#ホラー
『運転手を黙らせる方法』
深夜に乗る流しのタクシーには当たり外れがある。
中には、乗り込むなりこちらの気分をすぐに察してくれる運転手もいる。
気分のいい時にはそんな話題を、いらいらしている時にはそんな沈黙を、落ち込んでいる時にはそんな話を、うまく使い分けてくれる運転手もいる。
ベテランなのかどうかはわからない。
少なくとも年齢には、あまり関係がないようだ。
若くても、そんな対応をしてくれる運転手もいる。
しかし、中には、今
『アドベントカレンダー:ホラー(白)』 # あなぴり
《前半》
透き通るような白い肩を、金に近い栗色の髪が滑り落ちてくる。
フェイシアはゆっくりと両腕を上げ、頭の後ろで指を組んだ。
スカイブルーの背景紙に、ささやかな細い影。黒のベアワンピースをまとった背中が、健吾と僕のカメラの前に凛と立つ。
ライトを浴びて輝く腕は、まるで真珠のように艶やかだ。
「すげえ……」
健吾が、ため息混じりに小さく呟いた。
肩甲骨まで伸びた髪、ぐっ
『執念第一』 # 毎週ショートショートnote
朝から所長に怒鳴られている。
「やる気あんのかよ。こんな成績で。セールスってのは断られるとこから始まんだよ。セールスお断りなんて張り紙は、私ゃセールスに弱いのよってのの裏返しなんだ。そんなのに負けてどうすんだあ。執念って言葉しってるか?執念第一。言ってみな。もう一度。わかったらとっとと行ってこい」
インターホンの横には「セールスお断り」の張り紙。
所長の言葉が浮かんできて、思わずため息をつく。
『ひ、み、つ』 # 2000字のホラー
「お母さん、帰ってくるよね」
小学校に入ったばかりの息子が尋ねてくる。
その頭を撫でる。
「ああ、帰ってくるよ。もうすぐな」
息子は、友達を見つけたのか、子供たちの集団の方に駆けていった。
日曜日の朝の公園。
家族連れが多い中で、自分はポツンとひとりだった。
他の家族は、子供だけでなく、親どうしも知り合いらしい。
笑顔で挨拶しあっている。
元々、町内の行事にはほとんど顔を出していない。
息子の学校
『二重人格ごっこ』 # 2000字のホラー
「二重人格って知ってるかい」
「何よ、急に」
「二重人格だよ」
「失礼ね。知ってるわよ、ジキルとハイドみたいなのでしょ」
「それそれ」
「それが、どうしたの、二重人格が」
「あれって、1人の人間の中に2つの人格があるわけじゃないか」
「そうよね。2つ以上ってこともあるらしいわよ」
「で、その人格同士は、他人なのかな」
「どういうこと」
「だからね、その人間の中にある複数の人格は、お互いに知り合う
『たましい』 # 2000字のホラー
彼が玄関のドアを開けると、妻が笑顔で出迎える。
「お帰りなさい。あなた」
彼から鞄と上着を受け取り、妻は先にリビングに入っていく。
後ろから抱きつくと、妻はこちらを向く。
それを突き放した。
バランスを崩して座り込む妻をそのままに、彼は自分の部屋に入った。
「あなたお食事は」
返事もせずに勢いよくドアを閉める。
椅子に腰掛けると、ズボンのポケットから、携帯電話と昼間もらった名刺を取り出した。
男
『息子は死にましたよ』
これは事実をもとにした物語である。
その朝、銀行のシャッターが上がると同時にその男は彼女の目の前に立った。
背は高くないが少し太り気味。
40歳くらいだろうか。
左目と比べて右目が極端に細い。
「母が亡くなったんですけど」
カウンターの向こうに腰をかけてそれだけ言った。
この歳で、他人と話すのに慣れていないようだ。
「お母様がお亡くなりになられたのですね。
ご愁傷様です。大変でしたね」
よくある