる」という話なので、イメージがしやすいです。

色々なツールを紹介しましたが、MAは機能させるにはマーケターやインサイドセールスが必要となるため、純粋なセールスツールではありません。
SFAは、先述したとおり営業現場のツールというよりは経営層へのモニタリングツールの側面が強く、営業力自体はつきにくいです。

その点、デジタルセールスルームは営業担当が手元でさくっと作れて、顧客への提案を作り込み、ネクストアクションを共有するという一連の流れをデジタルにするもの。中小企業様の第一歩の営業DXツールや、大手企業様の SFA導入後の次のツール投資として進めやすいのです。

openpageは、弊社自体での活用や、大手企業の営業組織の活用、中小企業の営業現場の活用とそれぞれ進んでいるところですが、デジタルセールスルーム(DSR)として正しく運用がなされば営業の受注率は確実に高まり、営業のデジタル化や型化が出来ます。

営業DXの歴史の中で、様々なツールを解説してきましたが、私がセールステックの領域で一番好んでいるのがデジタルセールスルーム(DSR)で、カスタマーサクセスを実現する営業を最も体現するものだと思います。

営業DXやデジタルセールスルーム(DSR)にご興味がある担当者の方はopenpageにお気軽にお問い合わせください。