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短編 「龍神の里」

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その昔__
とある人里で日照りがつづいた

このままでは収穫までに作物が干上がっていく
明日の糧をも危ぶまれる飢饉の事態に
陥ろうとしていた

この立ちはだかる自然の脅威を前にして
集落の住民たちは雨乞いをすることに決めた


山上にしめ縄を囲うように張り巡らせて
その中心には薪を組み上げかがり火を焚いた


雨乞いの儀式が始まる__
祭主は御神酒おみきを口に含んでは
かがり火に吹きつける
その度に火の手の勢いが増してゆく

ついには轟々とした火柱となって
炎は天に向かって上がってゆく

その時である__
灼熱の炎から一匹の白蛇が現れた

白蛇はその身を捻じるように
炎の中をのたうち回る

祭主は持っていた鉄杖で「ええい」と
気合いを発して白蛇を打ちのめし
ついには息の根をとめた

すると突然
ほふったはずの白蛇から黒々とした暗雲が発し
暗雲はたちまち龍神の化身へと姿を変えた

灼けつく日差しの空はみるみると
隙間なく雲に覆われてゆく

龍神の化身のいななきが空気を震わせ
天地が覆えるような大雨が降りだした__

雨は山々の樹々に注がれ
高い所から低い所へと流れるように
清らかな恵みの雨が田畑を潤して
やがて海へと還っていく

龍神の化身はその身を大地に横たわらせて
大いなる河川へと姿を変えたのだった

それ以来
人々は恵みの雨の恩恵に感謝し
龍神を祀ることにした

それは現在も
人目に触れない山頂に在り
厳かに佇んで天下を睥睨していると云ふ

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地元の伝承を元にして創作した物語で
全てフィクションです。

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