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脳みそジャーニー【16】 あーしんどい! やってられないよ!

週を追うごとに下がり続けるHPの値。
抗がん剤治療は、私にとってもはや何のメリットもない、ただの「理不尽な罰ゲーム」に変わってしまいました。

こんなとき、「今は苦しいけれど、同時にガン細胞も叩かれて苦しんでいるんだから頑張ろう」などの前向きなブログなどを見つけては、「ケッ!」と悪態をついていました(笑)

(ふん!! 副作用の強さと、抗がん効果は比例しないんだよ!! 苦しいからって、効いてる訳じゃないんだよ!!)
そんな愚痴が、心の中を充満していました。

当然のように、日常生活は荒れていきました。
もともと、それほどきれいな部屋でもありませんでしたが、一層雑然としはじめ、冷蔵庫の野菜が放置され腐り、何かの支払いはうっかり忘れてしまう。

夫からは「闘病中は、ちゃんとやってもらいたいことは、はっきり言わないとだめだよ」と言われていたにも関わらず、頼み事が下手でした。

忙しい夫に対し、遠慮があることも理由ですが、当たり前にできていたことができなくなる自分に耐えられず、無理をしてでも家事をしようとしてしまうのでした。

布団からどうにか立ち上がって、レタスときゅうりを洗って、ザクっと切って大皿に盛り、「サラダが作れた」と喜び、ラップをして冷蔵庫にしまうと、ふらふらとまた布団に戻って、ハアハア息を整える。

私は「女として」「妻として」「家事をする」ことに、こだわっている。

そして、こだわっていることを、当時の、私の脳みそは、気づけませんでした。

乳がんではなく、別の病を勃発している私

そばで見ている夫からしてみれば、私がじっと寝ていてくれた方が、どれほど安心できたでしょう。

これでは母に、「男女の対等な関係」について、偉そうに語る資格などありません。

まだ自分の自己肯定感が低いことに無自覚だった私は、そんな悲しい無理を重ねなければ、自己を保てなくなっていました。

普段は「料理なんか、面倒くさい」と思っていたくせに。
何もできない寝たきりの自分には、我慢ならないのです。

友人たちからは、私を心配するメールが届きます。
その端々から、ごく普通の、元気で何気ない彼女たちの暮らしぶりが、キラキラとこぼれ落ちてきます。
相手が意図せずとも、病人の私は、他者の「当たり前の暮らし」を、強く嗅ぎ取っては、うらやんでいる。

普通に、働けること。
普通に、家庭生活を送れること。
うらやましい……。
うらやましすぎる……。
喉から手が出るほど欲しい「普通のくらし」。


……ああ、私はまた「弱者の立場」になっている。
このような気持ちのときには、ろくなことを考えません。

(私の乳がんのタイプは、そう遠くないうちにどうせ再発する……抗がん剤なんか、やるだけ無駄……)
いつもの恨み言が、腹の中に溜まってゆくのでした。

鏡には、この世のすべてを呪った中年女が、生気を失ったまま、こちらをにらみつけるように映っていました。髪の毛が中途半端に薄らはげ、眉毛やまつ毛が抜け落ちたバケモノみたいな顔。
目が落ちくぼんでいるのに、抗がん剤によって顔全体はパンパンにむくんでいる。それはもうはっきりと病人だと分かる顔つきでした。

頬の周りに、ゾワッと増えた黒っぽいシミ。
抗がん剤の副作用に色素沈着があることは聞いていましたが、実際に茶色っぽく黒ずんでくると、想像以上にショックでした。思わず鏡の前から目を逸らすと、また布団に戻り、丸くなる。
一日一日を、呪って生きる私なのでした。

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