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「朝日新聞社長・中江利忠物語」を読みたい

リストラされたり、早期退職したりした朝日の元記者が、たくさん統一地方選に出るそうですね。

それもいいんですが、せっかく身についた取材力や文章力がもったいなくないですか。

古巣の元社長、中江利忠氏を取材して、誰か「中江利忠物語」みたいな本を書いてくれないでしょうか。

「中江利忠物語」を、私は読みたいのです。


中江氏は存命ですが、もう90代後半です。(1927年生まれ、95歳)

取材するなら、もうギリギリなんですよね。


中江利忠氏は、1989年から1996年まで、朝日新聞社長を務めました。

キング・オブ・捏造、珊瑚記事捏造事件で辞任した、一柳東一郎社長の後任でした。

平成元年、リクルート事件、天安門事件、冷戦の終わり、ソ連消滅、バブル崩壊、阪神大震災、オウム真理教事件・・と大事件が連発した歴史の転換期の社長です。


今回、wikiの記述を見て、彼が「華麗なる一族」の一員であり、地方採用にもかかわらず早くから社長候補となった事情を知りました。


松本重治、白洲次郎、犬養毅、緒方竹虎、朝日新聞社主の上野家などとつながっていました。華麗すぎる・・・

でも、もちろん、家柄だけの人ではありません。


wikiにも書いてありますが、その中江社長の前で、右翼の野村秋介が抗議の拳銃自殺をしました。(1993年10月)

その事件の詳細も、中江氏の口からはまだ語られていません。

自殺の直前、中江氏と野村氏の間で会話や「取引」があった、と昔ゴシップ誌で読みましたが、本当のところ、どうだったのでしょう。

野村氏が拳銃を取り出したとき、中江氏は、自分が殺されるという恐怖はなかったのでしょうか。(そして、中江氏の応答次第では、そうなる可能性もあったのではないでしょうか)


この事件を私は、「新聞社10大スキャンダル」の1つに挙げました。


その「10大スキャンダル」に挙げた「毎日新聞社長監禁事件」の被害者である斉藤明氏は、事件について語ることなく亡くなりました。

こうした重大事件の真相がわからないまま終わるのは、歴史の損失だと思います。


また中江氏には、wikiには書いていない、他の重要な「経歴」があります。

1つは、林真理子氏が『綴る女』(2020)で描いた、作家・宮尾登美子との密接な関係です。

宮尾登美子は、死後は急速に忘れられてしまいましたが、1980〜90年代当時、ライバルとされた瀬戸内寂聴なんかよりはるかに売れていて、「文壇の女帝」のように言われていました。

林氏は、中江利忠氏と親しかった宮尾登美子が、自分のマスコミ内の政治力を使って、中江氏の「あるスキャンダル」をもみ消した、という噂について書いています。

私は、仮にその噂が本当だったとしても、中江氏と宮尾登美子との関係は、林氏がほのめかしているような不倫関係ではなく、もっと人間的な関係だったと思っています。それについては、「綴る女」の書評として書きました。

しかし、本当のところはわかりません。『綴る女』に対しても、中江氏はなんのコメントも発していないと思います。真相を中江氏に聞いてほしいんですね。


もう1つは、「朝日ジャーナル」を廃刊したことですね。(1991年)

それによって、スター記者だった本多勝一が退社するなど、業界に激震が走りました。旧「朝ジャー」一派は、「週刊金曜日」となって、いまも残っています。

冷戦が終わったとたんに、社内の極左グループを切ったわけです。これは中江の英断だった、と当時も思いましたし、今も思います。

毎日新聞は、朝日ジャーナルのカウンターパートであったマルクス経済学理論誌「週刊エコノミスト」(いまは性格が違いますが)を切れませんでしたし、それどころか、本多勝一氏の朝日ジャーナルの連載の続きを「サンデー毎日」で書かせたりしています。

時代の流れを読んでいたのは朝日新聞であり、それが見えてなかったのは毎日新聞でした。そのことも、この時点ではっきりしています。

「朝日ジャーナル」の売り上げが低迷していた、という経営的な判断かもしれませんが、毎日新聞はその判断ができなかったし、社内の激しい抵抗は当然予想できる。あの朝日新聞に、よくそんな決断ができた、という思いは残るわけです(それ以降、そういう「英断」があまりないだけに)。その決断の背景を知りたいのですね。


要するに、中江氏は、激動の時代に、(社外)右翼とも戦い、(社内)左翼とも戦い、自ら事件の渦中の人ともなった。

朝日新聞だけではなく、新聞と出版界にまたがった、日本の戦後史に重要な役割を果たした人物だったと思うのです。

事件とスキャンダルに事欠かず、戦後日本の経営者の証言としても、劇的な「物語」になると思う。

どうですか、元記者の誰かが、元社長に取材して、いいノンフィクションに仕上げてもらえないでしょうか。大宅賞を狙えるぞ。





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