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エッセイ / 散文

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晩夏(8.17-8.21)

晩夏(8.17-8.21)

8月17日(土)

夕方の海を見ていると、もうなんでもいいや、という気持ちになる。裸足で砂浜を歩いて、波に足をつけて、適当な場所に座って、夕陽が沈んでいくのを眺める。やがて日が沈むと、夜になる前の特別な青色が広がって、そのなかに白い月を見つけることができる。

こういうのばかりでいいよ、夕方の海より好きなものはないよ、ここで本を読んで暮らそうよ、とわたしの声が聞こえる。

8月20日(火)

さっ

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世界が少しばかり違って見えるようになる、そんなものを

世界が少しばかり違って見えるようになる、そんなものを

頭の中で無数の考えが浮かんでは消えていく。泡のような思考をつなぎ合わせて人に伝えることは、気が遠くなるほどにむずかしい。端的な言葉なんて到底無理だから、いつも冗長な言葉を並べてしまう。

頭の中にあるものを、圧倒的な創作に変換してしまうたちがいる。その人たちが生み出す作品のエネルギーは凄まじい。出会う前と後では、世界の見え方が変わってしまったりする。

人生ではじめて「世界が変わってしまった」と感

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茹で上がった失恋に

茹で上がった失恋に

深夜2時半、お腹を抱えて猫のように丸まり、鎮痛剤が効くのをじっと待っている。普段それなりにひとり暮らしを満喫していると思う。だけど、うなされて目が覚めた夜中は「誰か隣にいて背中をさすってくれたらな」なんて思ってしまう。

よしもとばななさんの小説「白河夜船」の中に、添い寝を仕事にしている女性が出てくる。その女性は「私の仕事は決して本当には眠ってはいけないの。その人が夜中に起きたとき、笑顔でお水を渡

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台北パラレルワールド、夜中の卓球

台北パラレルワールド、夜中の卓球

1週間近く、台湾に行っていた。帰ってきて1週間、ずっと飛行機に乗ってるみたいに、どこにも所在してないような、時間がなくなってしまったような、ふわふわした気持ちで過ごしている。

台湾にいるときも、なんだかふわふわしていた。夢の中を歩いているみたいな時間だった。

旅のことは別のかたちで出す予定なのだけど、ひとつだけ、昨日みた夢の話くらい、ふんわりした話を。

台南から台北に移動した夜、ふらりと入っ

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日常を綴ることが

日常を綴ることが

愛しい記憶たちを縫い合わせて、大きな毛布をつくりたい。未来の私が悲しい気持ちになったとき、その毛布にくるまって眠れるように。

星野源さんが1月2日のオールナイトニッポンを収録放送から急遽生放送に切り替えていた。不安な気持ちでいる人たちが、少しだけでもひとりじゃない気持ちになれますようにと。生放送では超個人的でくだらないメッセージがいくつも紹介されていて、源さんは「こんなの読ませないでよ、くだらな

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生かされてる、とかではなくて

生かされてる、とかではなくて

そのときわたしは、六本木のDEAN&DELUCAにいて、韓国の詩人ハン・ジョンウォンのエッセイ「詩と散策」を開いていた。

その本を読み進めることは、静かな森の中を進むことに似ていて、冬の朝のように澄んだ空気と、穏やかな水辺の気配がした。

だけど同時に、その森のどこか奥の方では、ごうごうと何かが燃えていた。雪の結晶のように美しい言葉たちからは、うっすらと怒りや憤りが香った。

混沌を見つめる人の

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光をすくうように

光をすくうように

両手ですくってもすくっても、指の隙間からたちまち溢れ落ちていくほど、愛おしい瞬間が次々にやってきている。そこに存在しない幻のようなものを見つめている暇なんて、ほんの束の間の人生にはもう、残されていないのかもしれない。

此処はとてもうつくしい、手に負えないほどに。なすすべがない。私が踊れる人だったら、歌える人だったら、瞬きで写真が撮れたなら、よかったのだけれど。ぴったり表す言葉さえ見つからないまま

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蹴伸びする師走

蹴伸びする師走

師走は「待ったなし」の旗を振りながらやって来て、よーいどんのホイッスルを鳴らす。その音が聞こえたら、とにかく走り出さなきゃいけない。ゴールは年末で、仕事納めとか来年の抱負とか、色んなことを考えながらひた走る。

でも不思議なことに、今年は年末に向けて猛ダッシュというより、新年へ、思いきり蹴伸びをするような気持ちだ。まだ12月なのに、もう気持ちが前のめりになっている。

それに、今年は心の断捨離もす

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甘い予感はいつだって/30歳の終わりに

甘い予感はいつだって/30歳の終わりに

雨の日曜、鎌倉のカフェでこれを書いている。30歳が雨の日曜で終わって、31歳が満月の月曜で始まっていくのは、幸先がよい気がして嬉しい。この気持ちは「幸先が良い」で合っているのだろうか、と気になり調べてみたら、ちゃんと今の気持ちだった。

実際のところ、来年の私は本厄らしい。さらに言えば、私の星周り的には「大殺界」という時期らしい。本厄の大殺界。強そうなタッグだ。でも私にとっては「満月の誕生日」の方

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月を見上げて、浮遊する

月を見上げて、浮遊する

十四か、十五か、十六あたりの月に出会うと嬉しくなる。

オレンジと言うには赤すぎて、赤と言うにはオレンジすぎて、今にも道路を転がって、こちらにぶつかってきそうなほど、近くて大きい月。

線香花火のようだと思う。線香花火の先のまるい熱。膨らみ過ぎたら、ぼとん、と地球に落っこちてきそう。そんな光を追いかけながら、間抜け面して歩く。

ああ、ここは宇宙で、ここは地球だったなと感じさせてくれるような巨大な

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長い昼寝のあとで

長い昼寝のあとで

気温が25度を超えた11月の夏日、とろりとした眠気に襲われた。

定時で退勤し、猫のようにシーツに潜り込む。頰にあたるタオルケットの冷たさと、頬からゆっくりマットレスに沈み込んでいくような感覚。なんだろうこの懐かしさ、と思いながら眠りに落ちた。

深夜、目を覚ますと額にはじんわり汗をかいていて、喉がカラカラだった。氷を入れた水をごくごく飲んでいたら、さっき感じた懐かしさの正体は、
幼い頃の夏の記憶

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目が合うとき

目が合うとき

何かの作品に出会い「今、目が合った」という感覚になるときがある。

目が合うとき、私は場所も時代も超えて、その人の瞳を見つめているような気がする。瞳はその人が見てる世界を映すもので、眼差しはその人自身の輪郭を宿すものだ。

夏に国立新美術館で開催されていた「テート美術館展 光 - ターナー 印象派から現代へ」でジュリアン・オピーの作品の前を通りがかったとき、目が合った感覚になり足を止めた。

音声

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借金返済計画のエクセルに込められた、愛と未来。(2019年 she is公募掲載記事)

借金返済計画のエクセルに込められた、愛と未来。(2019年 she is公募掲載記事)

タイトルとカバー画像は2019年の6月に「She is」というメディアに掲載していただいた私の書いた記事。もうShe isは運営終了し、私の記事は私の事情で削除申請をして消していただいたので見れなくなっている。(この記事の後半でコピペを貼ってます)

それは当時の恋人について書いた記事で、その人とは結局別れてしまった。でもこの記事はぜひ残していてねと言われた。私の大事な作品だからと。

それからだ

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「ルーブル美術展 愛を描く」/好きな声

「ルーブル美術展 愛を描く」/好きな声

今月、京都に1週間ほど滞在していたとき、東京会期を逃して残念に思っていた「ルーヴル美術館展・愛を描く」が京セラ美術館で開催されてるのを知って、嬉々として足を運んだ。

オーディオ解説の案内人が満島ひかりさんで、思わず購入。満島ひかりさんの声がとても好き。会場は想像以上に人が多くて、これはエネルギーを消耗しそうだなあと思いながら、いざヘッドセットを付けて最初のトラックを流したら、ふわっと人の気配が消

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