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芥川賞受賞作 「首里の馬」を読んで

やっと読み終えた芥川賞受賞作である、「首里の馬」(高山羽根子さん作)の感想を書いていく。ネタバレが含まれるので読もうと思っている方はこのnoteを読まないでおいてください🙇‍♀️


題名の通り沖縄が舞台で、主に「孤独」と「記憶」について書かれていると言って良いと思う。馬というのは宮古馬(名前はヒコーキ)のことで、馬は本の半分よりは後にやっと登場し、少しずつその出会いを通して主人公は変わっていく。

あらすじ(新潮社のHPより)

沖縄の古びた郷土資料館に眠る数多の記録。中学生の頃から資料の整理を手伝っている未名子は、世界の果ての遠く隔たった場所にいるひとたちにオンライン通話でクイズを出題するオペレーターの仕事をしていた。ある台風の夜、幻の宮古馬が庭に迷いこんできて……。世界が変貌し続ける今、しずかな祈りが切実に胸にせまる感動作。


主人公は未名子、という女性。この作品は本当に主要な登場人物が少なく、なんとなくよく分からなかったり なんとなく不思議な感じがしたりする 芥川賞作品のイメージとは少し異なって、読みやすい方ではあると思う。

ただ沖縄の過去の歴史に関する知識が私にはもう少し必要だった。オンライン通話でクイズを出題するという仕事はかなり非現実的なのだが、郷土資料館と主人公とヒコーキの関係の変化は分かりやすかった。
ただほんの少し、感動というよりは悲しみを感じた。最後の10ページだけは本当に一気に読み終えたけえれど、そこでやっとほんの少しだけ前向きな気持ちになれたような気がする。


🔁


150ページより

あの建物に詰まっていた資料が正確なのかどうかなんて、未名子だけでなく世の中にいるだれにもわからない。ただ、あの建物にいた未名子は、それぞれの瞬間の事実に誠実だった。真実はその瞬間から過去のものになる。

157ページより

どんなにか世界が変わった後でも、この場所の、現時点での情報を、自分であれば差し出すことができるという自信があった。

主人公は資料館にあった情報をすごくすごく大事にしていた。彼女にとってその資料が役にたつかは重要ではないように感じた。彼女は自分の人生を費やして記録した宝物のような情報がゆっくりと劣化しいつかは消え去ってしまうことの方が素晴らしいと思っている。彼女にとっての資料は宝物であり、自らの意思で消してしまわずに守り残していくことを使命だと考えているのだ。

なかなか本を読んだだけでは主人公の心情に寄り添って考えられない部分がある。彼女が島の全てを記録しておきたいという気持ちも、本の世界に入り込めば分かるのだが、なんとなく現実的な感覚ではない。
やっぱりわたしには沖縄の過去や現在に関する知識が足りない、ということもあるのだろう。


こういう作品を「純文学」と呼ぶのだろうか。わたしの未熟な脳みそでは抱えきれない内容であったし、主人公のことを好きになれたという感じもなかった。


この感想もなんだか後味の悪いものになってしまったけれど、たまにはこういう日もあるのだということに、今はしておきたい。


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