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パズルのピースの、その居場所 3

 時間があるとき何をしているの?と聞かれることがある。答えは簡単だ。考え事をしているだけなのだ。それなのに彼女は言う。
そんなに考えることなんてなくない?
それがあるのだから仕方がない。何も考えないようにしようとすればするほど、頭の中でガラスの破片が舞っているような痛みが走るのだ。考え続けなければならない、と今日もなぜか思っている。どこからわいてくるのかも分からない焦りを感じながら。


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湊かなえの「カケラ」という本の感想を書くのが今日が3回目だ。これがこの本の感想を書く最後のnoteになるだろう。明日からはまた別の本の感想を書く。なんとなく本の名言を残しておきたい気がするから、そこそこ必死で指を走らせている。

この本の主人公、と言うか美容整形外科医の橘久乃は少し恐ろしい。彼女の心情は少しは語られているが、なんだか本当の感情のような気がしない。彼女が講演会をしているシーンが描かれているが、彼女は理想を理想と分かっていながら語るのだ。それは彼女の本心なのだろうか。あまりにも彼女の感情に裏がある気がして、どこか不気味なのだ。

世間が良しとするもの、学校が良しとするもの。小さな枠にどうにか自分を押し込めようと努力したのに、うまく入りきれないと感じるもの。私はそれが違和感の正体ではないかと思います。
砂の入った袋を想像してみてください。小さな違和感は、その袋についた引っかき傷のようなものなのです。小さな裂け目を必要以上に木にぢて、自分が触っているうちに、裂け目が広がることもあれば、自分ではそれほど気にしていない、もしくは、気にしないようにしているのに、他者が無遠慮にそこを触り、袋に穴をあけてしまうこともあります。
裂けた袋からは、砂が溢れ出す。この砂とは何か....。
自信です。
自己肯定感です。
誇りです。
尊厳です。
その砂が溢れ出す穴を作ろう手助けをするのも、教育者である先生方の役割なのではないでしょうか。


私は学生の時、「枠から片足がはみ出てしまう」ような人間だった。私の砂の入った袋からは、山のように砂が溢れ出していたのかもしれないけれど、無理やり枠に当てはめることなく、"オトナ"の考えを強制することなく、私を成長させてくれた先生たちにはとても感謝している。

教師と生徒というのは信頼関係を築くことができるのが良いとされている。もちろん分かる。でも「信頼される先生」というのがどういう人なのか....私にはまだ答えが出せていない。年頃のこどもは"オトナ"に反発する。枠に当てはめられることを嫌がる。
初めて「サイレントマジョリティー」という曲を聴いた時、私だってあの歌詞に共感したのだ。


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まずは、理想論を言わせてください。全ての人が、他者を外見で判断するのではなく、内面に目を向けるようになれば、もっと生きやすい世の中になるのではないか。

外見の美しさを考えてみてほしい。お腹の脂肪を考えてみてほしい。二の腕を見てみてほしい。毛量を確かめてみてほしい。

それって、なんだかジグソーパズルのピースに似ていると思いませんか?人それぞれに似ているようで少しずつ違うへこみやでっぱりがある。
それは何も、外見だけを表しているのではなく、内面だってピースの形に現れる。(略)自分というカケラができあがる。
カケラとカケラがはまって、家族ができ、町ができる。(略)自分だけが浮いてしまっている。この絵の中に自分の居場所はないのかもしれない。
無理に押し込むと、周囲のバランスも崩れてしまう。
少し形を変えれば、うまくはまるのに。
(中略)
同じ形が揃えば揃うほど、絵は作りやすい。このピースはここじゃなければならない、という決まりがないのだから。だけど、そんなパズル、つまらないと思いませんか。
自分の作りたい絵に対しては不自然に思えるピースでも、そのピースがぴたりとはまる場所は必ずある。(略)
あなたというカケラがぴったりはまる場所は、必ずあるから——。


この話はある意味で、引用した彼女(橘先生)の講演内容を見るだけで、全てがわかってしまうような話なのだ。本の最初と最後の講演会の話から引用しているが、なんとなく言いたいことは話を読まなくても分かってしまうのだ。



学校という場所が自分に合わなかったからといって、自分を責める必要はないのだ、と不登校の子どもに言いたいのかもしれない、私は。
枠からはみ出た人間に容赦しないような世界しか、そういう大人の存在しか、見えていないかもしれないけれど.....私が良い先生に恵まれたように、あなたというピースがぴったりはまる場所を与えてくれる人が、きっといるはずである。


絵をつくりに行ってほしい。学校という絵のピースになれなくても、家族という絵のピースになれなくても、自分だけが浮いていても、それを否定する必要性は、自己否定をする必要性は、決して、決して、ないと思うのだ。


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