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「一人称単数」を読んで 〜人生のクリーム〜 1

 今日も今日とて小説の感想を書く。1日中本を読んでいられるのは幸せなことだ。小学生の頃は何故か伝記にハマって、その後「こまったさん」や「わかったさん」シリーズにハマり、その後は「若おかみは小学生」シリーズにハマったものだ。毎日足繁く図書館に通っていたのが懐かしい。読み聞かせがとても上手だったあの司書の先生は元気だろうか。


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村上春樹さん作の「一人称単数」は短編集で、村上春樹ワールドのようなものが炸裂している。特に「一人称単数」という短編は最初読んだ時まるで意味がわからなかった。(私の理解力が乏しいだけかもしれないが)村上春樹さんが描く世界に潜り込めなかった。あとで他の方の感想もじっくり調べてみることにしよう。


「クリーム」より (48ページ)

きみの頭はな、むずかしいことを考えるためにある。わからんことをわかるようにするためにある。それがそのまま人生のクリームになるんや。それ以外はな、みんなしょうもないつまらんことばっかりや。

ここでいう「クリーム」とはとびきり最良のもの、人生において1番大事なものというような意味で、フランス語の「クレム・ド・ラ・クレム」という表現に由来する。
上記で引用したのは主人公が出会ったとある老人のセリフである。「時間や手間をかけて何か手に入れるのがむずかしい価値のあることを成し遂げた時に、それは人生の「クリーム」になるのだ」、とその老人は言う。

なんとも不思議なセリフというか奥深いとかいう陳腐な言葉では伝えきれない何かを持っているようなセリフである。突然出会った老人にこんなことを言われたら、奇妙すぎてある意味何かしらのことを考えさせられる気がする。

この老人のセリフは「人生のクリーム」となるような出来事ではないかもしれないし、大して深く考える必要性もないことなのかもしれない。だけどなんとなく考えさせられる。
誰かの何気ない一言によって考えさせられることはしばしばある。良くも悪くも。大したことではないのに、その一言がまるで自分の人生に大きな影響を及ぼすかのように感じることがある。後からその時のことを思い出してみればなんてことはないのだが。

主人公はこんな風に述べる。(46ページ)

「ぼくらの人生にはときとしてそういうことが持ち上がる。説明もつかないし筋も通らない、しかし心だけは深くかき乱されるような出来事が。そんなときは何も思わず何も考えず、ただ目を閉じてやり過ごしていくしかないんじゃないかな。」

「何も考えない」というのはある意味1番難しいことかもしれない。
一体何が起きているんだろう、自分は今何をしているのだろう....と我に返って奇妙に思うような出来事に遭遇したこと、あなたにも1回くらいはないだろうか。

わざわざ文章にして他者に読んでもらうには少しバカバカしすぎる出来事、だけれど印象に残っている出来事、「人生のクリーム」には程遠いけれど、遭遇したあの時はひどく思いを様々にめぐらせてしまった出来事。

私にもそういう出来事があったなぁと確かに感じるのだ。


というかこの本全体を通して、起きている出来事は奇妙なことばかりなのに、「まるで似たような経験を自分もしてきたかのように錯覚する」現象が私には起きている気がする。
「あなたにも実ははっきりと今は思い出せないだけで、実はあなたの過去には こんな出来事があったんじゃないかな?実はこんなことを考えていたんじゃないかな?」と作者に問いかけられているような気持ちになるのだ。



この本の感想はまだまだ長い。私が感想を書き終えるまでに、これを読んだ誰かがこの本を手に取ってくれると嬉しい。

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