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僕の言葉の森

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僕の言葉の森に植えさせて頂きたい記事をまとめています。 https://note.mu/nazewokangaeru/n/ne66199a9189f
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#短編小説

【短編】少年は空と笑う #1200文字のスペースオペラ

【短編】少年は空と笑う #1200文字のスペースオペラ

地球には朝、昼、夜と表情を変える天井があった。

天井の役目は宇宙と地球を繋ぐこと。青や黄、赤に黒と様々顔を見せ、地球に住む生命体たちに時が流れるのを教えた。

しかし天井は思った。私にも休息が欲しい。何も考えず、人の目を気にせず、好きな時に好きな顔をする時間が欲しい。

そう思った天井は、朝に夜の顔をしてみたり、夕方に煌々と光を灯してみたり、遊んで暮らした。

そのせいで時間のわからなくなった生

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『嘘の絵画』(超短編小説)

『嘘の絵画』(超短編小説)

「なんだ、この奇妙な絵は」
「見ていると頭がおかしくなりそうだ」

街の美術館には、評判の悪い一枚の絵があった。数百年前に描かれたとされるその絵は「嘘の絵」と罵られ、街の誰からも忌み嫌われていた。というのも、その絵には存在しないはずのものが描かれていたのだ。

それは、夜空に浮かぶ無数の光だった。大陸の最果てにあるこの街の空は一年を通して万年雲に覆われている。空に光が浮いているはずがな

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行ってきます。

行ってきます。



「じゃあ、行ってくるわ」
玄関で靴を履く。
パタパタと近付いてくる、スリッパの音。
「来年は家にいてね。……いてくれたら嬉しいなぁ」
お母さんがちょっと寂しげに微笑んだ。
珍しい。
「それはきついでしょ。来年から社会人なんだから。分からないよ」
お父さんが自室から出て来た。
「でも……もし、この街から引っ越しても、帰って来て欲しいなぁ」
靴を履き終え、
「じゃあ、行くわ」
「うん。

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短編小説「ゆなさん」

短編小説「ゆなさん」

「ゆなさんって、呼んでよ」
 はじめて参加となった、職場での忘年会。くじ引きでたまたま隣席になった彼女に、苗字をさんづけで呼びつつビールを注いだら、そんなふうに即答された。
 ぼくは瓶ビールをかたむけながら首をかしげた。ゆな。その名は彼女の本名とまったく異なっていた。苗字、名前となんのつながりも感じられない。ひと文字すら重なっていないのだ。
「ゆなさん、ですか」
「そう。みんなからもそう呼んでもら

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