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物語のようなもの

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短いお話を思いついた時に書いています。確実に3分以内で読めます。カップ麺のできあがりを待ちながら。
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#ホラー

『わたしはお人形』

『わたしはお人形』

幼い頃から、わたしは自分のことをお人形だと思っていました。
だってママもパパも、お人形のように、いろんな服を着せてくれるのですから。
お隣のおばさんも、親戚のお姉さんも、わたしを見ると、
「まあ、お人形さんみたい」って口を丸くします。
だから、わたしはお人形なのです。
血の出るお人形。

ママも本当はお人形だったのです。
いつも綺麗な服を着て、優しく微笑んでいました。
いっしょに歩いているわたしま

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『胃のなかの眼』

『胃のなかの眼』

どうも腹の調子が良くない。
毎日、下痢を繰り返している。
食事を消化の良いものに変えてみる。
おかゆや雑炊。
あるいは、うどんをよく煮込んでみたり。
それでも、変わらない。
整腸薬を近くの薬局で買ってきた。
一週間服用してみたが、効果はない。
同僚からは、
「最近、少し痩せましたか」
などと言われる。
確かに、鏡を見ると、心なしか頬がこけているようにも見える。
ズボンのベルトの穴も、ふたつほどキツ

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『運転手を黙らせる方法』

『運転手を黙らせる方法』

深夜に乗る流しのタクシーには当たり外れがある。
中には、乗り込むなりこちらの気分をすぐに察してくれる運転手もいる。
気分のいい時にはそんな話題を、いらいらしている時にはそんな沈黙を、落ち込んでいる時にはそんな話を、うまく使い分けてくれる運転手もいる。
ベテランなのかどうかはわからない。
少なくとも年齢には、あまり関係がないようだ。
若くても、そんな対応をしてくれる運転手もいる。
しかし、中には、今

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『黒いワンピース』

『黒いワンピース』

何の変哲もない、黒いワンピースだった。
何か飾りがついているわけでもない。
襟や袖口がレースになっているわけでもない。
どうしてこんなものを買ってしまったのだろう。
いつもの店のロゴの入った紙袋から、そのワンピースを目の前に広げてみる。

その店で、顔見知りの店長がいくつか、これからの季節に合うものを紹介してくれていた。
その時に、ふと真っ黒いワンピースが目に止まった。
というよりも、目が合ったと

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『アドベントカレンダー:ホラー(白)』 # あなぴり

『アドベントカレンダー:ホラー(白)』 # あなぴり

       《前半》

 透き通るような白い肩を、金に近い栗色の髪が滑り落ちてくる。
 フェイシアはゆっくりと両腕を上げ、頭の後ろで指を組んだ。
 スカイブルーの背景紙に、ささやかな細い影。黒のベアワンピースをまとった背中が、健吾と僕のカメラの前に凛と立つ。
 ライトを浴びて輝く腕は、まるで真珠のように艶やかだ。
「すげえ……」
 健吾が、ため息混じりに小さく呟いた。
 肩甲骨まで伸びた髪、ぐっ

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『執念第一』 # 毎週ショートショートnote

『執念第一』 # 毎週ショートショートnote

朝から所長に怒鳴られている。
「やる気あんのかよ。こんな成績で。セールスってのは断られるとこから始まんだよ。セールスお断りなんて張り紙は、私ゃセールスに弱いのよってのの裏返しなんだ。そんなのに負けてどうすんだあ。執念って言葉しってるか?執念第一。言ってみな。もう一度。わかったらとっとと行ってこい」

インターホンの横には「セールスお断り」の張り紙。
所長の言葉が浮かんできて、思わずため息をつく。

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『わかっているわ』

『わかっているわ』

あなたがいつから私を見ていたのかは知らない。
気がついた時には、あなたは常に私の視界の片隅にいた。
ここは大丈夫だろうと思っても、あなたは騙し絵のようにどこかに隠れている。
そして、私を見つめている。
ぼんやりとした、モザイクのような背景の中から、あなたが浮かび上がってくる。
その時の、私の気持ちがわかりますか。
いえ、あなたにはわからないでしょうね。
もしわかっていたなら、私にあんなことはしなか

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『ひ、み、つ』 # 2000字のホラー

『ひ、み、つ』 # 2000字のホラー

「お母さん、帰ってくるよね」
小学校に入ったばかりの息子が尋ねてくる。
その頭を撫でる。
「ああ、帰ってくるよ。もうすぐな」
息子は、友達を見つけたのか、子供たちの集団の方に駆けていった。
日曜日の朝の公園。
家族連れが多い中で、自分はポツンとひとりだった。
他の家族は、子供だけでなく、親どうしも知り合いらしい。
笑顔で挨拶しあっている。
元々、町内の行事にはほとんど顔を出していない。
息子の学校

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『二重人格ごっこ』 # 2000字のホラー

『二重人格ごっこ』 # 2000字のホラー

「二重人格って知ってるかい」
「何よ、急に」
「二重人格だよ」
「失礼ね。知ってるわよ、ジキルとハイドみたいなのでしょ」
「それそれ」
「それが、どうしたの、二重人格が」
「あれって、1人の人間の中に2つの人格があるわけじゃないか」
「そうよね。2つ以上ってこともあるらしいわよ」
「で、その人格同士は、他人なのかな」
「どういうこと」

「だからね、その人間の中にある複数の人格は、お互いに知り合う

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『たましい』 # 2000字のホラー

『たましい』 # 2000字のホラー

彼が玄関のドアを開けると、妻が笑顔で出迎える。
「お帰りなさい。あなた」
彼から鞄と上着を受け取り、妻は先にリビングに入っていく。
後ろから抱きつくと、妻はこちらを向く。
それを突き放した。
バランスを崩して座り込む妻をそのままに、彼は自分の部屋に入った。
「あなたお食事は」
返事もせずに勢いよくドアを閉める。
椅子に腰掛けると、ズボンのポケットから、携帯電話と昼間もらった名刺を取り出した。

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『息子は死にましたよ』

『息子は死にましたよ』

これは事実をもとにした物語である。

その朝、銀行のシャッターが上がると同時にその男は彼女の目の前に立った。
背は高くないが少し太り気味。
40歳くらいだろうか。
左目と比べて右目が極端に細い。
「母が亡くなったんですけど」
カウンターの向こうに腰をかけてそれだけ言った。
この歳で、他人と話すのに慣れていないようだ。
「お母様がお亡くなりになられたのですね。
ご愁傷様です。大変でしたね」
よくある

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『今から帰るよ』

『今から帰るよ』

夕食のしたくをしていると、スマホが震え出した。

手を止めて、エプロンのポケットからスマホを取り出す。

いつもの、「今から帰るよ」のメッセージ。

だが、その日、夫は帰ってこなかった。

次の日も同じ時間に、メッセージが入る。

そして、夫は帰ってこない。

次の日も、その次の日も。

さすがに、これだけ続けば不安になる。

それに、バッテリーもこんなにもつはずがない。

誰かに相談しなければ。

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『貸してあげます』

『貸してあげます』

そんなことってあるだろう。
好きでも何でもない子に声をかけることって。
別に、デートに誘うとか、そんなことじゃない。
いつもひとりだから可哀想だなって。
俺でも、声をかけてやらなきゃなって。
そうなんだ。
はっきり言って、美人じゃないさ。

ある日の昼休み。
その子が、会社の食堂でひとりで食事をしていた。
他の女子はみんな数人ごとにテーブルを囲んで、食事が終わっても楽しそうに時間までおしゃべりをし

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『綺麗な部屋』

『綺麗な部屋』

大家さんは、丸顔の優しそうな女性だった。
ご主人を病気で亡くされて、一人で管理をしているらしい。
そんな話を聞きながら、5分ほどの距離を歩いてアパートまで来た。
「こちらです」
と、大家さんは鉄製の階段を登り始めた。
僕たちもそれに続く。
大家さんは、他の住民もいるのに大丈夫かと思うほど、大きな音を立てて階段を登った。

僕と裕子はこの春から同居することにした。
いわゆる、同棲だ。
今後それが結婚

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