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『まぁそう怒らずに』


「んじゃおりゃー!

「んやこの野郎!


午後の休憩室に怒号が飛び交う


「おまえが俺の焼きプリン喰ったんか!

「なわけあるかボケしばくぞ!


N先輩とS先輩が

しょうもないことで揉めている


僕はちょうど同じ時間に休憩の

A子さんに見とれている


怒号に眉をひそめたA子さんが

うるさいよねって話しかけてくれた


それだけで僕は有頂天になって


「そしたら誰が盗ったっちゅうねや!

「知るか俺は関係あらへん!


N先輩はまだS先輩を問い詰めてる


「ほんまにお前とちゃうんやな

「あぁそうや別のやつやろ


と思ったら急に静まって


「おい


僕は弁当を食べ終え

コーラをがぶ飲みしていた


「おい、おまえ


A子さんは窓の外を見て

ラテか何かをすすっている


「おい、おまえ


なんとN先輩は

僕を呼んでいるようだった


「おまえ俺の焼きプリン…


嫌疑が僕に向いてきた


「喰ったやろ?


なわけない


なことはない


たしかに今朝

出勤したときに


共用の冷蔵庫に

美味しそうな焼きプリンがひとつ


寝起きすぐに飛び出してきて

腹が減っていたこともあって

僕は深く考えずに

手を伸ばしてしまった


「正直に言わんと、わかっとるな?


僕は

僕じゃありませんと言う


そして

A子さんが今朝

焼きプリンを食べるのをみましたと

言ってみる


はああああ?

と目を見開いて驚くA子さん


いっぽうN先輩はA子さんには

強く出られないようで

はがゆそうな顔を見せつつ

ズボンの膝のあたりを握りしめていた


僕はA子さんに蔑むような目線を与えて

仕事に戻っていく


A子さんは僕以上に

蔑みの目線で

僕を見ていた


そもそも焼きプリンに

ちゃんと名前を書いていない

N先輩が


悪いのではなく


ちゃんと名前が書いてあったのに

食べた僕が

いちばん悪い


いちばんっていうか

僕だけが悪い


N先輩にS先輩

それにA子さん


まぁそう怒らずに







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