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【短編】『宇宙大戦争』

宇宙大戦争


 とある二つの宇宙間で二つの勢力の対立があった。それは物質勢力と反物質勢力である。両勢力は、同じ進化、同じ文明、同じ時間を辿っていた。言うならば、左右対称の全くの同質な存在なのである。分かりやすく説明しよう。今あなたは宇宙に唯一無二の存在と考えているかもしれないが、遠い向こうに全く同じ身体で全く同じ考えをするもう一人の自分が存在するのだ。そして、それは人に限らず物質と呼ばれるもの全てに対して言えるのだ。

 しかし、それには問題があった。今自分がいる事実がある一方で、対になっているものも存在するということは、同時に何もない「無」を示唆した。と言うのも、もし仮に自分がもう一人の自分と遭遇してしまうと、お互いが打ち消し合って、消滅してしまうのだ。そして、物質勢力の人間と反物質勢力の人間はそれぞれ、無となる可能性、未来に対して恐れを抱いたのである。それを解決する唯一の方法があるとするならば、一方が片方を殺して生き続ける以外ないのだ。こうして両勢力の対立は始まった。

 両勢力は、一方を消滅させるべく緻密な戦略を立てた。どちらも一番危惧していたことは、戦の最中の両者の消滅であった。自分の一番の敵が反対勢力にいるもう一人の自分であることは既知の問題であった。そのため、もう一人の自分を消滅させることは、自分以外の者でのみ可能だった。だがそれが非常に難しいのだ。自分以外の者を殺しに行った反面自分自身に遭遇してしまう恐れもあるので、安易に相手側の宇宙に侵入できないのだ。そして、不運なことにもし仮に自分が相手側の宇宙に行くと、もう一人の自分を引き寄せてしまうのだ。結局のところ、物質世界、反物質世界は一つの鏡で対になっており、完全に物質・反物質的に表裏一体であった。

 反物質勢力では、いかにして武力によって差をつけられるかということを計算して、戦略を立てていた。物質勢力側が我々と同様の動きをするならば、いかにして消滅を防ぐかを考えたが、お互いに遭遇した際にはそれは防ぎようがないことも薄々感づいてはいた。つまり、闇雲に戦うしか手段はなかったのだ。同様に、物質勢力側も闇雲に戦わざるを得なかった。

 年月が経ち、お互いの戦力も減りつつある中、勝機を見出したのは物質勢力側だった。先ほど両者の動きは表裏一体と言ったが、一つだけ両者異なることがあった。それは精神というものであり、精神は物質・反物質に関係なく自由な存在であった。物質を介して感じる痛みや、ホルモンによって左右される感情などは、物質・反物質に関わるために両者同一であったが、精神という名の信仰や信条などのより深層に位置づけられているものは、物質・反物質に縛られないのである。それに一早く気づいたのが、物質勢力の人間だったのだ。

 物質勢力側の人間は考えた。この戦の行末は見えている。お互いに消滅しあって「無」となるのだ。それが自然の摂理なのだとしたら、尚更我々は争うことができない。このまま、互いに消滅しあったところで、我々は得るものが何もない。だとしたら、この戦で重要になってくるのは、どうやって消滅しないようにするかではなく、どのように消滅するかではないだろうか?と消滅する運命に対する心構えを唱えた。こうして物質勢力側の人間は戦に没頭しながらも、個々で悟りを開くことに注力した。そして徐々に、皆存在したことへのありがたみ、消滅することを受け入れる姿勢を習得していった。両勢力は互いを攻めようとする勢いでそのまま打ち消し合い、消滅していった。反物質勢力側は立てた戦略も全くの意味をなさず、続々と戦力を失い消耗していった。一方で、物質勢力側は、戦の終わりを見据えて、自らを誇り高き戦士として崇め、もう一人の自分に向けて直進していった。

 ビッグバンによって物質・反物質が誕生してから、かれこれ100億年が経った今、初めて宇宙が幕を閉じようとしていた。とその時、奇跡が起こったのだった。物質勢力と反物質勢力がお互いを打ち消され無となる寸前、ひとかけらの光が宇宙を漂い、物質と反物質の人間が融合した存在がいくつも現れたのだった。

 こうして生き残った、あるいは新たに生まれたのが、我々人類なのであり、永遠と孤独に生き続けることを運命づけられた唯一無二の存在となったのだ。


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