『夜明けのすべて』 (瀬尾まいこ 作) #読書 #感想
最近本の感想ばかり書いているが、それも今日で終わる。
最近ネタが溢れて溢れてしょうがない、それはやっぱりClubhouseのおかげだなぁと思っている。
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この本の主人公は2人。2人は同じ小さな小さな職場(栗田金属)で働いている。
1人目は藤沢美紗。PMS(月経前症候群)。割と人の目を気にして行動するタイプ。自分の理想像もないので、人にどう思われるかが気になりすぎてギクシャクしてしまう。PMSの症状が現れると、感情のコントロールができなくなってイライラしてしまう。その人は何も悪くないと分かっているのに、強く当たり散らしてしまう。
山添くんはただ覇気のない社員だと思っていた。
"やる気がないように見えたけれど、パニック障害だなんて知らなかった。何も知らないのに責めてしまった、体がどうしても思い通りに動かない辛さを自分も知っていたはずなのに。"
2人目は山添孝俊。パニック障害。突然体の不調を訴え、パニック障害になってしまう。その日から生活が一変してしまった。電車に乗れるわけないし外食もできない。行列に並ぶのも苦痛で、もちろん今までの仕事は続けられなくなってしまった。歯医者や美容院にも行けないし、映画館にだっていけない。症状を打ち明けられなくて、友達との縁はどんどん薄くなる。ふとした瞬間に孤独を感じて、やるせない。でも誰かと一緒にいると発作を起こさないだろうかというプレッシャーがつきまとう。
最初は病気にもランクがあると思っていた。
" "PMS"なんてパニック障害より全然軽度な病気だと思ってた。でも、僕は本当に整理のこととか、知っていたんだろうか。"
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179ページより
俺は俺を殺してしまっているのだろうか。やりたいこともやるべきこともない暮らしは死んでいるのと同じだろうか。これでいいわけはないとどこかで感じながら、今の状況に甘んじているのは、自分をなくしているも同然なのだろうか。
山添くんの悩みは深刻だ。パニック障害になる前は活動的なタイプ(アウトドア派)だったからこそ余計に。これ以上悪くならないように薬で抑える。鬱にだけはならないように毎日仕事という時間が決まったこと(ルーティーン)を行う。お風呂だけはどんなにめんどくさくても毎日入る。
今の俺はこの暮らししかできない、と片っ端から諦めている。どうせできない、自分はダメだとどこかで思っていて仕事に対する熱量も減っている。
2人は互いに対する理解をどんどん深め、互いに寄り添っていく。お互いをほんの少しずつ助ける。
藤澤さんは山添くんに日常生活の中の楽しみをあげる。楽しい時間を共有する。
山添くんは藤沢さんの苛立ちのタイミングを察知して、PMSが起こる前に止める。会社の外に連れ出してくれる。
そこに恋愛感情はないけれど、互いに居心地の良い存在になっていく。
183ページより
好きじゃない相手であったとしても、笑ってくれるとうれしくなる。毎回じゃなくていい。たった一度だとしても、パニック発作を減らしてくれるとしたら、どれだけありがたいだろう。藤沢さんも同じはずだ。
この2人の物語はあたたかい。何気ない日常が流れていくけれど、その中で2人が着実に変われていっているように感じる。山添くんは特に。2人の世界が広がっていっている感じがする。
お互いを理解しようとするその気持ちが、"優しさとか気遣いとか不必要なほどまでの配慮"とは違った....もっと綺麗で、負担のない何かが生まれているように感じた。
自分のことは好きになれない。正直好きになれる要素がなくて、"嫌い"なくらい。
でも、相手のことだったら好きになれる。"好きになることができる。"
"互いのことを好きになれる"、そんな2人の生活を、のぞいてみませんか。