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大日本末期文学全集

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終末感が滲み出る文章がまとまったら、ここに投稿します。イラストと文を合わせて一つの作品になっていることもあるので、雑誌のような感覚でお楽しみください。
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2022年12月の記事一覧

『呼ぶ』

『呼ぶ』

「…そうそう高校の同級生。西澤。2年3年とクラス一緒でずっとつるんでた。もうだから15年くらいの付き合いってことになるかな。俺とこれだけ仲良いんだからおまえともぜったい気が合うって…うん…いや大丈夫だって言っておくから…いや絶対楽しいと思うけどなぁー…まぁそこは相場通りでいいと思うけど…うん…なんとかなるんじゃない?…とりあえず予定空けといて…来週土曜…じゃまぁまた連絡するわ…うんまた」

「あも

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『まぁそう怒らずに』

『まぁそう怒らずに』

「んじゃおりゃー!

「んやこの野郎!

午後の休憩室に怒号が飛び交う

「おまえが俺の焼きプリン喰ったんか!

「なわけあるかボケしばくぞ!

N先輩とS先輩が

しょうもないことで揉めている

僕はちょうど同じ時間に休憩の

A子さんに見とれている

怒号に眉をひそめたA子さんが

うるさいよねって話しかけてくれた

それだけで僕は有頂天になって

「そしたら誰が盗ったっちゅうねや!

「知る

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『みなさんいかがでしょうか?』

『みなさんいかがでしょうか?』

未開の森を冒険する

探検隊が結成されました

探検隊は未開の森の近くで

現地の猟師を雇って

道先案内と護衛を依頼しました

深い深い森の奥深く

探検隊はもとより

猟師すらも

足を踏み入れたことのない

前人未到の地

歩き始めて

3日ほど経った頃でした

あれ?

だいじょぶじゃね?

ていうか

なんにもなくね?

むしろ

なさすぎて逆に怖くね?

というムードが

探検隊一行の

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『おはようございます』

『おはようございます』

わたしは小さいころからずっと

空想の世界に浸ることが

だいすきです

読書もきらいではないけど

活字を追うのが負担で

どうしても途中で飽きたり

そうでなくても

一冊を読み終えるのに

何日もかかったりします

映画もちょっと長いので

途中で眠くなってしまいますし

ドラマはよほど面白くないと

最終話までもちません

わたしは

わたしの作った物語が

よのなかでいちばん

おもしろ

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『だから今宵はひとり寂しく』

『だから今宵はひとり寂しく』

新年も明けて早2週間が過ぎ

クリスマスから続く宴は

未だお開きの予兆すらない

王族も一般人も

公務員も遊び人も

警察官も囚人も

重病人ですら

医者から見捨てられ

また医者自身は解放されて

ひとり残らず宴に参加する

文字通り国を挙げて

どんちゃん騒ぎをするのが

ふるくからの習わし

もっともこれは

友好的な隣国のおかげで

生きながらえていると

言ってかまわない

なぜな

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『2週間ごまかして』

『2週間ごまかして』

来年のカレンダーを買った

リビングに掛けるもの

ワークスペースのデスクに置くもの

それから

トイレの日めくり

元日を迎えた

12月始まりの

カレンダーでも

僕はしっかり元日から

めくる

いっせいにめくる

あけおめ

めくおめ

リビングの大きなやつを

めくって驚いた

今年は1月が

14日しかない

どういうことよ

印刷ミスかなって

卓上カレンダーを

めくってみたら

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『[ きょうのあなたは人生で』

『[ きょうのあなたは人生で』

まどろんでいる

あのオンナに

だいぶ飲まされたみたいだ

石油が掘れたら

シャンパンを飲むんだよ

ええっときょうは僕の

30回目の誕生日

その前々々々々々々夜祭だったか

とにかく毎晩派手に

やっている

宴はすっかりお開きになって

妖艶な美女もどこかへ

陽気な仲間たちも

どこかへと散ったようだ

[ きょうのあなたは人生で4,751番目に幸せな日でした ]

あぁそうかい

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『クラゲ』

『クラゲ』

姉の子を預かった

結婚記念日くらい

夫婦ふたりで食事に行きたいと

姉が吐露していたもので

来年の春から小学生

何度も会っている姪っ子

手を引いて

電車に乗って

水族館へ

ラッコさんだよ

かわいいね

クラゲさんだよ

ふしぎだね

イルカさんのショーが

始まるのかな

休日だから

開演30分前には

もう席は満杯

俺は姪っ子を抱き上げて

最後列の後ろの柵から

近くで観

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『じいちゃんをハワイに置いてきた』

『じいちゃんをハワイに置いてきた』

じいちゃんをハワイに置いてきた

理由は

なんとなく

ホノルルを飛び立って

俺と妹と両親とばあちゃんと

みんなで大爆笑

4泊6日の旅程だった

ビーチでのんびりしたり

買い物をしたり

なんか美味しいものも食べて

俺も妹も両親もばあちゃんも

それからじいちゃんも

みんなで楽しんで

こんな旅行

一生に一回だよねって

みんなで口を揃えて言ってて

あでも

「けっこうベタじゃな

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『あんなやつどうでもいいけど』

『あんなやつどうでもいいけど』

こないだの休日出勤の

振り替えがあって

とくに予定もないから

リラックスのために

仕事のことを忘れて

それに

プライベートも含めて

デジタルデトックス

つまり

スマホは放置

もちろんPCも使わない

テレビだって観ない

あっそうそう

彼氏とも連絡オフ

一方的に

メッセージを送り付けて

電源オフ

きょう一日を

そんな風に過ごしてみたんです

アラームをかけなくても

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『ゆとり、呼び出される』

『ゆとり、呼び出される』

♪たんたらたんたらったったーたららららん

(iPhoneのあの着信音)

♪たんたらたんたらったったーたららららん

ゆとり「あい…

弟弟子 泡狸「ゆとり兄さん師匠がお呼びです

ゆとり「いやだよ説教だろ…

泡狸「そうおっしゃらずすぐいらしてくださいな

--

ゆとりの演芸の師匠 六代目 多感亭思春季
東京 鶯谷の自宅にて

ゆとり「遅くなりました

思春季「 R-1 また出るんだろ?

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『文字通りスリープモードになり』

『文字通りスリープモードになり』

誰にも言っていないけど

私は人造人間

見た目はごく平凡な

日本人男性の顔と体つき

知能と運動神経は

中の中

ほんとうは食事はいらないし

恋愛にも興味がないのだけど

社会生活を円滑に

営めるように

消化機能や

生殖機能もついている

私のほんとうのエネルギーは

電気

1日3時間の充電で

20時間以上は持つから

昼間の稼業はサラリーマン

会社から帰宅すると私は

文字通

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『あぁ欠航が決まった』

『あぁ欠航が決まった』

予定のフライトは荒天のために

大幅にディレイしていた

陸路を選ぼうにも

同じように荒天で思うように

進めないと聞いている

ひとり自分はコーヒーを啜り

出発ロビーの喧騒を眺めていた

慌てても仕方があるまい

目的地への連絡は

係の者が済ませているようす

あぁ欠航が決まった

ひとまずここは

家族へ連絡のうえ

来た道を返し自宅へ

じゃなかった…

午後から授業だって

マジかよ

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『一生やってろ』

『一生やってろ』

担任をいじめて休職に追いやったら

翌日からすぐに

学年主任が臨時担任になって

学年主任は

進路指導の担当でもあるから

担任いじめの主犯格の俺は…

って俺が

みずから手を下すわけないだろ

俺の言いなりの連中が

担任の給食に

理科室のアレを混ぜたり

担任の愛車のマフラーに

理科室のアレを入れたり

ぜんぶあいつらがやったこと

俺は知らねえよ…

なんて言う必要もなく

形式的

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