マガジンのカバー画像

【小説】ユーメと命がけの夢想家

14
主人公「僕」が、毎週テーマに基づいた小説を1本描き、その内容を、梅茶から姿をあらわした〈ユーメ〉と語らいながら、「書きつづける」ことを日課にしていく物語。
運営しているクリエイター

記事一覧

固定された記事
【目次とまえがき】書きつづけるには、書きつづけるしかない【ユーメと命がけの夢想家】

【目次とまえがき】書きつづけるには、書きつづけるしかない【ユーメと命がけの夢想家】

毎週金曜日22時頃更新!

【ユーメと命がけの夢想家】
目次

000:雨の日の朝食
001:黄昏時
幕間001:加虐と被虐
002:秘密の恋
幕間002:適切な努め
003:トキメキ二重奏
幕間003:焦燥と設計
004:きらめく星空
幕間004:三幕構成と本を読むということ
005:帰宅したら、何だかものすごいことになっているのですが
幕間005:構造と理屈なき展開

↓2月4日(金)22時

もっとみる
幕間006:サイエンス資料【ユーメと命がけの夢想家】

幕間006:サイエンス資料【ユーメと命がけの夢想家】

前回目次◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 まったくなにも書けなかった。今までの比ではなかった。というのも、今まではどんな難しいお題であっても、ある程度方針というものがあった。

「【黄昏時】なら、猫への加虐。【トキメキ二重奏】ならばファンタジックでソヴィエトな舞台と。そういった具合に、お題となにかを掛け合わせて、物語を書くというのが、僕の主な書き方だったんだけど」

「今回は、その『なに

もっとみる
006:ついつい目のいく窓際の席【ユーメと命がけの夢想家】

006:ついつい目のいく窓際の席【ユーメと命がけの夢想家】

前回目次◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 変化に乏しい我々の職場に、久方ぶりのニュースが飛び込んできた。
「我が造成課のエディカンプレラくんが、栄えある社長賞を獲得した!」
 課長の紹介に、もちろんわたしは驚いた。ヒマ社員の巣窟と陰で言われる造成課から受賞者が出るなんて思いもしなかったのだ。それも、エディカンプレラくんが。

「スターバーストによる生命体生成術が、高く評価されたのだ」
 

もっとみる
幕間005:構造と理屈なき展開【ユーメと命がけの夢想家】

幕間005:構造と理屈なき展開【ユーメと命がけの夢想家】

前回目次◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ある脚本家は、世の中にあふれるすべての物語の構造を、10の類型にまとめたというわ」
「貴種流離譚とか、勧善懲悪とかいう話?」
「それは説話の類型ね。見るなのタブー、なんてのもそうだけど置いといて。とにかく物語というのは数あれど、その構造というのは出つくされていて、いわゆる〈オリジナリティ〉というのは、もっと別の部分に宿るんでしょうね」
 今日のユ

もっとみる
005:帰宅したら、何だかものすごいことになっているのですが【ユーメと命がけの夢想家】

005:帰宅したら、何だかものすごいことになっているのですが【ユーメと命がけの夢想家】

前回目次◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「帰宅したらよ、何だかものすごいことになっててさあ、ほら修一さ、暇なんだろ。ちょっと手伝ってくれねえか?」

 そう呼ばれたのは午前1時半。
 自主休講中ではあるが、スケジュールは詰まっている。なにせ午前の予定は、睡眠という重大な予定で埋め尽くされているのだ。
 山本の通話を開始したのだって、布団のなかで眠気に委ねかけた頃合いだった。

「いや、ね

もっとみる
幕間004:三幕構成と本を読むということ【ユーメと命がけの夢想家】

幕間004:三幕構成と本を読むということ【ユーメと命がけの夢想家】

前回目次◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 最後の500字がなかなか決まらない。
「悪癖なんだよ、ラストシーンを決めずに突き進もうとしてしまうやつ」

「それにしては、まあそれなりに筋の通ったラストシーンになったんじゃない? 走りすぎてる感はあるけど」
「いいんだよ、ラストは走る。それより、今回も〆切に追われてヒイヒイしてしまった」

 そうなのだ、投稿期日の12時間前の、午前10時に書き

もっとみる
004:きらめく星空【ユーメと命がけの夢想家】

004:きらめく星空【ユーメと命がけの夢想家】

前回目次◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「星空フロスターくん、君はもっときらめけるはずだ。よって、きらめくべきだ!」

 明日シャイニング先輩は、ときおりわけのわからない要求を突きつける。
 弁当の具材にぜんまいのゴマ和えを加えるべきだ、なんて具体的な要求から、部室の扉を開けるときはもっとぴょんぴょんになるべきだという、抽象的……を通り越して意味不明な要求まで。
 今回のはやや意味不明の

もっとみる
幕間003:焦燥と設計【ユーメと命がけの夢想家】

幕間003:焦燥と設計【ユーメと命がけの夢想家】

前回目次◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「寒いな」
 窓の外は、すっかり雪化粧だった。
 川を挟んで向こう側ならまだしも、こちら側はちっとも降らない地域なのに、今年は特別だった。

「でも、どうせ明日には消えてしまうんでしょ。童心に還って雪だるまでもつくるつもりだったんでしょうけど」
「それでも、ぼたん雪が空を舞うのを見ると、どうしたってときめいてしまうんだよ」
 雪国の生まれだったら、

もっとみる
003:トキメキ二重奏【ユーメと命がけの夢想家】

003:トキメキ二重奏【ユーメと命がけの夢想家】

前回目次◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「二人組、できたかなー?」
 教官の一言が、死刑執行の合図のように聞こえてしまって、マルサイは情けなさと屈辱でいっぱいになった。
「きょーかぁん、ここらへんにまだの人がいます」
 すかさず、ひょうきん者のレイトロが手をあげる。そして、おどけた調子でマルサイの付近を見渡すのだ。

「あれえ、どっこだあ、見えないなあ」
 教室はくすくすと笑い声がにじむ

もっとみる
幕間002:適切な努め【ユーメと命がけの夢想家】

幕間002:適切な努め【ユーメと命がけの夢想家】

前回目次◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「結構悩んでるみたい?」
「まあ、悩むよ」

 恋なんて傷つくだけの代物だ。
 少なくとも今の僕にハッピーエンドな恋物語なんて書く気力は湧かない。

「だから、相手は猫にするってわけ」
「なんだよ、どうせ僕は逃げ腰ですよ」
「というより、恋愛というものに、想像以上の怯えを抱く自分自身に戸惑ってる、って感じ?」

 ユーメの言う通りなのであった。
 

もっとみる
002:秘密の恋【ユーメと命がけの夢想家】

002:秘密の恋【ユーメと命がけの夢想家】

前回目次◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 クロイシさまというお方がいる。

 凛々しい眉毛とその横顔に、惚れてしまったんだと思う。でなけりゃ、一駅先の公園になんて通いつめたりなんてしない。
 あなたは舞い散る葉っぱを見つけると、夢中になって追いかけて、掴みとろうと躍起になる。その真剣な瞳が、好きなのだ。

 もっと、お近づきになりたい。
 それは叶わぬ願いなのかもしれないけれど。
 でも

もっとみる
幕間001:加虐と被虐【ユーメと命がけの夢想家】

幕間001:加虐と被虐【ユーメと命がけの夢想家】

前回目次◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「これはもう遥か昔の話になるんだが」
 作品を書き終えた僕は、ワークチェアに身を沈ませた。当然、話し相手はユーメである。
「インターネットの世界では、かつて猫のキャラクターが席巻していた時代があったんだ」

「あれは〈猫〉と呼べるような代物かしら?」
「まあ、いいじゃないか。モナーとかギコとか、文字や記号だけで作られたキャラクターがいて、そのなかに

もっとみる
001:黄昏時【ユーメと命がけの夢想家】

001:黄昏時【ユーメと命がけの夢想家】

前回目次◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 黄昏は、誰そ彼、から転じたものらしい。そのことを、中3の古典で習った。暗くなってきて、目の前の人が誰だか分からなくなる時間、つまり夕方ってことだ。黄昏時。その字面もあわせて、当時の俺はカッコいい名前だな、なんて思ったりもした。
 でも、よくよく考えてみると、「誰そ彼」、と疑念を抱くのは、夕方だけではないってことに気が付いた。
 黄昏時は、孤独を抱

もっとみる
000:雨の日の朝食【ユーメと命がけの夢想家】

000:雨の日の朝食【ユーメと命がけの夢想家】

目次◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 寒いな、と、思うのだった。
 そのあとで、自動車が水たまりを過ぎる音を耳にする。いや、逆か。この音を無意識のうちに聞くからこそ、世界は寒くつめたく冷ややかで、どうしようもないことを知るのだ。

 うっすく目を開けてみると、再生を終えた動画のリンク欄があった。布団の脇に、仕事道具として手に入れたノートパソコン。それと半身をベッドから投げ出すような格好で

もっとみる