映画と精神医学(5): JOKER(ジョーカー) ~アメコミ史上最も有名な悪役の精神医学的診断~
皆様、こんにちは!鹿冶梟介(かやほうすけ)です。
米国のアメコミ「バットマン」はご存知ですよね?
若き富豪ブルース・ウェインがコウモリのコスチュームを纏い、無法都市「ゴッサムシティ」に蔓延る悪と戦う物語!
そして、正義のヒーロー「バットマン」に敵対するヴィランとえいば、はやり「ジョーカー」ですよね!
真っ白な肌、緑色の髪、裂けた口…、つまりピエロ(道化師)のような格好をした邪悪かつユーモアのあるトリックスター…。
まさに正義(バットマン)に対するアンチテーゼとも言えるキャラクターです。
「世界で最も有名な悪役」であるジョーカーですが、2019年に彼の生い立ちについて描かれた映画「JOKER」が上映されました。
実は小生「JOKER」を観ていなかったのですが「Amazon Prime」で視聴できることを知り、早速チェックしてみたところ…、
「これは、精神医学ど真ん中の映画やないかい!?」
...ということに気づき、早速文献を調べてみたところ、やはり世界には同じことを考える医学者はいるものですね…😅
そこでシリーズ「映画と精神医学」の第5回目は、映画「JOKER」の主役ジョーカー(アーサー・フレック)に関する医学文献を中心に、小生が映画「ジョーカー」を精神医学的に解説いたします!
なお内容をわかりやすくするために、鹿冶が論旨を買えない程度に論文の概要に加筆・修正しております。
また本記事はネタバレを含みますので、映画「JOKER」を是非ご視聴のうえでご高覧ください!
↓映画「JOKER」、狂おしく悲しい物語です。
↓Amazon Primeでのご視聴はこちら!
【映画「JOKER」とは?】
DCコミックス「バットマン」に登場する「ジョーカー」の生い立ちを描いたサイコスリラー映画。
2019年公開。
監督:トッド・フィリップス、主演:ホアキン・フェニックス。
同作品はR指定映画にもかかわらず10億ドルの売り上げを記録し、ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞、アカデミー賞では主演男優賞、作曲賞を受賞した。
<あらあすじ>
これは後に「ジョーカー」と呼ばれる青年アーサー・フレックの物語。大都市「ゴッサムシティ」で認知症の母親の介護をしながら大道芸人として日銭を稼ぐアーサーは、ある日トラブルに巻き込まれエリートビジネスマン3名を射殺してしまう…。動揺するアーサーだが、自らの中で味わったことのない高揚感が溢れ出すことに気づく...。
【論文紹介】
<目的>
トッド・フィリップス監督の映画『ジョーカー』に登場する、ジョーカー(アーサー・フレック)を精神医学的に分析する。
<方法>
同作品を精神科医が鑑賞し、作中のジョーカーの言動がDSM-5(米国精神医学会診断基準)や神経疾患の診断基準と照らし合わせる。
<結果>
作中のジョーカーの言動から、ジョーカーは以下の疾患に罹患している可能性が高い。
1.情動調節障害(PBA: pseudobulbar affect)
作中ジョーカーは発作的に笑い出し、またその笑いを止めようと思ってもなかなか止められない…、という症状を呈するがこれはまさにPBAの症状である。
情動調節障害(PBA)は、自分で制御できない情動発作を繰り返す神経障害の一種。
PBAの症状としては、突然、制御不能な泣いたり笑ったりするエピソードが特徴的である。これらのエピソードは過剰で、状況やその時の患者の基本的な気分と矛盾していたり、不釣り合いである。
PBAの原因として、外傷性脳損傷、脳血管障害、ALS、多発性硬化症、パーキンソン病、アルツハイマー病などが挙げられる。
ジョーカーは幼少期に繰り返し母親から受けた身体的な虐待の結果、外傷性脳損傷が生じ、その後遺症としてPBAを発症していた可能性が高い。
2.自己愛性パーソナリティ障害(Narcissistic personality disorder: NPS)
DSM-5における自己愛性パーソナリティ障害の基準をもとにジョーカー(アーサー)がNPSであるかを診断する。
<結論>
作中のジョーカーは神経疾患(情動調節障害)と精神疾患(自己愛性パーソナリティ障害)に罹患している可能性が示唆された。しかし両疾患の併存は珍しく、精神疾患を理解しようとする観客にとってはかえって混乱を招くかもしれない。
↓作中に出てきたピエロのマスクです!今年のハロウィンはこれで決まり?(ちょっと気が早い?)
【鹿冶の考察】
論文で下されたジョーカーの診断および作中の描写について、精神科医である小生が注目するポイントを補足説明したいと思います。
記事作成のために、書籍や論文を購入しております。 これからもより良い記事を執筆するために、サポート頂ければ幸いです☺️