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『鬼滅の刃』は3巻から俄然面白い! 理由は「●●な同行者」

『鬼滅の刃』を初めて読んだのは3年ほど前でした。
「また面白いジャンプ漫画が出てきたなあ」と思いつつも、10巻あたりで止まっていました。
昨年の大ブレイクを受けて、最近、再び1巻から読み始めています。

改めて読んでみてもやっぱり、3巻から俄然面白くなると感じましたが、
3年前と今とでは、その理由に対する分析が異なりました。

とある本との出会いが影響しているので、
3年前の分析と今の分析、その違いを以下に記していきます。

■3年前の分析:コメディ・リリーフの登場ゆえ?

前半にある珠世と愈史郎とのエピソードも傑作ですが、
3巻のMVPはやはり、善逸という印象的すぎるほどのキャラでしょう。

善逸が見事なコメディ・リリーフとして機能し始めるからこそ、
『鬼滅の刃』は3巻から俄然面白くなっていくのだろうな、
と3年前は分析していました。

その分析自体は間違ってないと今も思います。
ですが、
善逸が物語にどのように機能しているのか、
昨年読んだ本によって、より明確に分析ができるようになってきました。

■去年読んだ本で学ぶ「面倒な同行者」

昨年読んだ本の中でもとりわけ面白かった
「ついやってしまう」体験のつくりかた
人を動かす「直感・驚き・物語」のしくみ
』です。

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中でも秀逸な226〜244ページあたりを、以下にまとめてみます。

※本記事は漫画の分析を目的としているため、本では「プレイヤー」となっている箇所を「読者」と書き換えています。

 ●共感とは?

「対象はきっと自分と同じことを強く思っているにちがいない」
と思い込んでいる状態

 ●共感する条件 3つ

1:読者が主人公に興味を持っている

2:読者が「主人公も自分と同じ思いを持っているにちがいない」と信じられている

3:憎しみ以外の感情で共感する

上記3つの条件を満たす方法↓

 ●A:読者の心を強く動かしたければ、
 主人公の心を強く動かせばいい

「未解決の問題の持ち主」こそが主人公として認識される

そのために、
主人公に強烈な問題を引き起こし、徹底的に不幸にして痛めつける

→読者が主人公のことを自分のことのように感じる。

1:読者が主人公に興味を持っている
を達成!

ただし・・・
この時点では読者と主人公はそれぞれバラバラに感じている。

読者:「主人公はつらそう、悲しそう」観的
主人公:「僕はつらい、悲しい」観的

 ●B:面倒な同行者を登場させる

主人公の冒険を邪魔し、悪態をつき、不可解な行動ばかりする

主人公に身近な存在なので、
無数の問題をすぐそばで発生させ続け、
効果的に主人公を痛めつけられる

面倒な同行者=主人公へ問題を供給し続ける

読者:「同行者、腹立つなあ」主観的
主人公:「同行者、腹立つなあ」主観的

読者と主人公の気持ちの向きが見事に揃った!

2:読者が「主人公も自分と同じ思いを持っているにちがいない」と信じられている
を達成!

 ●C:面倒な同行者を危機に陥れる

同行者を好きになれそうなエピソードを入れた後に、
同行者を死や絶望の瀬戸際まで追い込む

同行者に対する憎しみを乗り越える。

3:憎しみ以外の感情で共感する
を達成!

■善逸こそ理想的な「面倒な同行者」

もう解説はいらないかもしれません。

善逸こそ理想的な「面倒な同行者」なのです。

登場するやいなや、
温厚な主人公・炭治郎に虫ケラを見るような表情をさせ、
事あるごとに泣け叫び、主人公(+読者)をイラッとさせまくります。

助けないといけない子どもたちを躊躇なく置いて逃げ出します。

絵に描いたような「どうしようもないクズ」です。


ですが・・・

その後に、胸をすく見事な大活躍!
【同行者を好きになれそうなエピソード】

そして、3巻の最後では、
血みどろになりながら襲われている善逸。
【同行者の危機】

そこで善逸が守っているものは、主人公にとって命より大切なもの!

【同行者に対する憎しみを乗り越える】
に留まらず、
同行者・善逸への感情が、一気に「こいつ、最高!大好き!」へと振り切れます。


いやー、見事です。

どこまで計算して構成されたのかはわかりません。

ただ、『鬼滅の刃』連載前の短編を集めた『吾峠呼世晴短編集』を読む限り、かなりの量のボツネームを描き連ねて迷いに迷った様子がうかがえますから、
「少年漫画として面白い構成」を担当編集者と共に相当練りに練り、作り込んでいったのではないかと推測します。

■蛇足:『鬼滅の刃』が支持される背景

蛇足ですが、
『鬼滅の刃』がこれだけ支持される背景には、
SNSでの殺伐としたやりとりにうんざりしてる気持ちや、
虚しい応酬に自分も加担してしまってる後ろめたさ、
そんな荒涼とした心情が、少なからずあると思っています。

小さな画面に見つけた"悪者"を攻撃して得られた一瞬の高揚感なんて、
自分自身に対する敬意を削り取ってるだけの虚しい行為です。

そんなことにも気づかせてくれる『鬼滅の刃』、
どのようなクライマックスを迎えるのか、
そこに向けて、世の中にどんな影響を及ぼしてくれるのか、
とても楽しみです。

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