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よりぬきしりんさん

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2022年11月の記事一覧

親のしごと

親のしごと

さいきん出不精の娘を、半ば無理やりに膝頭運動公園に連れていった。
膝歩き、膝走り、膝自転車、膝スキー、膝バレーを堪能したぼくたちは、膝まづいてお弁当を食べた。お昼からは、特設イベント『楽しもう!殿中でござる』にも参加することができて、娘はたいそうご満悦だ。
進路に悩む彼女も、しっかり膝を使えたことで「旗本以上になる」という目標が見えてきたようだ。励みにと、帰りに『絶対突破 昌平黌』を買い与えた。膝

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告白

告白

えと、さ。
アタシもね、あなたが好き。
クールで素っ気ないとこが。話しかけても、ツンとしてるとこが。

だからさ、付き合っても構わないで。目も見ないで。知らない人のフリして。とにかく近づかないで。どっか行って。この世界から消えて。来世も、来来世も、縁なくすれちがいたいの。

よろしくね。

大好きすぎる

大好きすぎる

私が惚れたその人は、私が生まれた時には、この世界にはいませんでした。人並みの望みと失望とを繰り返し、30年余り、ごくごく平凡に生きてきたが、半年ほど前、退屈しのぎに立ち寄った小さな美術館の、肌寒い小展示室で、あの一葉のモノクロ写真と出会った瞬間から、私の内側には、狂おしさとしか呼びようがない魔が巣食ったのです。あるいは私が、そのような狂気を元々持ち合わせていたのでしょうか。彼女について調べ、はるか

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うろぼろす

うろぼろす

自己分析のためのおそらく有益な補助線として、坂口安吾という男をダシにつかう。彼を辿りながら、私自身を俯瞰しようとする。あくまでダシだ。取ったら棄てよう。

事、ことばに向き合えば、私はいつだって自分本位で生きてやる。

**

親友の長島萃は、脳炎で譫言を言いながら縡切れた。
親友の河田誠一は、肋膜を患って急死した。
師の牧野信一は、納戸で首を縊った。
快活な姪は、結核が快癒した後に堀に身を投げた

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わたく詩 11/26

わたく詩 11/26

鼠色

鼠色に鼠色を混ぜて鼠色のカンバスに塗りたくる。癇癪を起こした鼠色の少年はまだ乾かぬカンバスに身を横たえる。何もかもが哀しくなった少年は鼠色のコートを羽織りお気に入りの眼鏡をかけて鼠色の穴を出る。はるか彼方には七千色の世界が見える。鼠色の百均で買った七千色眼鏡の効果である。鼠色の北風に襟を立てて少年はただ歩き歩き歩き歩く。鼠色のブーツは底が剥がれて鼠色の麦畠に脱ぎ捨てる。なぜ歩くのかと問いか

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Looking Thru Me 90s From Both Sides

Looking Thru Me 90s From Both Sides

《Side A》

はじめて聴いたのは1995年、高校2年のときで、模試A判定にかまけてバンドばっかりにかまけていた頃。ドラムスだったが、留年してた同級生の別バンのリョウジ君があまりに上手すぎて、そりゃ上手いわ、あの人大学行かずにバックバンド行ったもの、で、ともかく始めて1週間くらいで向上心は失せて、まあ何でしょう、スタジオでまあまあ練習してはすり鉢状のせっまい街中でナンパと合コンにかまけていたわ

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おぶらあと【R12】

おぶらあと【R12】

若いころからしばしば、ふ、と、極めて危ない気配が濃密にただようのですが、これもちょいとコツがあり、なんだろう、こう私の中身(のようなもの)を現実寄りに引っ張る、たぐり寄せる、おびき寄せることによって、私はだいぶ上手くみんな仲良し正気の世界、にソフトランディングできるのです。「あー同じ逃げならこっちの水が少しだけ甘いですよー」「ほら狂ってみても少しも楽じゃないですよー」みたいな、口だけコンサルの惹句

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ぽつん

ぽつん

私はいつも、生きているこの私の正体をつきとめる、尻尾をつかむ、そのために文章を書く。

鏡を見ても、おなかの辺りをつねってみても、これが私だとちっとも実感できない。第一、このポンコツの肉体など、私のタマシイが死んでも、しばらくは未練がましくここに残るではないか。

そんなもの、この私であってたまるものか。

だから、ときどき搾乳みたいに、私が出せることばを絞り出す。
それが私の核心かどうかわからな

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「若草物語」を読んで――寝てる暇はない

「若草物語」を読んで――寝てる暇はない

わたしがオルコット「若草物語」を大好きなのは誰にも内緒の話だが、これに限らず、好きなものを人に薦めることに、わたしは極端に自信がないのだ。
というより、そんな僭越なことをすれば、次に会ったときにどう転んでもろくな目に遭わない気がする。

「読んだよー、よかった!」となれば、偏愛ゆえ、どの部分がよかった、とか、どんな所がささった、とかを、きっとわたしは根掘り葉掘り訊いてしまうのだ。そのようなパンドラ

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A Quick-boiled――寝てたまるか

A Quick-boiled――寝てたまるか

退屈で空虚な仕事を終えすごいバーボン片手に何とも汚いとしか言いようのない古アパートで安い魚肉ソーセージを齧っているとふと昨夜もつ煮屋で耳に入った国際ギャング団の噂を思い出すとともに何か凄いことをひらめいた木佐貫檀はトレンチをひらりと羽織り愛車の日野コンテッサ1300クーペを吹かし左折して山手通りへ1.4km首都高に乗り用賀から環八第三京浜目的地付近と八面六臂のドライヴィングテクニックで真っ暗な港の

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こころの小骨の備忘録

こころの小骨の備忘録

コロナは存在しなかったり、ちょっとした配慮を求める小さな声は甘ったれであったり、イチローは所詮三流選手であったり、Twitter をはじめとする SNS の『世間の声』を眺めてると、この国って、(控えめに言って)かなり深刻な病理学的症状を呈していると思うの。

こういう「オレ様の持論」は、とかく狭量で独善的で高飛車でセンセーショナルで、そのくせデータだエビダンスと騒ぎ立てて、隣に座っている人がこん

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プレハブ自己紹介

プレハブ自己紹介

しりんです。
有益なことはほとんどないですが、無害ではあるので、お気軽にフォローはしてみていいと思います。クーリングオフ対象品です。

気づけばトップにおく記事がないので、しばらくはこれでしのぎます。

拾い物のベタな自己紹介テンプレに答えてみるのですが、これだけでどの程度わたしを表現しきれるでしょうか。

ほかにたずねたいことあれば、何でもきいて下さい。何でも答えます。きかれないと何も考えないの

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紀尾井坂にぞ散る紅葉

紀尾井坂にぞ散る紅葉

今年もまた、急な坂を転がるように、寒が来た。

当地の寒さは、2枚から3枚、少し厚手にして、そろそろ4枚というふうにはゆかない。
ある朝突然2枚から4枚、明くる日にはコート、来週はステテコ、カイロという具合だ。

リモートワークの合間、コートを羽織って散歩をすると、あっちこっちに真っ赤な葉っぱが散っている。
急な坂を転がるように、ひといきに赤くなる。
急な坂を転がるように、ひといきに散り落ちる。

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Bluebird Lullaby

Bluebird Lullaby

むかーしむかし、あるところで『青い鳥』という卓れた寓話を書いたのはリリエンタールではなくてハイエルダールでもなくて、作者とチルチルとミチルという内縁関係にある3名は、何かのために唐突に青い鳥を探しにゆくのだが、それは確か、この子の七つのお祝いにお札を納めに参るその途上、実にさまざまの魔物――スライムにはじまり森喜朗に至る魔物オールスターズ――に出会いと別れを繰り返し、やがて倒れた彼らは青は藍より出

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