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狩猟採集民から学ぶ:適切な運動量とその効果

この記事の概要

適切な運動量は、1日あたり8000歩、週2~3日の筋力トレーニング、週150分以上の有酸素運動が推奨されています。運動が体に良い理由は、人間の遺伝子の初期設定がまだ狩猟採取時代のままで、歩いたり走ったりすることで心身のパフォーマンスがよくなるように設計されているためのようです。現代の生活習慣(運動不足、食べ過ぎ等)と遺伝子の設定とのミスマッチを解消するための手段として運動習慣がとても有効だと思われます。

私の心配ごと

自分が生活習慣病になってしまうのが心配です。特に、糖尿病、心筋梗塞、脳梗塞辺りが心配です。それから、すぐ疲れやすくなったり、やる気がどんどん減っていることも気になっています。できればパーキンソン病や認知症にもなりたくないと思っています。

また、自分の場合は疲れてしまうと、ストレス反応で、回避行動やシャットダウン(心を閉ざしてしまう)が起きやすく、ストレス耐性、他者への寛容度が低下すると感じています。

それらを解決する上で、体力をつけること、運動の習慣化が大切なのは間違いないと思います。ちなみに、私の2023年の1日の平均歩数は、6179歩でした…。

では、以下の2つの問いについて整理してみたいと思います。

  1. どれくらいの運動をするのが良いのか?

  2. なぜ運動が心身の健康に良い効果をもたらすのか?

これらの問いについて、アンディシュ・ハンセンの「運動脳」、ジョン・J・レイティの「脳を鍛えるには運動しかない!」、ダニエル・E・リーバーマンの「人体600万年史 上」「運動の神話 下」などを読み、日本のメジャーな指標も眺めつつ、私なりに整理してみました。

1・どれくらいの運動をするのがいいのか?

適切な運動量は人それぞれによって異なりますが、以下の指標を参考にして一般的な指標を確認してみたいと思います。

① 厚生労働省が推進する指標(健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023:第三次健康日本21)

では、1日8,000歩、週2~3日の筋力トレーニング、週60分以上の強度の運動が推奨されています。
(参照 https://www.mhlw.go.jp/content/001204942.pdf)


② 上浩輔 京都大医学研究科助教と津川友介 カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)准教授らの研究グループ

は、週に1日または2日でも1日あたり8,000歩の歩数を達成することで健康に良い影響が得られることを明らかにしました。
(参照 https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2023-03-30)


③群馬県中之条町の65歳以上の全住民である5000人を対象に行った中之条研究

では、1年の1日平均歩数が8,000歩以上で、その内、その人にとっての中強度活動(速歩きなど)時間が20分以上含まれていることが期待されます
とのことです。

「1年の1日平均の身体活動からわかる予防基準一覧」に関しては、「4000歩(内中強度の活動5分)でうつ病予防」の効果という記述もあります。

こちらのページを参照
http://kenju-jp.com/nsystem/


④ アンディシュ・ハンセンの「運動脳」

では、「脳のための最高のコンディションを保つためには、ランニングを週に3回、45分以上行うことが望ましい。重要なポイントは、心拍数を増やすことだ。」P355
「週に2回以上運動をしている人は、ストレスや不安とほぼ無縁」p90
と述べています。


⑤ ジョンJ・レイティの「脳を鍛えるには運動しかない!」

では、アメリカの公的機関の提言として、「少なくとも週に5日、中強度(ジョギング)の有酸素運動を30分するのが望ましい」p313

デューク大学の運動生理学者ブライアン・ドゥシャの提言として「週に6日、なんらかの有酸素運動を45分から1時間するのが理想。そのうち4日は中強度(ジョギング)で長めにやり、あとの2日は高強度(ランニング)で短めにする。」p314
などの記述があります。


⑥ダニエル E リーバーマンの「運動の神話」

では、「世界の主要な保健機関のほとんどが提唱しているのは、「週に少なくとも150分間の中強度または75分間の高強度の有酸素運動を行ない、それに加えて2回のウェイトトレーニングを行なう」p177

「まとめると、週に最低150分の運動は、他のどれにも劣らない良い処方であり、明確で達成可能な量」p.184

という記述があります。


まとめ1

以下に、上記を踏まえて、一週間での適度な運動量をまとめてみたいと思います。それぞれ表現の仕方や違いがあれど、重なっている部分があると思います。

  1. 歩数: 1日あたり8,000歩。週に1日または2日でも8,000歩以上歩くことで健康に良い影響。

  2. 筋力トレーニング: 週に2~3日行うことが推奨される。

  3. 有酸素運動: 週に少なくとも150分間の中強度(ジョギング)または75分間の高強度(ランニング)の有酸素運動を行う。
    例えば、週に5日、中強度(ジョギング)の有酸素運動を30分する。

  4. 理想:週に6日、なんらかの有酸素運動を45分から1時間する。
       :脳のための最高のコンディションを保つためには、週に3回、45分以上の高強度(ランニング)の有酸素運動が望ましい。

5.ストレス管理: 週に2回以上運動をすることで、ストレスや不安とほぼ無縁に。

※「中強度の有酸素運動とは、その人の最大心拍数の50~70%に当たる運動量、高強度の有酸素運動とは、最大心拍数の70~85%に当たる運動量と定義されている)p.183 「運動の神話 下」。
※最大心拍数は220から年齢を引いた数字


2・なぜ運動が心身の健康にいい効果をもたらすのか?

運動がなぜ、体にいいのかをアンディシュ・ハンセンの「運動脳」ジョンJ・レイティの「脳を鍛えるには運動しかない!」ダニエル・E・リーバーマンの「人体600万年史 上」「運動の神話 下」などを読んで私なりにまとめると以下のようになりました。

運動が体に良い理由は、人間の進化の過程と深く結びつけて語られているようです。

①進化の過程

人間の体は、約600万年前から始まった二足歩行と、それに続く狩猟採集生活に適応して進化してきました。この過程で、人間は長距離を歩く、または走る能力を獲得しました。

狩猟採取内容の変化
木のみの採取➡塊茎の採取➡持久狩猟➡槍や弓を使った狩猟へと拡大
(持久狩猟は、獲物が逃げ疲れて倒れるまで追いかけ続ける狩猟方法)

例えば、現存する狩猟採集民(アフリカのハッザ族)は、1日に男性では約14キロ、女性では約9.5キロ歩いているとのことです。これは、1㎞あたり1428歩とすると、男性では約19,992歩、女性では約13,566歩に相当します。(参照:https://読めばなるほど.com/archives/6210.html)


②生存のための運動

人間の祖先は、食料を得るためや危険から逃れるために、必要に迫られて運動していました。そして、必要がなければ極力カロリー消費を抑えたいという遺伝子の設定があるとのことです。なので必要がなければ運動しないというのも理にかなっています。


③運動で、脳など体のパフォーマンスがよくなる

運動は脳にも良い影響を与えます。獲物を追跡する際には、忍耐強さ、楽観性、集中力、やる気などが必要で、これらはセロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンなどといった生存を支援する物質をもたらしてくれます。現代社会においても運動をすることで、仕事や勉強などのパフォーマンを応援する物質が出やすい状況が生まれます。

逆に、運動をしないと、パフォーマンスを支援する物質があまり出ない状態になってしまうので、やる気や集中力の低下、悲観的な感情になりやすい、我慢できないなどの状態が起こりやすくなると考えられます。

(※それに加えて、過剰にドーパミンを出してしまう報酬系として、スマホ、ゲーム、砂糖をはじめとした炭水化物の刺激により、興奮状態(過覚醒、不安、イライラを感じやすい)と、それからの離脱症状により、無気力状態になりやすい状況が現代社会にあると思います。)


④現代の生活習慣とのミスマッチ

現代の生活環境は、農耕文化、産業革命、インターネットの普及を経て、人間の体が進化の過程で適応してきた狩猟採集生活とは大きく異なってしまいました。人類史を24時間に例えると、狩猟採取生活は、24時間のうち、23時40分までを占めているとのことです。

食事と運動面でもミスマッチが起こっており、これが生活習慣病の原因となっています。運動しないでも食料が手に入ってしまう環境は、人間の遺伝子がまだ想定していないものです。

ミスマッチによって起こる疾患としては、肥満、2型糖尿病、心血管疾患、がん、アルツハイマー病、うつ病、不安障害等々が考えられるようです。

現代人は、食料を得るために体を動かす必要がほとんどないため、運動不足になりがちですが、あえて運動をすることで、このミスマッチを解消し、生活習慣病の予防、改善ができるということになります。

(※食料を得るために運動(狩り)をする必要がないのに、あえて運動しなければならないのが難しいところです。本能的に不必要な運動(カロリー消費)はしたくないという設定に抗ったり、運動すればやる気が出るが、やる気がないと運動しようと思わないというパラドクスに挑まないといけません。)


⑤適度な運動の重要性

運動は適度に行うことが重要です。運動量が長寿に与える影響は、年齢が上がるほど大きくなるとされています。「毎日、意識的に歩くと認知症の発症率を40%減らせる p319「運動脳」」との記述もあります。
また、必要な運動をしつつ、極力のんびりする時間を作ることで、メンタルヘルスにも良い影響を与えると思われます。

以上のように、運動が体に良い理由は、人間の遺伝子の初期設定は、まだ狩猟採取時代のままであり、現代の生活習慣とのミスマッチを解消する上で、狩猟活動の代替となる適度な運動が欠かせません。
適正な運動をすることで、前向きな気持ちや、集中力、意欲、多幸感を向上する神経伝達物質(セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリン等)やホルモン(エンドルフィン等)が出たり、記憶力や脳の働きを促進するBDNF(脳由来神経栄養因子)が分泌します。また、偏桃体の暴走を抑え、前頭葉や海馬の働きを活性化させる効果もあるとのことです。


主な引用

「一日に男性では約14キロ、女性では約9.5キロ歩く」

p12 「運動の神話 下」

「獲物を追跡しているあいだ、私たちの祖先は忍耐強さ、楽観性、集中力、そして、やる気を保ち続ける必要があった。それらはすべてセロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンの影響を受けるのだ。」

p317「脳を鍛えるには運動しかない!」

「運動を終えるとコルチゾールの血中濃度が下がり、次回からはあまり上がらなくなる。また、ストレス反応のブレーキペダルである海馬と前頭葉が強化され、不安の引き金である偏桃体の活動が抑えられる。」

P87「運動脳」


まとめ2

現代の生活習慣とのミスマッチを解消する上で、狩猟活動の代替となる適度な運動は欠かせません(新たな遺伝子の適応が起こるまで)。食べすぎに気を付けながら、週2~3日の筋力トレーニング、週150分以上の有酸素運動を意識して続けてみたいと思います。

私の場合は、具体的には、ジムで、週3日は筋力トレーニング、週5~6日は5km(35~50分)以上のウォーキングまたはジョギング(中強度:心拍数85~119)、ランニング(高強度:心拍数119~144)を実施。可能であれば週3回は、高強度のランニングを実施(朝にランニング)。一週間の平均歩数が8,000歩を超えるようにしたいと思います。


参考文献

「脳を鍛えるには運動しかない!」著 ジョンJ・レイティ 訳 野中香方子 NHK出版 2009年
「運動脳」著 アンディシュ・ハンセン 訳 御舩由美子 サンマーク出版 2022年
「人体600万年史 上──科学が明かす進化・健康・疾病 」 著 ダニエル・E・リーバーマン 訳 塩原 通緒 早川書房 2017年
「運動の神話 下」著ダニエル・E・リーバーマン 訳  中里 京子 早川書房 2022年


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