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山本崇一郎 『それでも歩は寄せてくる 』 : 絶妙な設定で 微妙にズラす

書評:山本崇一郎『それでも歩は寄せてくる 』第1巻(講談社)

ご存知『からかい上手の高木さん』の作者、山本崇一郎の新シリーズは、男の子(歩くん)のほうが女の子(うるしさん)のほうをドキドキさせるという設定で、『からかい上手の高木さん』の、単純な「逆パターン」かと思いきや、歩くんのほうが「将棋部の先輩であるうるしさんに、将棋で勝った暁に、初めて告白する」という、わかったようなわからないような決意をしているため「告白以外の言葉ではぐいぐい責めるくせに、告白だけはしない」という、いささか不自然だが、絶妙にアンバランスな関係をギリギリで成立させている。

これは、『からかい上手の高木さん』では、高木さんが西片くんに、ほとんど好きだと言っているに等しい言葉を何度も発し、そんなそぶりを見せながらも、わかりやすく決定的な言い方はせず、西片くんに高木さんの恋愛感情を確信させ安心させきってしまわない(馴れ合いにならない)、つまり、思わせぶりな「からかい」に止めるという「恋の延命装置」と、同じ働きをするものだと言えるだろう。

だが、高木さんの場合は、その聡明さ(と、そのズルさ)の故に、わかりやすく決定的な言葉を発してしまわないのに対し、本作の歩くんの場合は、前述のとおり、おかしな「誓い」を立てたがために告白しないという点で、「ボケ」の要素も入っている。

つまり『からかい上手の高木さん』は、ボケとツッコミの役割がハッキリと分かれていたが、本作『それでも歩は寄せてくる』では、両ボケ的なやりとりとなっていて、『からかい上手の高木さん』の単なる逆パターンにさせなかったのは、さすがの妙手であったと言えよう。

それにしても、これだけタイトな設定で、よくも毎回うまく左右に振ってくるものだ。

初出:2019年7月11日「Amazonレビュー」
  (2021年10月15日、管理者により削除)

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