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短編集

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小説家になりたい夢__ ショート・ストーリーを中心とした物語です。
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#詩のようなもの

短篇 「気骨」

短篇 「気骨」

〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜

老剣士は若い弟子に
剣術稽古をつけるのが
唯一の生き甲斐だった

若い弟子は
この老剣士から
学ぶことが多く
人生の師と仰いでいた

稽古は苛烈である

時に老剣士は面を外しては
「思い切りかかって来なさい」
と愛弟子を鼓舞する

弟子は躊躇するものの
「無心で撃つべし」
と言う老剣士の気魄に押されるように
意を決して打ち込んでゆく

面を外し

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短編「Swallow Tales」

短編「Swallow Tales」

〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜






五月だというのに
季節外れの猛暑が到来した

まだ来ぬ梅雨を通り越して
湿り気のない暑さを凌いでいると
一羽のツバメが飛んで来た

わたしは恐る恐る
窓をほんの少しだけ開けてみる

彼は群れから離れて
一番乗りに飛来したけれど
この突然の暑さで
むしろ取り残された風に
目を円くしている姿に
愛らしさがあった

彼とははぐれ者同志と

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短編「冬の終止符」

短編「冬の終止符」

〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜

或る雪の降る夜だった

彼からの別れの電話
もう繋がることはないことを
悟ったあの日の夜

それ以来
ひたすら仕事をすることで
彼のことを忘れようとしていた

オフィスに独り__
時計を見ると22:00

外の寒さは厳しそうだと
ふと窓ガラスの霜をそっと手で拭うと
凍りついた窓に雪の華が咲いている

(すっかり遅くなってしまったようね。)

いつも

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短編 「雲は散る 空に儚き 夢の跡」

短編 「雲は散る 空に儚き 夢の跡」

〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜

わたしはあの日の出来事が脳裏に焼き付いて
離れることがない。

少年の瞳を持った男
Rと言う人物の生涯について、
わたしが見た出来事を筆にしたためる__ 。






それは__
青い光で激しく動いていた。

肉汁から作り出した培養基に
眩く光る物体が見える。

目に突き刺さるような放射が広がる。
Rはついに発見したのだ__ 。

内側を

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短編 「手のひらの銀河」

短編 「手のひらの銀河」

〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜

30数年ぶりに
あのアパートの前を通り過ぎる

周囲の風景もずいぶんと
変わってしまっていた

あのアパートの窓からは
部屋の灯りが灯っている

かつての想い出の空間には
見知らぬ新しい住人の
別の物語が営まれているのだろうか






初恋は淡い記憶にある__

若さは時として
盲目的なまでの恋に溺れる

夜の帳の中

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短編 「龍神の里」

短編 「龍神の里」

〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜


その昔__
とある人里で日照りがつづいた

このままでは収穫までに作物が干上がっていく
明日の糧をも危ぶまれる飢饉の事態に
陥ろうとしていた

この立ちはだかる自然の脅威を前にして
集落の住民たちは雨乞いをすることに決めた

山上にしめ縄を囲うように張り巡らせて
その中心には薪を組み上げかがり火を焚いた

雨乞いの儀式が始まる__

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