マガジンのカバー画像

随筆

11
運営しているクリエイター

#思い出

3分クッキングに命を救われた

3分クッキングに命を救われた

家の中を整理しようと、クローゼットを開けた。規則正しく積み重ねられたバンカーズボックスには、小説や参考書など大量の本が眠っている。一番奥に保管している重めの箱を取り出した。

そこには、暗闇から私を救い出してくれた月刊誌『3分クッキング』が綺麗に並んでいる。

心が折れた日忘れもしない、2019年4月1日。私は働いていた会社から裏切られた。詳細は割愛するが、簡単にまとめると「同僚から不当な告発をさ

もっとみる
好奇心の芽を育てていく

好奇心の芽を育てていく

小学生の頃にした、ある友人との会話をたまに思い出す。

「昨日お姉ちゃんと喧嘩してさ、めっちゃ泣いたんだよね。でも途中から《涙ってどこから出てるんだろう?》と疑問に思って、鏡で自分の下瞼を引っ張ってみたら、点みたいのが見えて。こうやって涙が出てくるんだ〜って思ったんだ」

身近に感じたたった1つの疑問。そこから友人は、小さな自由研究を繰り広げていたのだ。

彼女はやがて新聞を毎日読む習慣をつけ、知

もっとみる
おじいちゃんに会いに行く

おじいちゃんに会いに行く

先日、大好きなおじいちゃんが亡くなった。

年末に体調を崩してから入院し、わずか1ヶ月半の出来事だった。当たり前のように元気になって、家に帰るだろうと思い込んでいた。夏に行う予定のわたしの結婚式にも来てくれると、心から信じていた。

幼い頃の記憶わたしは小学3年生のとき、おじいちゃんの家の隣に引っ越してきた。おじいちゃんは近所の商店街ではそこそこ有名な薬局を営んでいて、わたしはよく店に遊びに行って

もっとみる
大学時代の旧友から連絡が来た

大学時代の旧友から連絡が来た

先日、大学時代の旧友から連絡が来た。名前は梨花。偶然にもついこの間、彼女のことを考えていたので、LINEのトーク画面に名前が現れた時は非常に驚いた。

梨花と私は、進学を機に一人暮らしを始めたもの同士。互いの家から徒歩5分の距離に住んでいて、同じサークルに入っていたこともあり、すぐに仲良くなった。

梨花はどちらかというとクールな性格で口数も多い方ではなく、自分から誘うようなことはしないタイプ。私

もっとみる
幼なじみが結婚する(2)

幼なじみが結婚する(2)

空白の5年間20歳の冬。大学生活にも慣れ、それなりに充実した毎日を過ごしていた頃、実家から成人式の案内が届いた。中学の同窓会も行われると知り、ふと椿の顔が頭をよぎった。彼女とまともに会わなくなってから、5年の月日が流れていた。

ーー今、何をしているのだろう。確かめたい気持ちが募る。元々行く気はなかったが、どうしようかと悩み始めた。でも、直接話せなくていいから、元気な姿が見れればいい。そう心の中で

もっとみる
幼なじみが結婚する(1)

幼なじみが結婚する(1)

26歳の冬。幼なじみに会った。彼女の名前は椿。よく晴れた日曜日の午後、駅前の待ち合わせ場所に、彼女は浮かない表情でやってきた。いつもなら「よっ!」とか「お待たせ!」などといった軽快な挨拶をしてくるはずなのに。一体何かあったのだろうか。

疑問に思いながらもなんとなく聞けない空気のまま、目的の店に辿り着く。上着を脱ぎ、店員に注文を終えたところで、椿は少し俯きながら、遠慮がちに口を開いた。

「実はさ

もっとみる