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人生の勝算

【プロローグ】
経営はストリートから始まった

この本を書こうと思ったのは、今、不幸や苦境に直面していたり、自分から見える景色が真っ暗だ、という人に、ほんの少しでも頑張る勇気を持ってもらいたかったからです。

人生というドラマの中ではしばしば、自らではコントロール不能な何らかの外部要因が、一見打ち手のなさそうな試練を与えてきます。そこで、決して、運命に屈してほしくない。突如立ちはだかる壁やハンディキャップは、後天的な努力によって必ず乗り越えられる。世間との競争にとらわれずに、他でもない、自分の運命と真剣勝負で向き合ってほしい。
人ではなく、運命に負けないでほしい。

ボクの願いは、こうして僕に間接的に出会ってくださった皆さんの“人生”そのものを変えること、それが真の願いです。

「秋元さん、僕は、ビジネスにも人生にも、勝算があります。」

秋元康さんと出会った頃に、伝えた言葉です。
ボクの勝算は、ビジネスにとどまらない。僕は、自分の人生に勝つ自信がある。そんな、僕のような若造の言葉を受けて、秋元さんは、「君の根拠のない自信が好きだ」と言いました。以来、「人生の勝算」という言葉は、僕が迷ったときに立ち返る大事な考え方になっています。

単なるビジネス本は書きたくなかった。この本を手にとってくれた方が、自分の”人生”そのものについて、勝算を持つ。そんな温かい本を書きたかった。

この本を通じて伝えたいことは、大きく三つです。絆の大切さ、努力の大切さ、そして、人生という壮大な航海において「コンパス」を持つことの大切さ、です。

僕が全力で魂を注ぎ込んだこの本が、皆さんの人生を1mmでもプラスの方向に傾けることを、心から願ってやみません。

【第一章】
人は絆にお金を払う

原点となるギター弾き語り時代

8歳の時に両親を失って、与えられた環境や運命を、本気で恨んで、忌み嫌ったこともありました。自分の不通な運命を変えるために、とにかく稼ぎたい、お金を持って、自由になりたいと、強く思っていました。

そして小学生の自分ができることとして、ギター弾き語りをはじめたのです。しかし、お客さんは立ち止まってくれない。
必死に考えました。なぜこんなに一生懸命歌っているのにお客さんは立ち止まってさえくれないのか。もっと歌がうまくなれば良いのか。演奏技術を上げるべきなのか。

そもそも、自分がお客さん側の立場だったらどうか。僕の演奏に、足を止めて、耳を傾けるのか。そうやって、あくまでもドライに、通りかかるお客さん側の目線に立って考えました。「自分だったら立ち止まるだろうか」と。答えはNOです。

そして、「未知より既知」という仮説を立てて、新しく触れる未知のコンテンツではなく、既知のコンテンツこそ琴線を揺さぶるのではないか考えました。「みんなが知ってるあの曲」をひたすらカバーしました。すると少しずつ確実に立ち止まってくれる人が増えたのです。
次第に、仮説を立てて、行動に移し、着実に結果が出ていく楽しさを感じ始めました。小学生なりにですが、「ちゃんと作戦を立てれば、自分の思い通りの結果に導けるんだ」そんな風に感じたのを覚えています。

僕のような子供にある程度のお金を入れてくれるような地域で歌い、その人たちが喜びそうな歌を歌いました。
そして、多い時は月10万円ほどのお金がギターケースの中に入るようになりました。

試行錯誤の中でわかった成果を出す上で最も重要なことは、「濃い常連客」を作ることでした。そのためには、大きく分けて、三つのステップがあると最終的に気づいたのです。

1ステップ目は、街行くお客さんに、会話のキャッチボールが成立する、「コミュニケーション可能範囲」に入ってきてもらうことです。
遠巻きに眺める人、素通りする人、そういった人たちをどう惹きつけていくか。
小学生がテレサ・テンや吉幾三を歌う。通りかかった人が素通りできないような、つっこっみどころを自分の中にどれだけ作れるか。

結果、この発想が功を奏しました。

2ステップ目は、リクエストを受けとることでした。それも時間差で。
お客さんとコミュニケーションを取れるようになった後は、より密度の濃いやりとりを繰り返して、親近感を持ってもらうことが大切です。そのために僕はお客さんの歌のリクエストに応えました。そして、一つ工夫を凝らしました。それは、「時間差でリクエストに応える」ことです。

歌をリクエストされて、歌えない時は、またこの日に来てほしいと約束をし、僕は一週間その人のために歌を練習しました。そして、きっちりの約束の時間に来てくれたお客さんに、僕は心を込めて、一生懸命練習した「白いパラソル」を歌います。すると、この僕が歌う「白いパラソル」が、お客さんにとっては特別なものになります。
下手をすると、松田聖子さんご本人が歌う「白いパラソル」よりも、価値を持ち得ます。

それは、僕が歌う「曲そのもの」ではなく、一週間という時間にお客さんが思いを馳せて、その過程時代に強いストーリー性を感じてくれるから。
「私のためにこの一週間ぶっ通しで練習をしてくれたのか。どこで曲を覚えたのだろう。楽譜はどうしたのだろう。きっとお金もないだろうに…」と、単純にカバー曲を披露したときとは違った種類の感情移入や共感が、そこに生まれます。
そして、そこで生まれた価値は、パッケージされたコンテンツの価値を上回って、人の心に深く突き刺さります。付随して、色々な世間話をしたり、お互いの身の上話をしたりして、お互いを一人の人間として認め合い、「ヒト対ヒト」の絆を作ります。

駅前に出ると、つい、「私の演奏を聴いてください」という、供給側の論理に立った一方的通行なスタイルを取りがちですが、それでは「モノ(演奏)対ヒト」の関係になってしまっていて、ダメなのです。
絆を醸成するには、モノを一方的にぶつけるのではなく、他社への想像力と思いやりを持って、「ヒト対ヒト」の関係性を築くことに意識を集中させねばなりません。

そして、とどめの3ステップ目で、仲良くなったお客さんに、オリジナル曲を披露します。特別な絆が出来上がっているお客さんは、僕が作った曲に深く耳を傾け、詩もメロディも心で噛み締め、感動してくれます。
「白いパラソル」を披露した女性は、ギターケースに1万円を置いて置いていってくれました。

僕の歌が別にうまくなったわけではない。では、最初と今とで、何が違うのか。

答えは「絆の深さ」です。

最初は0だったお客さんと自分の間にある絆が、時間をかけて、じっくりと育っていく。当初は誰も興味を持たなかったオリジナル曲に、いわば「絆」という名の魔法をかけて、まったく別の価値ある曲に昇華する。
こうして、いくつものストーリーを共有しているうちに、お客さんは、決して裏切ることのない常連さんになっていきます。

この魔法によって生み出されるのが、「コミュニティ」と呼ばれる、絆の集合体です。コミュニティ形成は、これから、どんな種類のビジネスにおいても、外せない鍵になると思っています。

第一に、コミュニティには、現代人が価値を感じる要素が詰まっているからです。表層的なコンテンツ以上に、絆、すなわち、心への強い紐付きや、裏側にあるストーリーに価値を感じて人が消費をするから。
第二に、絆やコミュニティ作りの成功において、先天的な要因はほとんど関係がないからです。正しい方法論で充分量のアクションを踏めば、誰もファ良質なコミュニティを生み出すことができます。

「後天的な努力によって、頑張ったヒトが報われる」。

先天的な才能がなくとも①絆、②絆の集合体であるコミュニティ、そして③コミュニティの集合体であるプラットフォームさえ作れれば、影響の範囲を広げていくことができるのです。

モノ消費からヒト消費へースナックの客は人との繋がりにお金を払う
スナックでは、ママとの人間的な繋がりや、絆の対価としして、お金を払います。スナックの売り物は、ママの人柄、および、ママや常連客との温かいコミュニケーションです。

コミュニティが形成される上で、5つのエッセンスがあります。これらはすべて、スナックコミュニティという現象から抽象化できるものです。

最初の二つは、①余白があること②クローズドの空間で常連客ができること。
プロフェッショナルとしては、粗だらけだけど、その未完成な感じが、逆に共感を誘い、仲間を作ります。みんなで、このママを支えようという結束力が生まれ、コミュニティが強くなります。
次に、「常連客」の存在。空間をなるべく閉じられたものにすることによって、「俺たちだけの場所」といった具合に、常連さんの所属欲求をより掻き立てているのです。
スナックではトラブルがよく起こりますが、コミュニティの深まりや永続性を考える上で、非常に重名ポイントになります。スナックという閉鎖的な空間では、無視ができず、コミュニティがはじまります。

そして、③仮想敵を作ること④秘密やコンテクスト、共通言語を共有すること⑤共有目的やベクトルを持つことです。

AKBグループが強い理由
AKBのメンバーは、多様な余白の宝庫です。余白とは、不完全であり、つい埋めたくなってしまう要素です。
余白があるからこそ、ファンは自分が応援してあげないと、助けてあげないとダメだ、という気持ちになります。
「自分がいなくても、このアイドルやアーティストは成立してしまう」という感覚にオーディエンスがなってしまうと、熱を帯びたコミュニティは生まれにくい。

現代人の多くは、「自分の物語」を消費していて、何か完璧な「他人の物語」を消費することには、飽き飽きしているのです。
SNSに写真をあげて、いいね!をもらって嬉しい、という気持ちも、まさに「自分の物語消費」の典型例です。

ファンの「中の人」化でコミュニティが強くなる
スナックと同じで「常連客」を「中の人」にできると、コミュニティは一気に強固になります。現代のコミュニティにおいて、余白をうまく演出して、お客とお店の境目を不明確にしておくことが、とても重要です。

AKBはスナック街。共通言語があるかどうか
コミュニティ運営とは、一つの村を作るようなものです。もし村長やリーダーに頼りがいがなかったり、町に何か課題があったとしても(余白の存在)、ずっと同じ村に住み続ける同志として結束して助け合い(常連客の存在)、同じルールを共有して(共通言語の存在)、同じ敵と戦います(仮想敵、共通目的の存在)。村という小さなサイズだからこそ、結束が求められるのであって、大都市ではこうはいきません。

コミュニティ作りがあらゆるビジネスの鍵になる
コミュニティとはいわば、熱を帯びたファンクラブのようなものです。ビール一つにしても、ある会社のビールとの間にストーリーがあることで、「余白の存在」や「客から中の人へ」となることで、他社とは異なる価値を生み出し、オンリーワンとなります。
価格などはある意味で関係ないほどのエンゲージメントが作られている状態です。

【第二章】
SHOWROOMが作る新しいエンターテイメントのかたち


テレビがつまらないとよく言われますが、テレビ番組は、高級レストランのような完成度もなければ、スナックのような身近さもない。人々が、リアリティと共感に溢れるスナックのようなコンテンツを求め始めている中で、中途半端に編集されたコンテンツを作っても、人が感情移入しないことは明白です。

人は完璧なものではなく、余白を埋めようと頑張る姿に共感してお金を払います。
SHOWROOMでは、スナックや床屋さんを、バーチャル空間上に無数に作っています。
SHOWROOMでウケるコンテンツは、「共感」がキーワードです。
そしてアイドルや演者が未完成であること。
足りないもの、欠けている部分が見えているからこそ、視聴者がコンテンツを自分事として捉えて感情移入し、共感を寄せます。

今、世の中の流れが、不器用でも”努力を継続する”演者、個性やストーリーが感じられるコンテンツが人気を得る傾向にあります。
特別な才能やルックスがなくても、努力と工夫次第で、ファンを作ることができるのです。その代わり、本当に努力する熱量がない場合や、ファンへの思いやりの心がない場合などは、嘘は、そのまま伝わってしまいます。偽りなく、真にやる気と思いやりがある人が勝つのです。

クオリティとは何か
歌のうまさや芸術性が価値になるのではない。コンテンツ供給側と受け取る側が心で繋がって、そこに絆が生まれる。コミュニティが生まれる。感動が生まれる。それがビジネスに転換されていく仕組みが、SHOWROOMです。

第二の自分がコミュニケーションを加速させる
自分であって、自分ではない。バーチャルキャラクターである第二の自分を使うことで、羞恥心やら気後れが、いい意味で取り払われます。それによって、あらゆるルームにおいて、応援と感謝の温かい連鎖がたくさん生まれ、循環し始めます。

「前向き課金」と「後ろ向き課金」
「この制限を外したいのなら課金してください」が後ろ向き課金。
今の時代に沿ったコンテンツ課金のモデルは、払うかどうかの判断をあえてユーザーに委ねる、前向きな課金です。演者が、全力で情熱をかけてパフォーマンスをする。そこで、誰かの心が動く。感動を受けた人が、感動を与えた人に対して、直接感謝を表現できる。
他人に強制されるのではなく、自分から行う消費は、そこに主体性があるため、ポジティブで温かい感情が伴いやすいと思っています。これが、SHOWROOMの考える、前向きな課金です。

観客がコンテンツになる
コンテンツと観客の間に会話が生まれると、元のコンテンツの持つ価値が拡張され、同じ空間にいる人同士の関係性や動き、発言など、あらゆる要素が相互に影響し合って、それ自体がコンテンツになっていきます。

インタラクションがクオリティとなる価値観を再定義したい
世の中の人々がエンターテイメントに何を求めているか。行き着いた結論は、パフォーマンスの質やブランドではありませんでした。

インタラクション(※)、その一点です。
※「人間が何かアクション(操作や行動)をした時、そのアクションが一方通行にならず、相手側のシステムなり機器がそのアクションに対応したリアクションをする」こと。

例えば、僕がやっていた弾き語りは、インタラクションの理想を体現していました。一方通行に僕が歌いたい歌を歌い続けるのではなく、あくまでお客さんが求めている曲を、僕は頑張って練習して、披露しました。すると、その姿勢自体に感動してストーリーを感じてくれるお客さんが生まれたり、そのお客さんがきっかけで応援の輪が広がり、さらに観客やギターケースに入るお金も増えていきました。

大切なのは、距離感です。
僕の場合は、お客さんが求める曲を一生懸命に練習して、歌うことで、距離を縮めました。

エンターテイメントでは、原則として、一定のプロフェッショナリズムや、完成度が求められます。しかい、現代においてもっと重要なのは、表現者が、支えてくれるオーディエンスのところまで降りて、しっかりと丁寧はコミュニケーションをすることです。観客は、演者と自分との距離の近さを実感できたとき、今までになかった感動を味わい、より濃いファンと化します。

現代のクオリティコンテンツとは、プロがお金をかけて練り上げた完成品ではなく、その先にあるファンとのインタラクションがきちんと綿密に設計・実行されたものである、という価値観を、SHOWROOMを通して再定義しています。

質の定義をSHOWROOMが変えていけば、生まれや才能に関係なく、どこの誰であっても、努力や工夫次第で成り上がることが可能になると思っています。
世の中全体に「正当な努力が報われる場所」を広げていく。これが次の野望です。


【第三章】
外資系投資銀行でも、求められたのは「思いやり」

超えられそうになかった宇田川さん

自らコントロールできない外部の問題によって、挑戦が阻害されたり、個人の能力に差が出ることが悔しかった。強い魂を持って何かに没入すれば、その差は撥ね退けられる。むしろ、逆境が人をより高みに導くという価値観を強く持ち、自分の人生でもってそれを証明してみせたいと思いました。

そんな私が入社したのは、UBSという外資系の投資銀行でした。一番の決め手は、一人の天才、宇田川さんでした。彼にはすべての面で圧倒されました。

一人の力では地球は動かせない
宇田川さんはこう言いました。
「とにかく人に好かれること。秘書でも、掃除のオバちゃんでも、受付の人でも、好かれなくちゃダメだ」

宇田川さんは人に好かれる天才ですが、それ以前に、「人を好きになる天才」でした。他人と接して、その人のいいところや、感謝できるポイントを自然に身につけて、まず自分から本当に好きになってしまう。
好きになられたら誰だって、悪い気はしません。人間関係は鏡であり、人は好意を受けたら好意を返そうとする生き物です。
宇田川さんは、どんな人にも最大の好意を持って接します。すると、宇田川さんに好意的な人が、今度は逆にどんどん集まってくる。宇田川さんを助けたくて助けたくて仕方ない状態になる。いわば、彼の周りにおいて、愛の連鎖がうまく回っているのです。その愛情の源は、一体どこにあるんだろうかと強く疑問に思いました。

宇田川さんに聞くと、人を好きになる気質は、後天的なものだそうです。
宇田川さんは、社内でライバルがいない状態まで勝ち上がったときに、悟ったそうです。1人でたどり着ける高みは、こんなものか…?と。
「自分の力だけでは、どんなに努力してもたいした景色が見られないとわかった。数値でイメージするなら、一人で到達できるのは、1まで。でも、チームを育てて、みんなの力を掛け合わせていけば、1を、2にも10にも、100にもできる。俺は1以上の世界を観たい」と。

そして、より高みへ到達するために、個人の欲が消えていき、部下の育成に膨大な時間を使うなど、チームプレー重視の働き方に変わったと言います。
そして、自分という1を10に、100にどんどん引き上げていくために、二つのことを意識し始めたそうです。

一つは、誰からも好かれてサポートしてもらえる環境をつくること。そのためには、自分から好きになることが必要。二つ目は、自分のこと以上に周りに時間を使って、周りを強く育てることで、チームとして最強になること。

僕は、宇田川さんに何度も言われいました。
「前田くん、仕事で大事なのは人に好かれることだ。」
「君はきっと、すごい成果を出すだろう。だけど君一人でできることなんてたかが知れている」
「仲間を増やせば会社全体、そして世の中、地球だって動かせるかもしれないよう」
とにかく、人には好かれなさいと、繰り返し繰り返し、宇田川さんは教えてくれました。

僕はとにかく、無条件で相手を好きになることを心がけています。プライベートでもビジネスでも関係なく、全力の愛情を持って接したいと思います。
もちろん、たくさんの人に会うので、正直相性が良くないとか、苦手なタイプの人もいました。そういった人と接する時は、「好きだ!好きだ!」と心の中で100回ぐらい唱えてから、接します。ある種の自己暗示のように。

よくビジネス書では、人に好かれる能力を磨きなさいと説かれていますが、僕は、人を好きになる能力の方が、よっぽど大事だと思います。

人を好きになることは、コントローラブル。自分次第で、どうにでもなります。でも人に好かれるのは、自分の意思では本当にどうにもなりません。コントローラブルなことに手間をかけるのは、再現性の観点でも、ビジネスにおいて当然でしょう。

当たり前のことを圧倒的なエネルギーでやり続ける
宇田川さんが言っていることは、実は特別ではないことがほとんどです。
会社に来たら、皆に挨拶をする。誰より早く来て勉強をする。人には思いやりを持って接する。
この当たり前のことを、圧倒的なエネルギーを注いでだれよりもやり切る。それがビジネスで成功するために必要なことだと、宇田川さんの背中から教わりました。僕は宇田川さんのように、当たり前のことをやり続けようと決めました。

そして、何か特別なことをする必要はなく、当たり前のことを徹底的にやり続けるだけで、他の人とは圧倒的な差がつくんだと、知りました。

先ずはゲームのルールを理解する
営業の電話に出てさえもらえず、切羽詰まっていた時、僕のメンターでもある藤井さんに「どうやったら電話に出てもらえいますか?と、正面から聞きました。
すると彼はひと言、「お客さんを想像しろ」と答えました。
そして、藤井さんと毎晩のように、お客さんに接待しました。藤井さんはクラブでもどこでもすごい。何でも率先して周りを盛り上げます。お客さんは「藤井さんは面白いな」と毎回大喜びしています。

ふざけているようで藤井さんは真面目な顔をして言いました。
「前田よ、仕事をなめるな。お前は株を勉強して、お客さんに投資判断のアドバイスをすることが仕事だと思ってるんだろ。まったく違う。仕事はゲームだ。ゲームで勝つにはルールがある。そのルールをお前は分かっていない。だから成果が出ないんだ。」
…衝撃でした。仕事はゲーム。考えたこともありませんでした。

そして「前田はプライドが高い」と指摘されました。
プライドの高い営業の電話を取りたいと思うか?と言われて、またグサッときました。
「プライドはコミュニケーションの邪魔になる。まず、お客さんとコミュニケーションの接点を増やせ。あいつバカだねと思ってくれたら、成功だ。バカを演じきった次の日に、お客さんに電話してみろ。俺の言ってることが分かるはずだ。」

ハッとしました。僕は電話営業で、自分が与えたいものばかり目が向いていました。
お客さんが求めているもの、つまり「どんな人の電話だったら取ってあげたくなるか?」の視点が、一切欠けていたのです。

コミュニケーションはさらけ出すこと
バカになりきってから、営業の電話に出てもらえることが増えました。
バカをしてまでさらけ出すことができるヤツにコミュニケーションの扉は開く。営業の真理とも言える秘訣をつかみました。
「誰に仕事を頼みたいか?」という判断の場では、人情や愛嬌といった人間的な要素が最後の決め手になると学びました。

営業で勝つためにはニーズの見極めがすべて
営業で勝つためには、相手のニーズを徹底して探ることが必要です。
僕は社内で一番、丁寧に時間を使って働き、アナリストとも誰にも負けないくらい多く話して情報を取得しました。
しかし持っている情報をただ伝えるのでは意味がありません。まず何より、徹底的に相手のニーズを察知することで、持っている武器がはじめて役に立ちます。
電話する時間、電話の尺…。電話一本でも「お客さんが求めている尺の話は何か?」を、しっかり分析する。これは、ニーズを考える意識があれば、誰でもできます。
まず相手に対して強い想像力を働かせて、何がworkするのか、見極めること。水系のポケモンが出てきたら、電気系の技を繰り出せるように、武器を振りかざす前に、相手の属性を知ることが何より大切です。

ディベートで鍛えた瞬発的仮説思考力
ディベートはお互いの立論とそれに対する反論をぶつけ合い、両論を戦わせ、理論的な勝敗を決めるゲームです。弱いディベーターは、自分の立論を固めて、頑なに同じ主張を続けます。
しかし、僕の戦略は違いました。当然、主張の命題は変えませんが、相手の出方に応じて、かなり話し方を変えます。相手が何を言ってくるかを、高速かつ綿密に先んじてシミュレーションするのです。
相手がどんな引き出しを用意してるか、想定しながら議論を進めるので、突飛な手で来られても、大体想定の範囲内。焦らずに、対応できます。
この瞬発的な仮説思考力が、営業の場面でも生きたのだと思います。

ハードスキルより重要な人当たりのセンス
ニーズを探るときは、詳細かつ具体的に相手をイメージします。
ビジネスの世界では優れたスキルや高度な情報を持っているだけの人はそれほど重宝されません。なぜなら、競争の激しい業界ほどハードスキルに優れた人はいっぱいいて、往々にして代替え可能だからです。
多少、能力やキャリアで劣っても、純粋に好かれる人が勝つことを学びました。

AさんでもBさんでもCさんでも、大して変わらない。そんなとき「前田くんでいこう!」という決め手になるのは、数値では表せない人間的な感情です。
いつもすごい役立とうと前のめりだとか、電話の話が面白いとか、適度にバカができるとか…。本当に些細なことですし、人によって違うのですが、数値ではなく、感情に引っかかる人が選ばれると思います。
やはりここでも、好きかどうか。同じような能力のメンバーが集まった中で選び出さないといけないとき、ピックアップされるのは、やっぱり「好きな人」です。

能力面のアピールはみんな必死にやります。実務とはちょっと違う、人当たりのセンスに長けているということは、組織の中で大きな差別化になり得ます。

思いやりとは他者の目を持つこと
仕事の基本は、思いやりです。
僕らの作り出したSHOWROOMによって、僕らがどうなるか、ではなく、使ってくださる演者さんや視聴者の方々が何をどう感じるのか。この一点を、頭がちぎれるくらい日々、考えています。
現状をより良い方向に進めたり、問題を解決していくのに最も必要なのは、「他者の目」だと思っています。
僕は、会社を経営したり、プロダクトを作ったり、部下を育てるときにも、「他者の目」と同じ景色をどれだけ想像できるか、が最も大切だと思っています。

英語の勉強をしてくれなかった生徒がいました。僕は彼が何を求めているのか必死に観察して考えました。そして彼のモチベーションの源泉が「モテたい」というところにあることに気づきました。「英語が話せるようになったら、女の子にモテるかもね」と伝えてから、彼は豹変し、勉強をするようになりました。

ポイントは「相手目線」に立って、それぞれが求めているモチベーションを冷静に見つめ、分析することです。

人間はポケモンのように属性が整理されているわけでもなければ、攻略本もありません。じっくり本人と対面で会話をして、情報を見極めます。
人と話すとき、「この人は今どんな気分なのか?」「この会話に何を求めているのか?」など、集中して相手の心を見極めます。
ポジティブな関係を築いたり、一緒にビジネスをしていくのに必要なデータを、徹底的に「他者の目」になって、習得します。

どんなビジネスであれ、そこに人間が介在する以上、コミュニケーションが重要です。そして、コミュニケーションに求められることは、シンプルです。
”相手の立場に立つこと”です。

スキルよりも愛嬌。自分が何を与えたいかよりも、相手が何を欲しいか。こういった視点は、SHOWROOMの配信者に求められるスキルにも、もちろん共通し、良いサービスや事業を作る上でも、まったく同じだと思います。

【第四章】
ニューヨーク奮闘記

アメリカではクレイジーなキャラを演出

どんなことであっても、人には絶対負けない。目に見える成果を早く出して、高みに上るんだという強い執念のような気持ちが常にありました。
チーム全員の売上を一人で稼ぐと宣言し、果たしました。

代替不可能な価値を果たせているか
営業でトップを取り続けていた頃、アメリカでの日本株営業という仕事で、これ以上昇り詰めることはできないのではないか。そんな風に少し走った気持ちを持ってしまっていました。山を登り切ってしまったと、少し虚しさも感じていました。そんな中、親戚のお兄ちゃんの当然の訃報の知らせ。
急に「死ぬこと」が身近になりました。
自分も明日、消えてなくなるかもしれない。
そんな状況で今、自分は世の中に代替不可能な価値を残せているのか、と考えるようになりました。

いつ死ぬか分からないのだから、生きているうちに新しい価値を創出したい。僕が死んだ後も、世界の人たちに幸せや付加価値を提供し続けられる何かを生み出すことに、エネルギーを投じたい。
大事な人の死をきっかけに、人生を懸けて進むべき道が見えました。
未来を作るしかない。そこで起業することを決めました。

モチベーションはどんな仕事術にも勝る
僕はSHOWROOMに命を懸けています。SHOWROOMが作る未来を、誰よりも信じています。
なぜそこまでできるかというと、端的にそこにパッションがあるから。
人生を懸けても良いと思える、モチベーションが設計できているからです。

仕事の成否はモチベーションによって大部分が決まると思っています。
新人の中でも登り詰める人の違いは、会話スキルや運ではない。モチベーションであり、エネルギー量の違いだと思います。
同期よりも早く給料アップしたい、社長に褒められたい、同期の女子にモテたい、何でもいい。モチベーションがはっきりしていることが大事です。そのエネルギーを源泉として頑張れる人が、勝ちを重ねられます。

モチベーションはどんな仕事術にも勝ります。
「やる気」はどんな武器をも超越します。
モチベーションで万事が解決するわけではありませんが、超高速で力強く走り、目標に達成するのに、まずはそのための燃料が必要です。

見極めてから掘れ
モチベーションを生むために、必要なのが「見極め」です。見極めが甘いと頑張り続けることはできません。

よく、なぜ成功したか聞かれますが、ひと言「頑張る」ということです。
頑張るという言葉を分解すると、「見極めて、やり切る」ということになります。

宝石を探り当てるレースであれば、やみくもに掘るのではなく、まずは宝石がこの大きな鉱山のどこに埋まっているか、どのようにしたら効率的に掘ることができるかを全力で考えて、仮説を立てることにエネルギーを注ぎます。

何も考えず筋力だけで掘り進めても、最初は、仕事をしている感じがあるかもしれませんが、掘っている途中で、だんだん疲れてきますし、「もしかしたら、ここには宝物はないかもしれな」という不安が頭にちらつき、途中できっと挫折します。
あらゆる手段を使って効率的な採掘手段は何か、仮説を立てます。そしてCとDに原石が埋まっている可能性が高いとわかると、他の地点は全部捨てて、そこを掘ることに全力を注ぎます。

このポイントを探し当てることが、「見極め」です。見極めたら、後は血みどろになっても掘る。絶対見つけるまで、掘る。
原石があると見極めた以上、迷わないで、エネルギーを出し尽くします。そして、最短距離で、宝を掘り当てる。実際の仕事では、先に掘るべきところを決めていないことが少なくないと思います。
これが仕事のPDCAの基本中の基本です。

モチベーションが高まらない人の多くは、見極めが甘い。
自分という大きな航海に出ているのに、方角を示すコンパスを持っていない。自分の進むべき道を定められていないから、途中でどこに向かっているかわからなくなり、広い海の上で途方にくれます。
そうなったら、一旦陸に戻ってでも、自分自身のコンパスを得るのが、結局遠回りに見えてベストだと思います。

自分の進む道は、現時点では少なくともこれで間違いないと言える、信じ切れる、というところまで見極め作業を徹底すれば、モチベーションは身体から湧いてきます。

人の3倍の密度で生きる
人の3倍の密度で生きてきました。とにかく「頑張る」ことで成果を出してきました。学生の頃は、自信が持てるまで、あらゆる方向から自分というものを洗い直し、とにかき自己分析をやり尽くしました。逆算して、勝つために何をすべきか考え、尽くし、勝ち続けました。

人生のコンパスを持つ
自分が何をしたいのかを示すコンパスがないと、人生という荒波の中で、すぐに迷ってしまいます。
それはあらゆる物事を決める指針となります。実りある人生を生きる上で、コンパス、つまり、自分は何を幸せと定義し、どこへ向かっているのかという価値観の言語化は、必要不可欠です。

コンパスを持たずに航海に出ることは、リスキーです。自分でも思わぬ方向に向かって、帆を進めることになります。

まずは、舟を漕ぎ出すよりも先に、コンパスを持つための努力をすべきだと思います。あとは原動力さえしっかりしていれば、どこへでも行けます。

途中で嵐に遭うかもしれません。海賊に遭遇するかもしれません。でも、揺るぎない方針を持って、強い意志で前進していくうちに、必ず目的の大陸にたどり着きます。だから、新しい挑戦をするときには、動き出す前にまずは自問してみましょう。
コンパスは持っているか?と。

他者の価値観という物差しを当てる
僕は、自分から見て明らかに優れているなと感じる人たちのモチベーションの根源を探り続けました。この人たちは、なぜここまで輝いているのか。何が彼らを突き動かしているのか。自分自身、誰にも負けない情熱はあるけれど、価値観の輪郭をもっとはっきりさせたい、という思いがありました。

その際、自分の琴線に触れる方々の価値観を物差しとして自分に当てて、何が一緒で、何が違っているかを、考える材料にしました。
それをすることで、自分の内面をもっと深く見つめられることに気づきました。この人の考えには共感できない、この人の価値観は僕の心とはまったく共鳴していない。
そんな自分を冷静に客観視して、内省を深めました。

価値観の深堀り、および言語化ができていない状態で、給料がいいから、休みが多いから、何となく楽そうだから…など、表層的に見えている要素でのみ判断した意思決定は、どこかで後悔を引き起こす可能性が高いと思っています。かといって、自分の価値観なんて、そう簡単に言語化できない。
そんな時に、ロールモデルたり得る誰かの誰かの価値観を比較対象として研究することで、多くのヒントを得ることができます。

「決めている」ことの強さ
僕は兄ほど「価値観」という観点で、軸が決まっている人を知りません。僕が彼を尊敬している理由は、「決めている」からです。他のどんな事柄よりも、家族に時間を使うこと、家族を大事にすることに、「決めている」。兄は、彼女より学校より何よりも、僕や家族を大事にして、時間を使ってくれました。それは、彼の中のトッププライオリティが、いつだって家族だったから。

周囲にも、あれだけ幸せそうな人は本当に見たことがない、と言えるくらいに幸せな家庭を築いている兄ですが、それは、「何を大切にするかを決めている」ということからきているような気がしてならないのです。
僕はそれをすごく素敵なことだと思っていて、そんな兄を心から尊敬しています。

1日のほとんどの時間、仕事に明け暮れる僕の人生と、仕事は必要最低限で効率的にこなしつつ、家族との時間を一番大切にする兄の人生。幸福の価値観は人それぞれですから、どちらが上も下もありません。最も不幸なことは、価値観という自分の船の指針、コンパスを持っていないということ。
そして、持たぬが故に、隣の芝生が青く見えてしまうことです。

人の心は弱く、どれだけ他人が羨むような状況にあったとしても、得てして、隣の芝生が青く見えてしまうものです。
結婚して可愛い子どもに囲まれていたり、休日におでかけしてプライベートを充実させていたり、仕事で大活躍していたり、SNSからは幸せそうな知人の近況が日常的に目に入ります。
そのときに、自分にとって大切なことを選び、決めていないと、自分以外の他者の幸せが羨ましくて仕方なくなるかもしれません。

選ぶ、ということは、同時に、何かを捨てることです。何かを得ようと思ったら、他の何かを犠牲にしないといけない。人生の質を高めるのは、選択と集中です。

僕が仕事にすべてを捧げられるのは、色々な生き方の選択肢がある中で、「仕事に狂う」と決めたから。SHOWROOMに命を懸けられるのは、努力が正当に報われる仕組みを世に問うために、自分の人生を捧げると決めたら。

もちろん、途中で違うと思ったら、一旦、陸に戻って、また別のコンパスと地図を持って効果に出れば良い。若い頃は仕事に傾倒していても、子どもが生まれた後に、家族を大切にする生き方に転換するのもいいと思います。

終わりを意識しているか
僕たちは死という終わりに向かって生きています。そう強く意識しているので、1日の密度をできるだけ濃くしたい。1分も無駄にしたくない。やりたいことをフルパワーでやり尽くし、人の幸せを増やし続けたい。僕に関わってくれたすべての人を、全力で幸せにしたい。死という終わりから全てを考えていきたい。僕にとっては、立ち止まって休憩することで得られる幸せはない。いつでも夢に向かって、全力で走っていたいのです。

【第五章】
SHOWROOM起業
「起業道場」DeNA南場さんに会いに行く
南場さんの言葉
「前田くんが考えている起業プランなんて、今この瞬間に世界中で少なくとも100人くらいの人は考えついている。だから、それ自体に、価値なんてないんだよ。肝はexecution。前田くんの事業は面白いかもしれないけど、大失敗して、大きな借金を抱える可能性もある。従業員の人生や、家族の日々の暮らしも、みんな犠牲になってしまう。そのリスクをカバーできる胆力があるか。」

「うちにおいでよ。一緒に、世界一を獲ろう。」

情熱を投じた量に応じて結果の出る世界を創りたい
僕はビジネスや勉強が大好きです。なぜなら、正しい方法で、やればやるだけ「必ず」成果がでるから。成果が出ない時は、方法が正しくないことがほとんどなので、また戻って、方法論のチューニングをすれば良い。

再現性が高く、努力次第でいくらでも成功が生み出せるビジネスや勉強と同じように、エンターテイメントも、誰に対しても開かれた透明で公平な場所にしたい。
投じたエネルギーの大きさが成果に直結する仕組みを、「頑張れば報われる」エンターテイメントビジネスの実現を、のちに何よりも強く願うようになりました。

僕は、愚直に何かに打ち込む人、夢を持って努力を継続する人が、シンプルに大好きです。でも、実際には、努力しても報われないことが多い。だけど、努力をしないことには、成功はありません。

秋元康さんの言葉で、「夢は全力で手を伸ばした1mm先にある」というものがります。

人生に失敗したり、夢破れた人たちの多くは、あきらめたときに、実はどれだけその夢に近づいていたか、気づかなかった人たちでもある、と。夢というのは、どれだけ手を伸ばし続けても、到底届きそうにもないんだけれども、全力で手を伸ばし続ければ、1mm先くらいにまで、夢から近づいてくることがある。そのチャンスをつかめるのは、常に全力で手を伸ばし続ける人だけ。そう解釈しています。

だからこそ、みんながあきらめずに、手を伸ばし続けたくなる社会を創りたい。

どうせ努力してもダメだ…というあきらめに溢れる社会は、僕は見たくありません。多くの夢追い人が、大きな希望を胸に携えて、前に向かって進み続ける。そういう世界が見たい。生まれ育った環境に恵まれた人が勝つのではなく、努力した人が報われて、後天的に勝っていける世界が見たい。

人の根源的に根ざしたサービス
バーチャルギフティングを通じた承認欲求の充足は、ベーシックニーズを満たした人類すべてに当てはまる、根源的欲求かもしれない。

餓死から解放された、インフラも満たされ、最低限のセーフティネットが整備された国家においては、人々の欲求の居所は階層を上り、より高次な承認欲求、尊厳欲求へと進化しています。

そして、僕が歌う曲が、お客さんにとって、「他者の物語」ではなく、「自分の物語」になることによって、消費が生まれる。そこには、明確に人間的繋がりや絆が存在していて、演者と視聴者がお互いに広義の承認欲求を満たし合う。
自分のしたかったことは、これだ、と思いました。

絶対に揺るがないビジョンの見極め
まず事業化に際して、僕がやったのは、「SHOWROOMがどこを目指すのか」という、ビジョンの共有でした。事業開発をスタートさせる前に、SHOWROOMはどこに向かい、世の中に対してどんな価値を果たしていくのか、を議論しました。
この先、何があろうと決してぶれないレベルまで、固めておこうと決めました。

ここで、見極めをしっかりやれば、あとは熱狂してやり切るだけ。
SHOWROOMの未来を指し示す、確かなコンパスを、作っていきました。

挫折に次ぐ挫折と、ぶち当たった現実
SHOWROOMの幕開けは挫折からはじまり、挫折の繰り返しでした。

アイドルを軸にしスタートした最大の理由は”熱量”
SHOWROOMは、将来的には、あらゆるジャンルのパフォーマンスを配信していく戦略でしたが、最初から「何でも揃っている総合百貨店」状態だと、他社との差別化ができないと考えました。ブランドがないくせに総合百貨店ぶっても、そんなお店には誰も訪れない。お客さんも、何を買いに行っていいかわからない。

そこで僕は、「SHOWROOMは、カバン専門店です。カバンの品揃えならどこにも負けません。品質についても、他のどの店にも劣りません。カバンのことなら何でも聞いてください」という専門店風の打ち出し方が、初期においては必要だと思いました。
いずれ、カバン屋さんとして確固たる地位を獲得したタイミングで、徐々に商品ラインナップを広げていく。
そして、カバンを目当てに買いに来てくれたお客さんが帰りがけに、靴を見たりスーツを見たり、他の商品も色々手にして帰ってくれれば、商売は少しずつ広がります。

その「カバン」が、SHOWROOMにおける、「アイドル」でした。とりあえず初期は間口をアイドルに特化させ、お客さんを呼び込み、そこから徐々にコンテンツを広げていく。
まず、アイドルのライブ配信でナンバーワンになることに決めました。

なぜアイドルに特化したのか。
それはアイドルシーンが持つ熱量に、僕自身が強く魅了されたからです。
人を動かすもの、惹きつけるもの、それは熱量です。

現場から信頼が生まれる
アイドル事務所などとのパイプがないという事実は、逆を言えば、怖いもの知らずの自分を加速させる材料になりました。相手に迷惑がられても、引かれても、全然平気でした。
なぜなら、それは、自分たちが作るSHOWROOMという世界を、誰よりも信じてたからです。

そして徐々に、でも確実に、初期のどぶ板営業戦法が、実を結びました。
足と時間を使った地道な営業活動は、一見非効率に見えるかもしれませんが、何も強みを持たない段階においては、むしろ最も必要な作業であると我々は見極めました。そして愚直に信頼を積み重ねました。

しかし、どこかで労働集約性の壁を超えなくてはならない。
そのためにも演者の数がオーガニックに広がる仕組みが必要でした。演者が憧れる場として機能するサービスのブランドと信頼を引き上げることが、重要な課題でした。
故に、サービスを支えてくれているアイドルや素人演者を大切にしていく一方で、むしろそれらの演者にさらにチャンスを与えるためにも、僕らはSクラスのアイドルグループをSHOWROOMに巻き込まねばなりませんでした。

そして、AKB48へのアプローチが始まりました。

火種なくして炎は立たない、扉は開くまでしつこく叩き続ける
秋元康さんへアプローチをしましたが二回とも撃沈。それでも諦めませんでした。約束をこぎつけ、一人ロサンゼルスまでいきました。そして、情報をくださった方のはからいで、ロサンゼルスで、はじめて秋元さんとお食事をご一緒しました。
そこであらためて、全力の熱意と、飛行機で自分に憑依させた秋元さんの価値観を掛け合わせて、一生懸命SHOWROOMをプレゼンしました。
そして後日、「秋元さんが会いたがっているよ」と呼ばれました。
開口一番、「前田くんと、一緒に仕事をしよう」とご縁がはじまりました。
それから、幾度にもわたる戦略会議を開き、AKB48の人気メンバーによるライブ配信も実現しました。ネットニュースでも話題となり、サービス成長は、また次の次元へと突入しました。

【第六章】
SHOWROOMの未来

ソーシャルネットワークの次に来るもの

思いのある人がちゃんとその思いを真っ直ぐぶつければ、高いステージへ上り詰められる世界であってほしい。
これは、僕のこれまでの人生から導かれた、揺るぎないビジョンです。
頑張った人が報われる。そんな世界にしていきたい。

南場さんがよく言います。
「企業が、世の中に提供している価値や、生み出している新しい幸せが大きければ大きいほど、それに応じた利益が返ってくるもの。」つまり、利益は、企業がどれほどの価値を世に果たしているかを測る、通信簿だと思うのです。

認知と人気は違います。
認知ばかりを追いかけて、人気を獲得することができなければ、好きな活動で食べていくことは難しくなります。
逆に、テレビのタレントのように「誰もが名前と顔を知っている」といった大衆認知がなくても、スナックのように少数でも濃く応援し続けてくれる真のファンを獲得して「人気」を得れば、活動を継続していける。

SHOWROOMをさらに巨大なスケールに発展させて、今までのエンタメ業界ではどうにもならなかったような先天性による機会の格差を着実に埋めていきます。SHOWROOMはライブ配信からライブストリーミングサービスへ。そして、社会に新しいかたちの幸福をもたらすサービスだということを、結果で証明していきます。

世の中のソフトやコンテンツに大きな潮流の変化が起きるとき、必ず裏側で、テクノロジーやデバイスなど、ハード面での進化があると思っています。
例えばmixiからFacebookに取って変わった時、確実に一つのドライバーとして、パソコンからスマートフォンへのデバイスのシフトがあったと見ています。
人が日常的に使うデバイスが変遷する中で、その流れをうまくとらえられないソフトは、廃れゆく。これは、いつの時代も変わらぬ黄金則だと思います。
次のコミュニケーション革命は、すぐ近くまで来ています。インフラが整い、SHOWROOMが世界一のライブストリーミングサービスになれるチャンスは、間もなく巡ってきます。

消費者も、間違いなく、「リアルタイム」かつ「デジタルでもありつつ現実世界に近いアナログな感覚」を求めていると感じます。

「いつでも動画で繋がれる」感が、これからの若い世代の求めているコミュニケーションの理想型になってきているのかもしれません。そして、「本当にそこに一緒にいるような感覚」という、インターネットにおいてこれ以上ないリッチな人間的アナログ体験を味わったユーザーは、一気にリアルタイムでの通信市場に溢れ出し、誰もがリアルタイム動に画を使って、コミュニケーションを始めることになるでしょう。
新たな「ライブ配信インフラ」という、目に見えない大きなプラットフォームの誕生です。これは、ある意味で、スマホの次のデバイスた誕生したと言っても過言ではないくらいに、大きな動きです。

世界一にこだわる理由
二つ理由があります。一つは単純に、自分のコンパスが世界一を指し示すから。もう一つは、僕らが生まれ育った大好きな日本の力は本当はこんなものではないのに、世界で負けているこの状況が心底悔しいからです。

アメリカ人はルール作りに長けている
日本は傾向として、作られたルールの中で成果を出していくことに競争性があります。しかし、アメリカの場合、先にルールや、ハコを作ってしまいます。作られたハコの中で各国が競争していく状況に持ち込むマウントプレイが異様にうまい。当然、ルールを作った当事者であるので、アメリカが一番強いプレイヤーでもいられいます。

アメリカの優れた起業家は、既存のビジネスの精度を高めるようりも、はなからプラットフォームを作っていく発想をします。
つまりルールブックを、自分で買いてしまうのです。

SHOWROOMは、人が夢を叶えるために活用できるプラットフォームです。グローバル共通の価値観だと思っており、僕らは、世界の誰よりも熱く、この価値観を信じて実現させようとしています。

誰もが平等に機会を得て、努力でスターダムにのし上がれる世界へ
子どもの頃に、ネガティブな感情を原動力にして生きていた時期がありました。ちょうど、母親が亡くなった8歳から、弾き語りを始める12歳くらいまででしょうか。不良のようなこともやったし、今振り返ると、穴に入りたくなるくらいに、周りの大人に迷惑をかけました。
しかし、今は、心から信頼できる仲間と、大きな一つの夢に向かって走っています。
人は、どのような境遇に生まれるか、自分では選べません。だからこそ、先天的な環境によって、人生が決まってしまってはいけないと思っています。

エンターテインメント × テクノロジーで、
アジアから世界中に「夢中」を届ける
SHOWROOM株式会社 代表取締役社長 前田裕二


ある海外での旅の途中、東から西へ大陸を横断する青い寝台列車の中にいました。硬いシートの上で熟睡できずにウトウトしていると、どこからともなく少年が近寄ってきて、目が覚めました。見ると、足が不自由な様子で、懸命に、こちらに何かを訴えかけています。

何を言っているかは分からないのですが、一通り喋り終えると、今度は両手を器用に使って、二つの棒でドラムの真似事を始めました。
「自分は、足は不自由だけど、かわりに残された手を使って人を楽しませる事ができる。僕のパフォーマンスが良いと感じたら、お金を恵んで欲しい」。
そう言われたのだと解釈して、その時持っていたお金を手渡しました。
しかし、よほど眠りを邪魔された事が気に障ったのか、或いは階級社会の残痕か、周りにいた人達が怒って、少年を別の車両に追いやってしまいました。
去っていく男の子の後ろ姿は妙に印象的で、何とも言えぬやりきれなさと共に、その映像が脳裏に焼き付いています。

あの時、彼に何か問題があったのでしょうか。
私は、決してそうではないと考えています。

世界には、二種類の逆境があります。
それは、努力で乗り越えていけるものと、本人の努力だけではどうしようもないもの。
私が出逢った少年は、後者の境遇に置かれていたように思うのです。

彼のように、「より豊かな人生を生きていきたい」、「もっと表現したい」、「自分の可能性を解放したい」と強く願うのに、何らかの環境や制約条件によってそれが叶わない人が多く存在するならば。

そういった「夢中への制約」を取り払うことこそ、我々が担うべきミッションではないのか。

あの時、無我夢中でドラムを叩いてくれた彼の無垢で熱のあるパフォーマンスにテクノロジーの力が掛け合わさったなら。例えばその様子が世界中に生配信されていたなら。そこに、誰かの人生を一変するほどの夢中をもたらす、物凄いエンターテインメントが生まれたのではないか。そう思うのです。

私は、「夢中」という言葉が大好きです。夢中とは、夢の中、と書きます。そこには2つの意味が考えられます。
1つは、自分自身が夢を持って夢中になる事。
もう一つは、誰かの夢の中に入る事。誰かの夢が自分の夢になる、そんな「夢中」の在り方もあるのではないでしょうか。
あの男の子に感銘を受けて、彼のように人に勇気を与えるんだと、舞台に立つ夢を持つのも一つの夢中の形。同時に、彼の夢の中に入って、その夢が叶うと信じて、夢への道中を共に歩むのも、また一つの夢中の形。
我々人間は、そんな「夢中」という至高の瞬間を少しでも多く味わうために、生まれてきた、とさえ思います。

あらゆる人が、好きな事に夢中になるチャンスを得て、夢の共感者たちと共に、決して平坦ではない努力の道を歩み、最後には本当に、夢まで叶えていく。そんな、フェアで温かい世の中を創ることが、SHOWROOMの経営理念であり、存在意義です。この理念を具現化すべく、旧来のエンターテインメントに新しいテクノロジーを掛け算して、アジアから世界に向けて、あらゆる色や形をした「夢中」を、全力で届けて参ります。
(本に記載されてる文章ではなく、ネットの新しい文章より引用)

逆境は、必ずバネになる。
努力と情熱次第で、人はどんな高みにだって行ける。

この考えが間違っていないと、世界に向けて証明する。それが自分に課せられたミッションだとわかるから、SHOWROOMに人生を懸ける。
人生の勝算は見えています。


【エピローグ】
コンパスは持っているか

ある日、SHOWROOMは、組織崩壊の危機に瀕しました。その時、僕の脳裏には、「社長は孤独である」という言葉が思い浮かびました。

SHOWROOMのビジョンを、SHOWROOMが世界を変えるということを、本気で信じているのは最終的には自分だけなのかもしれない。そんな風に思いました。寂しさ、苦しさ、悲しさ。あらゆるマイナスの感情が、一気に押し寄せ、心を支配しました。

そんなとき、ある社員が、落ち込む僕を呼び出して、言いました。

「前田さん。僕は何より第一に、前田裕二という男が持つ、絶対にぶれないコンパスに惚れています。
そして第二に、そのコンパスに沿って動く、SHOWROOMという船に惚れています。だから、もし仮にSHOWROOMが転覆しても、一緒にまた別のビジネスでもやりましょう。一生、前田さんのコンパスが指す方向についていくので」

このとき、気付かされました。「社長は孤独である」というのは、きっと、自分が作り出した虚像なのであろう。身の回りで起こる現象はすべて、自分に責任がある。思考は強く思うほど現実になる。
社長は孤独と思えば、本当に周りもそう接するし、一方で、孤独と思わずみんなに対して絶対的な愛情を持って接すれば、きっと我がチームは、自分にとっても、みんなにとっても、かけがえのない、代替不可能な温かい居場所になる。

辞めそうになっていたメンバーに、僕はストレートに言いました。
「何があっても、一緒にやりたい。仮に僕らの船が沈んで、今度は仮に農業ビジネスをやらなきゃいけなくなったとしても、一緒がいい」
これは、深く深く自分の内面と向き合った結果の、本心から出てきた言葉であり、僕が彼に対して表現できる、最大限の愛情でした。

結果として、彼は残ってくれました。
今回のトラブルがあったからこそ、お互い一人の人間同士として腹の底にあるものをぶつけ合って、まっすぐ誠実に向き合うことができた。
神様は、何も、僕に「孤独」を感じさせるためにこの問題を起こしたのではなく、リーダーとして、みんなと内臓と内臓をぶつけ合って話をすることの重要性と、他者に対して大きな愛情を持って接することの重要性を教えたかったのだろう。そう思いました。

僕は、孤独ではありませんでした。

そして、人生の試練に壁に何度もぶち当たりながら、その壁を打ち破っていく過程で、二つの大事なことに気づきました。

一つは、どんなときも揺らぐことがない、深く大きな愛情を持つこと。
少しか角度を変えて言い換えれば、他者に対する想像力、共感力といった、思いやりの気持ちを持つこと。
組織が崩壊しそうになった時も、最終的に、心からの深い愛情を持って接することで、壁を乗り越えることができました。ギター弾き語り時代にも、僕を助けてくれたのは、他者に対する想像力でした。

そして、もう一つ、更に大切なのことがあります。
それは、人生の価値観、向かうべきベクトルを明確にもつこと。つまり、「人生のコンパスを持っている」ということです。
コンパスを持つためには、とことんまで自分と向き合って、自分の心と深く対話する必要があります。

自分内面と必死に向き合う過程で、僕は、大変な宝物をもらいました。

それは、「人生の勝算」です。

すなわち原体験に紐づく、揺るぎない大きな志です。人生を通じて追い続けたい夢です。その志や夢が、会社のビジョンや日々の活動という状態です。

明確な根拠など、なくて良いのです。自分が信じた「人生の勝算」を持てていること自体が、人生における幸福度を増幅させます。

他にも事業家として、自分と事業、それぞれの価値観の間に深い共鳴があると、不思議なことが起こります。世界中どこにでも、仲間がいるのです。同じ夢を持つ人が、世界中に溢れているのです。強く光り輝くコンパスさえ持っていれば、どこからともなく、仲間は集まってきます。

その時点で皆さんは、ビジネスにとどまらない、「人生の勝算」を持つことになります。
皆さんも、どうか、今一度、自分の人生のコンパスを見定めてみてください。
そして、もしビジネスで高い頂を志している方なら、自分自身の幸せと、事業が世に果たす価値を、結びつけてみてください。それさえ叶えば、今まで体験したことのないような生きがいや幸福感がもたらされるものと思います。

きっとこの本を読んでくださった皆さんは、経済報酬以上に、こうした意味報酬を燃料にできる方々です。

僕は、今度は、インターネットという路上で、思い切り暴れることにしました。
必ず、世界一を獲ってきます。

情熱と努力次第で、人はどんな高みにだって上っていける。

自分の人生を通じて、これを証明してみせます。前田裕二の「人生の勝算」は今、はっきり見えています。

前田裕二

end
前田裕二「人生の勝算」より。好きな言葉、役立った文章抜粋。

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