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「介護時間」の光景㊹「アイス」と「西部劇」。2.3.

 はじめまして、私は、臨床心理士/公認心理師越智誠(おちまこと)と申します。いつも読んでくださっている方は、ありがとうございます。

 元々は、家族介護者でした。介護を始めてから、介護離職をせざるを得なくなり、介護に専念する年月の中で、家族介護者にこそ、特に心理的なサポートが必要だと思うようになりました。
 ただ、そうした支援をしている専門家がいるかどうか分からなかったので、自分で少しでも支援をしようと思い、臨床心理士の資格を取りました。

(詳細は、下記のマガジンを読んでいただければ、ありがたいです)。

「介護時間」の光景

 この『「介護時間」の光景』シリーズは、介護をしていた時間に、どんなことを考えたのか?どんなものを見ていたのか?を、お伝えしていこうと思っています。

 特に、仕事もやめ、母の入院する病院に通い(リンクあり)、家に帰ってきてからは、妻と一緒に義母の介護を続けている時には、将来のことは、少し先のことさえ考えられなくなり、ただ、毎日の目の前のことだけを見るようになっていました。そのためか、周囲の違和感小さな変化にかなり敏感だったような気がします。

 今回も、古い話で申し訳ないのですが、19年前の2002年2月3日のことです。
 後半は、今日のこと(2021年2月3日)を書いています。

 同じ日付の、違う年の出来事を並べることで、家族介護者(今は元・家族介護者ですが)の変化のようなものも少しでもお伝えすることができるのではないか、という気持ちもあります。

 介護に専念している頃の方が、毎日のように、よくメモをとっていました。その時の記録です。

2002年2月3日。

節分の日
 いろいろと、公募している賞に勝手に送ろうと思い、自分で締め切りを作って、それで自分だけで、秘かに焦っている。
 地元で、花を買って、カリウム不足といったことを医師に言われてから持っていくようにしたバナナも買って、それから節分の豆も購入した。

 それから病院に向かって、午後4時半頃に着く。

 豆を見せたら、「今年はやらなかったのよ」と病院では行事として、やらなかったようだ。

 だから、持っていった豆25グラムを、ものすごくささやかに「福はうち」と声を出して、豆をまいた。

 個室とはいえ、病院だし、ものすごくささやかで遠慮がちで、何か悲しくもなったけれど、できて、よかった。

 そのあと、まかなかった豆を、一緒に食べた。こんなにささやかだけど、何もないよりは、よかった。

 好きな飲み物が、病院に入る頃から、また変わったみたいで、いろいろと試すように持ってきているのだけど、この前買った飲むヨーグルトは、どうも今はダメになったようだ。

 午後5時半までに、トイレに2回行く。

「〇〇ちゃんが、3階に行ったんですって」。

 その人は、よく声をあげていた。ここは4階だから、1フロア下に行った。

 地味だけど、なんだか悲しい変化に思って、そして、そのことは、この病棟の婦長さんが教えてくれたそうだ。
 母が「〇〇ちゃん」といった人は、この病院に最初に来た頃は、いつもぼんやりと座っていた姿を思い出す。

 夕食にさつまいもがあって、母は喜んで食べていた。

 食事の机。自分の名前のシールが貼ってある机があって、そこに移動したいというので、何が変わるか分からないのだけど、そこにうつった。

 映画を見たそうだけど、母の話だと、よく分からなかった。
 時代劇、っぽいらしい。
 柳生の話?と聞いてみたら、
 うーん、そうみたい、という微妙な反応。

 あ、市川雷蔵が出ててね。

 もう、私も知らない、さらに昔の映画のようだ。
 渋いね、と答えるくらいしか、できなかった。

 夕食を35分で食べ終わり、その後、すぐにトイレに行く。

 その後、病院のスタッフに聞かれて、「小12回、大1回」と答えていた。

 午後6時50分に、またトイレに行き、午後7時に面会時間が終わったので、病院を出た。

 雨が降っている』。

アイス

 病院を出たら、雨が降っていた。細かい氷のような、という事は雪に近いかもしれないけど、雨だった。

 バスに乗るために、近くの病院へ行ったら、ロビーでアイスを食べている若い人がいた。テレビがついている。梅のニュースが気になる。

 母をどこかへ外出で連れていけないだろうか?と思う。送迎バスが来て乗ったら、スタートした時も5〜6人しかいない。こんなに少ないのは初めてかもしれない。
                   
                     (2002年2月3日)

 西部劇

 夜、川崎から京浜東北線に乗る。細長い7人かけの座席に、それぞれ1人か2人くらいしか座ってないくらい空いていた。
 座席の間の真ん中くらいの床の上に、2センチくらいの、楕円型のホコリの固まりがあった。風のせいか、ころころと転がっていく。 

 これから撃ち合いを始める西部劇で、いつも、こんな風に転がっていく草があった(確か、正式名称があったはずだけど)。それと似た静かさが車両の中にもあった。

                     (2002年2月3日)

 2007年には、母親が亡くなり、2018年の年末には義母が亡くなり、突然、介護が終わった。


2021年2月3日。

 天気がいい。
 緊急事態宣言が、延長された。
 だけど、何かがよくなるような予感はない。
 ただ、自分たちで気をつけて、感染のリスクを下げていくしかない。

 それでも絶対に感染しないわけではない。

 妻は、介護の途中でぜんそくを持ってしまった。今も朝と夜に薬の吸入を続けている。持病を持っている人は、重症化のリスクが高い、というのは聞いていて、今回の新型コロナウイルスは急速に肺炎になると聞いているから、やはり持病の中でも、ぜんそくは怖い。

 だけど、そうした不安を少しでも軽くするようなことが、政府なり、いわゆる権力ある場所から、伝わってくることは、この1年はなかった。

 だから、そういう期待をするのが間違いだと思っているのだけど、でも、少なくとも感染した時に、状況によっては、すぐに入院できるようにしてほしい。それは、個人の力ではどうしようもできない。

 自宅待機をするしかない状況の中で、亡くなってしまう、というニュースを知る機会だけが増えて、やはり、怖さがじわじわと増している。

節分

 昨日の夜は、節分だった。
 こんな時期だから、と思ったのだけど、豆を買ってきて、まだ日が明るいうちに、ささやかにまいた。

 夜に、ご近所からも、福はうちー、という声が聞こえてきた。

 
 今日、洗濯をしようと思って、洗濯物を入れたら、カゴの底に、なぜか、昨日の豆があった。
 拾ったと思っていたのに、まだ、あちこちに豆がある。


縮む心
 

 昼頃、コンピュータのOSの更新をしたら、りんごのマークが現れては消える、が続いていたので、昨年みたいに、また使えなくなってしまうのだろうか(リンクあり)。と重い気持ちになっていた。

 昼ご飯の支度をしながら、30分くらいそのままにしておいた。それからノートブックのフタをいったん閉めて、そこから起動させたら、いったん画面が最初のものになって焦ったものの、そこからパスワードを打ち込んだりしたら、なんとか元に戻り、アップデートも完了しているのも確認できたら、少し遅れて、独特の安堵感がやってきた。

 少し疲れる。

 このところ、気持ちも体も思考も縮み続けているような気がする。

コンビニ

 出かける時も、なるべく近いところに行こうと思って、一番近いコンビニにする。
 近い親戚に頂いたクオカードがまだ使えるからで、それを持っていく。こういうプレゼントは見るたびにありがたい。

 コンビニに入り、いろいろと選んでいたら、ドアが開いて、「きゃーっ」という小さい女の子独特の明るい声と、走り込んできたらしい小さい足音が響く。

 そのあとすぐに、「たんじろうー」という言葉が続き、そんなに「鬼滅の刃」は、子供の世界にがっちり定着しているのかと、見たこともない人間でも、思う。それから、「たんじろうのおかし」という声になった。

 それから商品を選んでカゴに入れて、レジに向かったら、さっきの声を出したらしき女の子(たぶん3歳くらい)と、その兄(5歳?)と思われる男の子と、祖父母であろう4人が一緒に、もう店を出るところだった。二人の子供の手には、買ったものが大事そうに抱えられていた。

 コロナ禍のことを、ほんの少しだけ忘れられた。




(他にも介護のことを、いろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでいただければ、うれしく思います)。


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