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私の出会った先達の人生訓

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新聞社で定年を迎えたこともあって、夢を追い、共に生きる社会を願い、先達との邂逅に恵まれた。人生をより豊かにしてくれた先達との出会いを伝えよう。
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#エッセイ

私の出会った先達の人生訓 はじめます

私の出会った先達の人生訓 はじめます

 新型コロナ禍による世界の死者は、2021年6月現在380万人を超え、なお増え続けている。終戦の前の年に生まれた筆者は「戦争」を知らないが、まるで目に見えない敵との「戦争」のように思う。「人生80年」、それ以上の超高齢化社会の日本ゆえ、重症化や死亡率が高く予期せぬ難事となっている。昭和、平成、令和と生きてきたが、これほど命の儚さと、日常の大切さを思い知ったことはない。これまでの生とこれからの生を思

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沙漠緑化へ一筋の人生、遠山正瑛さん信念を貫く学究と実践、マグサイサイ受賞

沙漠緑化へ一筋の人生、遠山正瑛さん信念を貫く学究と実践、マグサイサイ受賞

 中国の広大な沙漠を緑化しようと一筋の道を歩まれた遠山正瑛・鳥取大学名誉教授が2004年2月27日に亡くなられて、はや18年の歳月が流れた。その遺志は受け継がれ、1991年2月、遠山さんが中心となって設立した日本沙漠緑化実践協会の「緑の協力隊」が、現在も活動を継続中だ。地道な国際貢献が評価され2003年8月、遠山さんは「アジアのノーベル賞」と呼ばれるマグサイサイ賞を受賞された。「我々は沙漠を研究す

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『西遊記』研究の第一人者、中野美代子さん  妖怪とたわむれ、孫悟空を蘇らせた“女傑”

『西遊記』研究の第一人者、中野美代子さん 妖怪とたわむれ、孫悟空を蘇らせた“女傑”

 短いようで長い人生、見知らね人との出会いは不思議だ。本来なら接点がない人と偶然か、必然か交差する。そして人生の一時期、懇親を重ねることになる。そうした不思議な出会いの一人に、北海道大学名誉教授で、中国文学者の中野美代子さんがいる。中野さんは、孫悟空が活躍する西遊記研究の第一人者だ。1997年6月、前年に北海道大学教授を定年後、札幌に在住していた中野さんに初めてお会いした。私が朝日新聞社で企画した

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漆職人の道へ回帰、角偉三郎さんを偲ぶ 銘と決別、能登に生き「わが道」を追求

漆職人の道へ回帰、角偉三郎さんを偲ぶ 銘と決別、能登に生き「わが道」を追求

 日本最大の漆産地として知られる石川県・輪島に、「かたち」にこだわる職人、角偉三郎さんがいた。「輪島に角あり」と一目置かれ、国内外で高い評価を受けてきた角さんは2005年10月26日に65歳で急逝し、17年になる。約15年ものお付き合いがあり、企画展の実現は私の宿題であった。死の直前、病床から代表作を集めた作品展に期待し、自ら作品リストを作成していた。作家から職人の道に回帰した「漆人 角偉三郎遺作

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あくなき挑戦、備前・陶芸家の森 陶岳さん備前焼の神髄めざし85メートルの巨大登り窯

あくなき挑戦、備前・陶芸家の森 陶岳さん備前焼の神髄めざし85メートルの巨大登り窯

 備前の陶芸家、森陶岳さんを知って、4半世紀になる。朝日新聞企画部に在籍していた時代に展覧会を企画して以来だ。その後もお付き合いは続き、火入れや窯出しの際は出向き、大阪や東京、奈良や岡山、輪島など各地でお会いしている。ただ新型コロナウィルスの感染もあって、ここ数年は電話で近況を聞いていた。しかし陶岳さんの作品は、年に数回訪ねる京都の相国寺承天閣美術館に常設展示されていて鑑賞している。備前特有の色合

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持続する志、獄死の朝鮮詩人「尹東柱」を一書に 4つの異なる側面から朝鮮近・現代史に触れる

持続する志、獄死の朝鮮詩人「尹東柱」を一書に 4つの異なる側面から朝鮮近・現代史に触れる

 韓国の代表的な詩人・金芝河(キム・ヂハ)の死去が伝えられてほどなく、やはり国民的詩人といわれる尹東柱(ユン・ドンヂュ)を取り上げた新刊が届いた。タイトルは『尹東柱・詩人のまなざし』(耕文社)。 

 著者は朝日新聞OBで大阪府枚方市在住の高橋邦輔さん(84歳)。著書に添えられた文章に「老境を迎えて、もう執筆と出版は無理と思ったが、尹東柱の清らかな詩風にいざなわれ、最後の仕事として小著を残すことに

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経済界で活躍した二人が70歳過ぎて著書パワー満載、自分の体験や、信念と志を社会へ発信

経済界で活躍した二人が70歳過ぎて著書パワー満載、自分の体験や、信念と志を社会へ発信

 超高齢化社会、定年後も長い人生が続く。とはいっても1回きりの人生をどのように生きるかは重大な問題だ。経済界で活躍されたお二人が、これまでの人生で、体験したことや、なおも志を持って生きていることを書き残し後世に伝えたいと、本を出された。いずれも思い入れたっぷりに綴った300ページを超すパワー満載の力作だ。とてもエネルギーのいる執筆だが、それだけ意義のあることだ。

 私の新聞社時代の先輩でもあった

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戦争を許さず、人間愛を追求した映画監督の新藤兼人さん 「生きているかぎり 生きぬきたい」生涯貫いた映画人生

戦争を許さず、人間愛を追求した映画監督の新藤兼人さん 「生きているかぎり 生きぬきたい」生涯貫いた映画人生

 映画監督の新藤兼人さんは、2012年5月29日他界し、はや10年の歳月が流れた。戦争を許さず、人間愛を追求した監督作品49作を遺し、100歳の大往生だった。99歳で49作目の『一枚のハガキ』を撮ったが、なお撮りたかった作品の創作ノートが私の手元にある。原爆をテーマにした「太陽はのぼるか」だ。一周忌を機に、亡き新藤監督への鎮魂のオマージュとして、『幻の創作ノート「太陽はのぼるか」―新藤兼人、未完映

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文化で国際貢献、元拉致問題担当大臣の中山恭子さん 地球市民の時代へ、「共生」の理念を追求

文化で国際貢献、元拉致問題担当大臣の中山恭子さん 地球市民の時代へ、「共生」の理念を追求

 人生の出会いは不思議なものだ。「袖振り合うも多生の縁」といった故事もあるが、まったく接点の無かった人と、交誼が拓けることもある。出会って後に、内閣官房参与に就任し北朝鮮による拉致被害救済で時の人となり、参議院議員として活躍した中山恭子さんもその一人だ。ある日、知己を得てから親交が続き、「共生」をテーマに各地で対談をさせていただいた。21世紀こそ、国境や政治の壁、宗教の違いを超えた地球市民の時代に

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壮絶に生き書き続けた作家の立松和平さん 人と自然を愛し、書くことは心の浄化

壮絶に生き書き続けた作家の立松和平さん 人と自然を愛し、書くことは心の浄化

 日本を代表する行動派作家として円熟期の活動を続けていた立松和平さんが2010年2月8日、62歳で急逝され、はや12年になる。『遠雷』で野間文芸新人賞(1980年)を受賞したのをはじめ、『毒−風聞・田中正造−』で毎日出版文化賞(1997年)、『道元禅師』で泉鏡花文学賞(2007年)を受け、小説のほか紀行文、絵本、戯曲など数多くの作品を遺した。「人はいかに生きるべきか」「自然や社会に対して人はどうあ

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生と死を見つめる、宗教学者の山折哲雄さん 「いのち」や「こころ」を伝える時代の語り部

生と死を見つめる、宗教学者の山折哲雄さん 「いのち」や「こころ」を伝える時代の語り部

 宗教学の第一人者である山折哲雄さんは、親鸞や蓮如、日蓮やダライ・ラマらの思想や生き方だけでなく、美空ひばりの感性を取り上げる一方、幸福と成功を追求する人生に一石を投じた『悲しみの精神史』(2002年、PHP研究所)を著す。生と死を見つめ、宗教とは何か問い続ける山折さんは昨年2月、重度の肺炎に襲われた。呼吸困難に苦しみ、死を意識したというが、治療の甲斐があって回復した。今年5月の朝日新聞に、「現代

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文化財保存に貢献、日本画家の平山郁夫さん 〜平和を求め、仏の道を描いた平山芸術の足跡を追悼

文化財保存に貢献、日本画家の平山郁夫さん 〜平和を求め、仏の道を描いた平山芸術の足跡を追悼

 日本画壇の重鎮であった平山郁夫画伯が2009年12月2日に逝去され、2021年13回忌を迎えた。生前は画家として《仏教伝来》や一連のシルクロードを描いた数々の名作を遺しただけでなく、ユネスコ親善大使、文化財保護・芸術研究助成財団理事長、東京藝術大学学長など、さまざまな立場での業績をはじめ、国際的な文化財保存や平和活動でも貢献された。1998年に文化勲章、2001年にマグサイサイ賞など国内外から数

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アフガニスタン往還半世紀の前田耕作さん
バーミヤン遺跡調査など文化財保存活動を続ける

アフガニスタン往還半世紀の前田耕作さん バーミヤン遺跡調査など文化財保存活動を続ける



書斎でくつろぐ前田耕作先生(2008年、前田耕作さん提供)

 私が少年であったころ、日本は戦争のさなかにあった。戦争というものに終りのあることを初めて知ったのは、1945年8月15日であった。それからも世界にはいくたびも戦争が起こった。燃えては消え、消えては燃え、いまなお戦火はおさまっていないのが、わが愛するアフガニスタンである。

 この文章は、和光大学名誉教授の前田耕作さんが『アフガニス

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考古学者で文化人類学者の加藤九祚さん  シベリア抑留を体験、老いて遺跡発掘の生涯

考古学者で文化人類学者の加藤九祚さん シベリア抑留を体験、老いて遺跡発掘の生涯



2002年に受章した「ドストリク」(友好)勲章を胸に正装の加藤九祚さん
(2008年、奥野浩司さん撮影)

■シルクロードの名著、90歳過ぎても現場へ
 90歳を過ぎても、シルクロードの要衝の地、ウズベキスタンで遺跡の発掘調査を続けていた考古学者で文化人類学者の加藤九祚(きゅうぞう)さんが、発掘のため訪れていた南部・テルメズの病院で2016年9月12日に亡くなって5年になる。94歳だった。大半

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