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パンドーラーの池の底

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出逢った素敵な物語。
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#ショートショート

『掌』

『掌』

当時、僕は小学三年生だった。軽度の知能障害はあったけれど、みんなと同じ教室で学び、同じ給食を食べ、同じグラウンドを駆け回って遊んだ。

ある日の授業中、鼻をほじっているところを先生に見とがめられ、「煙突掃除はやめなさい」と注意された。僕のいけない癖だった。鼻の穴がむず痒くなると電車の中だろうとどこだろうと構わずにほじってしまう。

いじめが始まったのはその日からだ。帰り際に外履きを隠されたり、「近

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『ちーちゃんとかれはさん』

『ちーちゃんとかれはさん』

丘の上のまん中に、白くて大きな建物がたっていました。
その中庭に、太っちょの木が一本はえていました。
太っちょの木がいいました。

「オラオラ! はっぱども!
さっさと光採りこんでエーヨー運ばんかい!
太陽はんかて、いつまでも
照ってるワケにはいかんのやで!
陽がくれてまうわ!」

はっぱをかけられた はっぱたちは
夏のあつい陽射しの中、汗をカキカキ働きました。

たくさんの光をエーヨーにかえては

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『僕と金魚と星降る夜と』

『僕と金魚と星降る夜と』

大のクジラが二足歩行で歩いているのだから
ワニだって二足歩行で歩いていい。
こんな星降る夜なら特に。

口をあけて
星を食べると
金平糖のように甘い味がした。

霜の降りた道に
静かにバスが停まり、
魚たちが降りたり乗ったり
僕も乗らなきゃいけないはずなのに
体が動かない。

バスが去ってゆく。
赤いテールランプが峠の向こうにかすんで消える。
金縛りがとけて走り出す。
駆けても駆けても景色は同じ。

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Fortunate fall

Fortunate fall

 忍び寄る虎は、獲物が気づかぬうちに驚くほど距離を詰めていて、いきなり目の前に現れる。
 だから虎に遭遇した場合は、空腹ではないことを祈るしかないという話を聞いたことがある。
 ――私の場合は、もう手遅れだ。
 襲うと言ってもごく甘く、喰らうと言ってもひどく優しく、それでも残酷なほど私を魅了するあなたに。
 出逢ってしまえば、私たちはもう恋に落ちるだけ。
 あなたを想うことはこんなに苦しくて、こん

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受け月(朗読版)

いとうみほ

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連載中の「Frammenti di amore ~恋愛ショートショート」より「受け月」を朗読してみました。桃生かのこ様( https://note.mu/canokomonou )よりご助言いただき、今回初めてBGMをつけてみましたが、雰囲気出る感じがします…! 最初、雑音が少し入ってしまったのですが、なんとなーくでも夏祭りの空気を感じていただけましたら♪
本文: https://note.mu/

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