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小川志津子の文。

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20年来取り組んだライター職を離れたアラフィフが、日ごろ見聞きし感じたことを記す随筆マガジン。
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2019年12月の記事一覧

「シゴトイキタクナイ」。

「シゴトイキタクナイ」。

ついに、出た。出てしまった。妖怪「シゴトイキタクナイ」。

今年の2月から、とあるコールセンターで働いている。ずっとフリーランス稼業だったし、「会社勤め」というものに縁遠いまま大人になったので、毎日同じ場所に通って働くことは、ほぼ初めてと言っていい。その日々はとても新鮮だ。首から社員証を下げること。休憩室で、同期の仲間とお昼を食べること。決まった時間に、決まった席へ行けば、決まった仕事があること。

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「せずにおれない」は、美しい。

「せずにおれない」は、美しい。

あなたは、M-1グランプリを観たか。

私は、「お笑いファン」ではない。ライブに足を運ぶわけでもないし、芸人さんたちの動向を逐一チェックしているわけでもない。でも、M-1だけは別である。「スポーツには詳しくないけどオリンピックだけは観る」のとたぶん似ている。昼間の敗者復活戦から、M-1の日は1日空けて、家で、テレビの前に陣取る。ごはんとか、好きなお酒とかは全部準備しておく。そしてどっぷり、観る。観

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ピンチの竜巻に巻かれても、生きてる。

ピンチの竜巻に巻かれても、生きてる。

2019年を振り返ると、だいたいの出来事は、7月以降に起きている。7月以前のことがあまり思い出せないくらいに、それはそれは濃ゆい下半期だった。

①大人なのに「手足口病」にかかる
②愛機MacBookが破損、真っ白に初期化
③給湯管の老朽化でリビングの床から浸水
④身内が高いところから落ちて大怪我
⑤メールアドレスが乗っ取られる
⑥派遣バイト先の親会社が業務停止命令
⑦長年の超お得意さま雑誌が休刊

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40過ぎ、自分の体型を語る。

40過ぎ、自分の体型を語る。

当方、46歳女である。ここへ来て、ついに禁を破ってみる。
自分の体型について、しっかり語ってみようと思うのだ。

ずーーーっと、触れてこなかった。周りに対しても、触れてくれるなオーラをガンガンに出してきたと思う。客観的にみて私は、笑いが取れるレベルのデブっちょだ。なのに私は、せっかく取れる貴重な笑いを、一切取らずに生きてきた。

なんでかなーって考えて、46歳にしてようやく、腑に落ちたものがあった

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インドア人間、焼き魚に憧れる。

インドア人間、焼き魚に憧れる。

筋金入りの、インドア人生である。

とにかくおうちが大好きだ。休みの日は、極力、うちから出たくない。朝起きたら、カーテンを開けて、まずテレビをつける。「あさイチ」を観ながら、うとうとと余裕の二度寝をキメて、番組が終わる頃にのそのそと起き出し、コーヒーを淹れ、「ノンストップ!」にチャンネルを替える。ベッドの上で壁にもたれて、ノートパソコンを膝の上で広げる。仕事をしたり、SNSを眺めたり、こうして文章

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「私」が剥がれ落ちる夜。

「私」が剥がれ落ちる夜。

派遣の同期の何人かで、飲みに行ったときのことだ。

それはわりと出席率の高い集まりで、すでに辞めていった面々にも声をかけていたので、飲み屋の一角を貸切状態で、わいのわいのと騒いでいたのだ。

そういう集まりは往々にして、「せっかく来てたのにほとんどしゃべってない相手」が多発する。なんだよー、しゃべれなかったじゃんよー。帰り際、エレベーターの前とかで、何人かと肩を突っつきあっていたときのことだ。

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わたしがサンタの正体を知った日

わたしがサンタの正体を知った日

その年のクリスマス、私は、キャンディ・キャンディの「かんごふさんバッグ」が欲しかった。

それはもう、とても欲しかった。赤と白で彩られたフォルム。あらゆるお手当てごっこができるグッズの数々。ああ素敵。欲しい。とても欲しいと私は思っていた。

クリスマスイブの午後。おかあさんと遊んでいると、電話が鳴った。「たぶんおとうさんだよ」っておかあさんが言うので、わーーっと私が電話をとった。

ほんとに、おと

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20年来のメアドを捨てた夜。

20年来のメアドを捨てた夜。

このたまご焼きと焼酎ロックを、うきうきと摂取していた頃は、まだ、知るよしもなかったのだ。

戦いの火蓋が切って落とされたのは、昨日の20時27分。このとてつもなく半端な時間帯から一晩中、私あてのメールが、1分に15本、つまり4秒に1本、それはもうエンドレスで押し寄せた。

ちょっと目を離したら、未読数が「300」とか「400」とかを軽く超える。送り主はどれもまるで身に覚えのない相手だ。だって、みん

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できないなら、笑え。

できないなら、笑え。

かなり最近まで、つまりだいぶ大人になるまで、とてもよく見る夢があった。

座っているのは教室だ。黒板の横に時間割が貼ってある。それを見て私は思うのだ。

「ああ……次、体育の時間だあ……」

子どもの頃、とにかく体育が嫌いだった。それから、移動することも。一度座ったら、極力、そこから動きたくなかった。いまから立ち上がり、着てる衣服を着替えて、わざわざ校庭や体育館に移動して、なにをするのかって言った

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履歴書が、おもしろかったよ。

履歴書が、おもしろかったよ。

生まれた時点で、過酷な人生は決まっていた。第二次ベビーブームのピーク世代。ありとあらゆる試験が、試練が、とんでもない競争率とともに襲い来る。クラスの人数もめちゃ多い。だから大人の目はすみずみまで行き届かない。だいたいのことについて、「その他大勢」として生きていく。そんな術を、折々に握りしめながら生きてきた。

そんなふうだから、そもそも高望みをしない。飛び抜けたことをして褒めてもらおうとか、抜きん

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ついていけるかしら。

ついていけるかしら。

久方ぶりにシブヤへ出た。あっという間に人酔いした。顔をあげたらクラフトビールのお店があって、喉も渇いたし、おなかも空いたし、ひと休みしたくて入ってみたのだ。

ひとりで飲み屋さんに入ることを、躊躇する季節は遠い昔に過ぎた。美味しいものが食べたいときに、一緒に行ってくれる人を探す時間がもう、もったいない。仮に見つかったとして、じゃあいつにするう? いつでもいいよぉー? じゃあどこにするう? どこでも

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「くやしい」は、宝だ。

「くやしい」は、宝だ。

コールセンター勤めの昼休みには、TBSラジオを聞くことにしている。フリーライター期、仕事に恵まれなくてクサってた頃、自宅で毎日TBSラジオを聞いていた。朝、昼、夕方。決まった時間に決まった顔ぶれが現れて、決まったコーナーと決まった番組を聞いていれば1日が過ぎた。生活情報から社会問題まで、あの頃の私にとってTBSラジオは「窓」だった。ラジオをつけていれば、外の世界と、つながっていられた。

毎日決ま

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絶対そうなんすよ、たぶん。

絶対そうなんすよ、たぶん。

インタビューの録音を文字起こしする、という仕事をするようになって、長らく経つ。誰かが夢中でしゃべってる様を、その場にいない私が文字にする。とっても奇妙で、とっても面白いお仕事。

ちょっとした言葉尻ひとつで、話し手の気持ちがとてもよくわかっちゃう瞬間があったりする。ほんとうは、自分のことを、こう見せたい。そのために、今の質問には、こう答えておこう。そんな心の機微が、ほんの一瞬の呼吸に、あふれかえっ

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「おしまい」って安心する。

「おしまい」って安心する。

年末が、好きである。

もうほんとに、それはそれは好きである。もちろん、花々が咲き乱れる春の季節も、紅葉が街を染める秋の季節もいいなと思う(夏ははっきりと嫌いだ、夏生まれなのに)。でも12月になると、はああーー好きだ、って毎年思う。これはなんだろう。

そもそも私は「終わり」が好きだ。子どもの頃から、朝よりも夜が、始業式よりも修了式が、入学式よりも卒業式が好きだった。だって、「始まり」って、緊張し

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