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『転職の魔王様』 額賀澪 作 #感想 #読書

Amazonより、あらすじ

この会社で、この仕事で、この生き方のままで――いいんだろうか。
若手注目作家が未来の見えない大人たちに捧ぐ、渾身のお仕事小説!
大学卒業後に入社した大手広告代理店でパワハラに遭い、三年たたずに退職してしまった未谷千晴。働く自信と希望をすっかりなくしてしまった千晴だが、どうにか「普通の大人」に戻りたいと、叔母が経営する人材紹介会社を活用しながら転職活動をすることに。彼女はその会社で、「転職の魔王様」という異名を持つ凄腕キャリアアドバイザー・来栖嵐と出会う。
「仕事内容なんて何でもいいから、とにかく履歴書の空白期間を埋めたい。それが未谷さんのご希望ですか」
面談初日から不躾な態度で接してくる来栖に、千晴は戸惑うが……。

公式サイト

就活生が転職に関する本を、しかもブラック企業や転職エージェントの現実?を突きつけられるような本を読むのはあんまり良いことではないのかもしれない。
前向きになれるような終わりかたではあるけれど、現実はこんなに簡単にうまくいかないし、こんなに良い転職エージェントに出会えない人だって当然いるわけで。1人で抱え込んでしまう人もいるわけで。
毎日会社で正社員として働く人が、「普通の大人」で、それが正解!なんていう世界は、まだきっと終わらない。
転職限界年齢の男女差、これ、なくなるかな?


転職エージェントの来栖が、前の会社を辞めてシェパード・キャリアにやって来た未谷に、放った言葉がある。

36ページより(第一話 そんなこと自分で決めてください)

「必要とされる場所で働きたいんですか?そうやって、自分の価値観を他人の価値観に委ねるから、ブラック企業で扱き使われて壊れたら捨てられるんですよ。自分の価値くらい、自分の価値観で測ったらどうです?」

自分で決めないといけない、自分のキャリアもビジョンも。
他人の価値観に委ねるっていうのが、他者(家族とか周囲の友人とか)からの評価が良かった良い(有名な)会社に行くってことなのかな?


未谷は自分のことをこう述べている。 156ページより

就活のために必死で身に付けた「内定をもらえる好印象の誰か」が、「上司に評価される優秀な誰か」になっただけ。自分ではない《誰か》のイメージを守るために働いて、自滅した。

これが1番嫌だ。こうなりたくない。こんな就活生でありたくない。「自分」が何かなんて「自分」でも分からないし、自分より自分のことを分かってくれる人、なんていうのがいるのかもしれないし。
でもそれでも他者に評価される優秀な誰かをただ演じることだけはしたくない。一生その仮面をかぶって仕事をすることを選択する勇気が私にはない。
でも一方で、今の就活市場を見ていると「そんなことをやる必要はない!」と堂々と言えるわけでもない。就活生は、「できる人間」を演じるしかない。そう思わせてくる"見えざる力"が、私の周りでたくさんはたらいている。




少し話は変わって。

135ページより(第三話 転職はレビューサイトで店を選ぶのとは違うんです)

転職エージェントは、「転職することをただお勧めする仕事」ではない。自分のことすら自分で決められない人のために、なぜ自分が代わりに未来を選択してあげないといけないのか、これが来栖の主張である。

「(略)お前の未来は口コミサイトを覗いたらレビュアーが格付けしてくれてるのか、って話だ」
(略)未谷のセリフ
「みんな、正解がほしいんですよ。人生には選択肢がたくさんあって、どれを選んだらいいかわからないから。一度失敗したらおしまいだって気がするから。誰かに正解を教えてほしいんです。」

正解ね、教えてほしいけどほんとは自分で探すものなんだろうな。私個人的には選んだものを後で正解に変えていけば良い、とも思うけれど。
1回退職するともう失敗できない、っていう気持ちが強くなるんだろうな。。。

1度失敗したらおしまいではないけれどね。「複数回転職経験がある」ことを、堂々と言えない世界では、今は、ないような。。。。(希望的観測かな?)

誰かに教えてもらった正解でも、それを自分にとっての正解にするのは、自分自身のような気もするけれど。
自分自身では間違った選択をしたと思ってなくても、誰かに貼られた「失敗」のレッテルが、なかなか剥がれてくれないことはあるよね、それが現実。これを乗り越えられないと、乗り越えられないと、、、、、
結局一生自分を自分で苦しめることになるのかもしれない。



キャリアアドバイザーとして働くことに対する来栖の言葉がある。
216ページより

「人の人生が変わる瞬間に立ち会う。俺達の仕事は確かにそうだ。(略)自分が誰かを助けたとか、誰かの生き方をよりよくしたなんて思っちゃいけない。そのうち『自分は他人の人生を変えるだけの影響力を持ってる』って自意識に溺れるぞ」

うわあああああああああって少し叫び出したくなった。「社会に大きな影響力を与えたい」とか「人の選択肢を広げたい」とかつい傲慢になりがちだったのかもしれない。というか、そういう仕事を選んだとして、「自分はすごい人だなぁ」なんて思わないようにしたいな。。
たまに いじめを経験したから自分と同じような境遇の子を救いたくて教師になった、いじめを解決したかった、という人がいるけれど、教師が子供を"救える"なんて どこかで傲慢だよね。救いの手を差し伸べるということに上下関係が生じているとき、それは上の立場の人のお節介だったり傲慢だったり押しつけだったりするのかもしれない。


来栖がここで言いたかったのはあくまでキャリアアドバイザーとしての仕事のことだろうけど。
でも会話の中で未谷も言っていたけれど、こういうことを言う人が1番なんだかんだ人を変えているんだよね。多くの人の「変化」を巻き起こしているんだよね。







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