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書評

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#文章

手記の美学散文ー『犯罪者の自伝を読む』小倉孝誠

手記の美学散文ー『犯罪者の自伝を読む』小倉孝誠

さて、わたしは監獄小説が大好きである。

監獄で書かれた手記は、大変美しく、興味をそそる。ジュネを筆頭に、ラスネール「回想記」、ワイルド「獄中記」にソルジェニーツィン「収容所群島」、国内からは山本譲司の「獄窓記」や、世間を騒がせた市橋達也の「逮捕されるまで」など、凶悪犯に政治犯、冤罪に至るまで種々多様の監獄手記が存在し、一定の人気を保っている。(話すと長くなるので省略。)

仏語翻訳家の小倉孝誠

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肉体の悪魔【ラディゲ 書評】

戦争の影がフランスを覆う

学校は休みになり

子供たちは気晴らしを探す

若い男性が戦地に赴きはじめる

人が突然死ぬのはよくあること

僕は戦争をこう言う

「長い長い夏休み」

銃弾に散る我が国の命は

どこか他人事なのだ

16歳。

僕は子供。

恋に落ちたのは

19歳の人妻

彼女は僕に言う。

「わたしはあまりに年を取りすぎている。」

夫が戦地で苦しむ時間を埋めるふたり

体の触

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現代では、いかにも起こりそうな単純な物語が最も異様な話とされている【ゴーチェ「オニュフリユス」書評】

現代では、いかにも起こりそうな単純な物語が最も異様な話とされている【ゴーチェ「オニュフリユス」書評】

19世紀フランスの作家、ゴーチェをご存知だろうか。

数年前、ネルヴァルに関する著書を、(日本語に訳されたものは)おそらく端から端まで読んだ。哀れなネルヴァルの人生には親しき、心優しい友人テオフィル・ゴーチェ(通称テオ)の存在が目立つ。

その年に、ゴーチェの『若きフランスたち』(井村実名子訳)を読んだ。いかにもフランス文学らしい、饒舌で、だけども厭らしくない、大変美しい文章を書く人だなあと思った

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