見出し画像

幕間003:焦燥と設計【ユーメと命がけの夢想家】

前回

目次

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「寒いな」
 窓の外は、すっかり雪化粧だった。
 川を挟んで向こう側ならまだしも、こちら側はちっとも降らない地域なのに、今年は特別だった。

「でも、どうせ明日には消えてしまうんでしょ。童心に還って雪だるまでもつくるつもりだったんでしょうけど」
「それでも、ぼたん雪が空を舞うのを見ると、どうしたってときめいてしまうんだよ」
 雪国の生まれだったら、現実的な問題を気にするあまり、素直に喜べやしないのだろう。だから、この気持ちはとっておきだ。
 とはいえ、ユーメが声をかけてきたということは、作品語りの時間が訪れたということだろう。

「今回は……言いたいことはいろいろあるけれど、まずは、当たり障りのない部分から始めましょう」
「よろしく頼むよ、ユーメ」

「まず今回の舞台は、現代日本ではないようだね」
 スチャキレンコという、架空の地が舞台だ。
 大動脈から毛細血管まで、なにからなにまで設定を考えなければ、魅力的な風土は生まれない。でも、その設定を考えるのは非常に面白い。書籍化や新人賞に送る必要のないものは特に。

 僕がはじめて書いた小説も、現代日本ではなかったし、過去のある地点でもなかった。あの小説をファンタジーと呼ぶかSFと呼ぶか、あるいは荒唐無稽と呼ぶのかは定かでない。ともかく僕の物語は、架空世界からはじまった。

「君の過去作品やお蔵入りしたプロットでは見かけない舞台設定だけど、いつ考えたの?」
「今回のテーマが判明したその翌日からだよ。もっとも、旧ソ連時代の負の遺産と呼ぶべき、〈カラチャイ湖〉とその周辺情報から着想を得たわけだけど」

 スチャキレンコという名称も、〈イレンコの熱い湖〉というワードに、トルコ語のsıcakを接頭辞的に用いた造語から来ている。マルサイの身辺を彩る諸々は、ソヴィエト的なものを、ゆがんだファインダーを通して描いた。そうして、スチャキレンコという都市と、教官が教える「世界」は構成されている。

 ただし、大動脈的な部分は語るとついつい説明がちになってしまう。だから大動脈的舞台設定は極力文章にすることは避け、可能な限り毛細血管的なものを描写するほうがいい。
 比喩表現や比較表現はまさしく腕の魅せどころで、たとえば「猫みたいに鳴く」とするところで「イレンコ猫みたいに鳴く」と書いてみたり、「快速電車よりずっと速い」を「サラマンダーよりずっと速い」としてみたり。そのひと手間で、物語に抱く近しさがずっと変わる。別にどこかの小説講座サイトで読んだものの受け売りではない、と思う。
 おそらく。

 ただ、この作品でこれができたかといえば、完璧ではないことは確かだろう。
「……なんかいろいろ腑に落ちた」
 とにかく、設定を考えるのは好きなのだ。

「というわけで、今回は舞台ありきで、そこから【トキメキ二重奏】というテーマとどう握手するかを考えた結果、こんな作品になったというわけだ」
「君にしては、いい逃げをしたんじゃない? もっとも、これをテーマアンソロジーとして人様に提出するような話しだったら、主催者は発狂ものでしょうけど」

「正攻法は得意じゃないんだ」
 とにかく、毎週作品を完成させ、発表を続けるとなれば、正攻法以外の書き方も身に付ける必要がある。そして、ただ〈逃げ〉の一手を繰り出すのではなくて、自分自身が「あっ」と驚くようなものにしなくては意味がない。

「手癖でなら、いくらでも文字は稼げる。でも、ユーメはそんなもの、求めちゃいないだろう?」
「わたしのことなんてどうでもいい。求めてないのは、あなた自身。違う?」

「……たぶん、そうなんだろうね。書きつづけることを決めた当時はそんなふうに思えなかったけど、最近はずいぶん健康的になった気がする」
「健康的な執筆、という意味でね。夜更かししたり、早くに目が覚めたかと思ったらメモをしたためたり。体調を崩せば君は精神に響くんだから、自愛したほうがいい」
 まあ、気をつけようと思う。生きるために書きつづけてるのに、書きつづけた結果死に至っては元も子もない。

「あと気になるところなんだけど……」
「なんなりと」
「歳のわりに、登場人物の精神年齢高すぎない? マルサイって7歳でしょ? 君、小学2年生のとき、孤独と特別の狭間で揺れ動いてた? あまりに大人びていて、現実感がない」
「それな」
「それな。って。あのねえ……」

「遥か昔から指摘されてる事項だね」
「開き直るんだ」
「そうとも言えるけど、今までずっと開き直れなかったんだ。大人っぽい子どもを出しても、この子は間違いなく子どもなんですって言ってたからね。だから今回は、子どもっぽくない子どもたちを出してやった」

「実に開き直ってる」
「それに、子どもは言葉や経験を知らないだけで、考えてること自体は複雑なんだと思う」
「君の書く子どもは、語彙力がありすぎる節がある」

「まあ待てって。いいかい、僕の部屋には、漫画を描いていた小学時代の自由帳があって」
「唐突な自分語り」

 小説を書きはじめるより前のことだ。
 僕には3歳上の兄がいて、彼はポケモンの漫画を描いていた。たぶん、家にあった4コマ漫画劇場に影響を受けたんだと思う。兄のことが大好きだった僕は、もちろん便乗してポケモン漫画を描いた。
 内容はくそ雑魚以下、よくも悪くも小学生が描いたものだった。

「でもその創造性の豊かさ、想像の膨らみ方が尋常じゃないんだ。描いても描いてもイマジネーションが溢れてきて、残すので精一杯なんだ。気を抜いたら忘れるから、どんどん残していかないといけない。1日がいくらあっても足りなかった。それだけ夢中だったんだよ」
 それだけ膨大な思索を、僕は創作というものにぶつけてしまった。そのほかの、ありとあらゆる可能性をドブに捨てて。

「それじゃあ、創作をしない人たちはどうだったんだろう。なにかもっと別のものにぶつけていたんじゃなかろうか」
 思えば当然のことで、確か人間は、歳を取ると時間の進みが早まるらしい。人生の折り返しは20歳、なんて話も耳にする。
 であれば、子どもにとっての1日は、大人にとっての1週間であり、僕らが1週間かけて考えるものを、子どもは1日のうちに考える。となれば、どれだけ濃厚な日々を送っていることだろう。

「小学生のころ描いた漫画やお絵描きは、自由帳約17冊分にもなるんだ。それと、初めて書いた小説は、小6の冬から中1の終わりまでの約15ヶ月で、28万字だ。これが世間一般で多いのか少ないのかは分からない。でも、今じゃ想像できないくらい夢中だったんだ」

 文庫本1冊を10万字だとして、3冊弱。筆の速いもの書き並みだ。
 一方、今の僕は。
 この前の夏からなにも書けずにいる。
 5ヶ月だ。5ヶ月、1文字も。
 ……書こうとしたのだ。何度も。
 でも、手が震えた。気が遠のいた。書く意味を見いだせなかった。

「あのころが最盛期だったのかもな」
 だから過去の自分に嫉妬すると同時に、焦燥感で胸が焼ける。失われたものは、あまりに大きい。

「……たった、28万字? なんだ、それだけだったんだ」
 それが、ユーメは軽くあくびをしてみせるのだ。
「どういうことだ」

「君の代表作、『イリエの情景~被災地さんぽめぐり~』シリーズ。君が24、5歳のころに書いた作品。全3巻。執筆期間、どのくらいだったと思う?」
「ええと……」

 データを調べてみる。執筆開始時はデータに必ず残している。それから第3巻奥付の発行年月日を確認する。
「2016年の5月頃から、翌年の8月……あ」
「そう、15ヶ月で君はこれを書いた」

 『イリエ』は、東日本大震災を題材にした青春小説だ。
 執筆中、物語からボディブローを喰らって二、三ヶ月書けなくなった。でも、僕は書いた。書き上げて、世に出した。

「それだけじゃない」
 ユーメは、胸元でぴんと人差し指を立てた。
「28万字を、15で割ってごらんなさい」
「ええと……」
 暗算はできない。よって電卓機能を使う。
「1万8000……」

「そう、1ヶ月で1万8000字。たったそれだけ。君が抱く過去の自分とやらは、その程度のものなのよ」
「それでも、充分すごかった」
 大学時代は、物語の量産こそしなかったが、1万字程度の短篇を季刊で書いていた。1万字程度のもので、構想から推敲まで含めて2週間を費やせばできた。

 当時の僕が本気を出したら、5ヶ月で10万字だ。文庫本を1冊出せてしまう。
「今の僕じゃ、とてもそんな力は」
 その5ヶ月間、僕は1文字も書かなかったのだ。

「あのさ、それ、わたし以外の人には言わないほうがいいと思う」
 ユーメは「人」にカウントできるのかはさておき。
「だって今の君は、このシリーズを書きはじめて3週間弱で大体5万8000字書いている。1ヶ月で77万字、15ヶ月で116万字。気づいてないでしょうけど、君、間違いなく書いている。自覚してないだけ」

「でも、僕とユーメの会話劇も含めるのは、どうなんだろう」
「それでも。わたしたちはドラマを演じている。ただの文字の羅列ではない。そうでしょう?」

「でも、手癖だ」

「あの頃も手癖だったでしょうに。まあそれだけ言うのなら、わたしたちのパートを除いた字数にする? それでも1週間で10,735字ペース。1ヶ月なら約4万3000字。5ヶ月続けたら64万字。君の妄想する『最盛期』とやらは、何文字だった?」

「……たぶん、計算を間違えてるんだ」
「君はもっと胸を張っていい」
 ユーメはそう断じた。

「君は自信を持てない病を抱えている。だからこそ、自分のことは数字でしか実感を抱けない。ちゃんと直視しなさい。君はまだ、少しも衰えてはいない。少なくとも、ものを書く力、という1点においては、確実に」
 僕は目を閉じ、何度か深呼吸をした。



 さて、ここまでは【003】の途中で書き記したユーメとの語らいだ。
 これからは、今回の物語をひととおり書き終えてからの語らいとなる。どうしてそう断りを入れるのかと言えば、ずいぶんと時間に開きが出ているからだ。
 「雪化粧」とあるとおり、これは1月6日か、その数日前にメモをした部分になっている。
 ※ただし「文字数」に関しては作品を書き終えたあとに加筆している。

 一方、今書いている文章は11日で、おそらく〆切の14日まで、順次書き足されることだろう。そしてそのあいだ、ずっと【003】を書きつづけている。

「つまり、難産だったというわけ」
「風呂敷を広げすぎて、期日に間に合わない恐怖に怯えていた、と言ったほうが正しいな」

 眠い目を抑えながら、ユーメの声にどうにか応じる。
「イジョーと〈熱い湖〉のほとりで語り合うシーンがあるだろ。正直そこで一区切りつけて、残りは次週へ持っていこうとも考えた」

「続きものにする、と。まあ選択肢のひとつとして、それもアリだったんじゃない?」
 僕の考えとは裏腹に、ユーメはずいぶん呆気なくその案を肯定した。

「いや……それじゃあ、『毎週金曜夜10時に作品をひとつ公開』というルールから逸脱する気がして」
「そう? 別に構わないと思うけど。商業作品だって、前後篇に分かれた小説があるでしょ。前篇でひとつの本。それと同じじゃない?」

「ひとつの本ではあるかもしれないけど、『ひとつの作品』となるとまた別の話になる気がする」
「……あまり自分の首を絞めないほうがいい、と忠告してあげる。今回はどうにか間に合ったけど、そのうち本当に危うい事態になったら、君、死ぬよ」

 毎週金曜夜10時に作品をひとつ公開する、これをつづけること。それができなければ、僕は死ぬ。

 それが、ユーメと交わした「試練」だ。
 死ぬ。物騒だけど、本当に死んでしまうのだろう。冗談のようでいて、それが冗談でないことは、僕が誰より理解している。

「ま、そうならないよう書きつづけるさ」
 ここで逃げ道をつくるようなもの言いをするところが、いかにも僕らしくて、いやになる。
 が、可能な限り、作品はどういう形であれ完結させる。完結させたものを毎週公開したいと思う。

「とにかく、今回は本当に時間が足りなかった。イジョーとの語らいシーンのあと、つまりアナンとのくだりは、元々まったく異なるストーリーを用意してたんだけど、時間的に書ききれないと思って、現行の話にしたんだ」

「シナリオが完成しなくて、急に観念的な話で最終回を締めくくろうとするテレビアニメのような言い草ね」
 まあ、やってることは大差ないだろう。

「当初の予定では、〈二重奏〉を望むマルサイに、アナンはあらゆる試練を課すんだ。レイトロやクラスメイトに、あえて喧嘩を吹っかけて、クラスから完全に孤立するよう言うんだ」
「マルサイはいじめられていたけど、いじめる/いじめられる、という関係性からも突き放され、完全に孤立する、という構図ね」

「で、マルサイはアナンに接近を試みるけど、当然アナンからも突き放される。そして、最後の居場所であるイジョーからも嫌われる……嫌われるような行動をとるんだ。『万華鏡』はそのためのアイテムだった。そうして独りを味わうことになる。そして、それがアナンの抱く『孤独』ととても近しいことを、マルサイは知る。そうしてようやくふたりは〈二重奏〉をすることができるんだ」

 そのあとはほとんど同じだけど、結末はもっと具体的なものを考えていた。

「……いろいろ破綻しそうなストーリーラインだけど、もし書ききることができたら、それはそれで達成感があったでしょうね。破綻は免れないでしょうが」
 2度繰り返してくれなくても、僕だって理解している。

 限られた時間で、この案を突きとおすには、モチベーションが足らなかった。破綻していることを理解したままこれを描くのは、自らを炙る十字架を背負いながら丘を登るようなものだ。僕は神の子ではないのだ。

 もちろん、現行のストーリーも粗が目立っている。でも、マルサイが孤立する、という回り道をせずに〈二重奏〉に辿り着けたことは、書く上で非常に心強かった。

 もの書きであればなんとなく共感してくれそうなものだが、執筆工程を旅程にたとえるなら、いくつか〈山越え〉のような箇所がある。
 要するに、書きたくなかったり書きづらかったりする箇所のことだ。
 先の話でいえば、アナンから課せられる試練のひとつひとつが〈山越え〉だ。レイトロたちから疎まれるという山、イジョーから嫌われるという山。
 山を越えるには、当然カロリーが必要なわけで、相応の意気込みが必要だし、書きあげたあとは疲労がたまる。〈山越え〉とその作品の〈山場〉がイコールで結ばれているのなら、書く意義もあるというものだが、そうとも限らない。

「となれば、〈山越え〉は少ないに限る。書いてて楽しい行程がつづいたほうが、旅も彩りが増すってわけだ」
 とにかく、今回は時間が足らなかった。時間さえあればもっといいものが書けたと言うことは容易いが、もしこれからもものを書いていくのであれば、そういう場面は幾度も訪れることだろう。
 であるならば、限られた時間でどれだけ物語の魅力を増す術は身に付けておいて損はないだろう。

 話をコンパクトに、小さな物語でもドラマは描けることは、肝に銘ずる必要がある。
 僕はついつい話を壮大にしてしまう。壮大にすること自体は悪いことじゃないけど、その見せ方、クローズアップの方法は習得してもいいはずだ。

 それから「お約束」や「ベタな展開」「様式美」というものも、もう少し使い慣れたほうがいいのかもしれない。
 そういう話を見聞きするたび、心のどこかで軽蔑の念を抱いてしまうのだが、そういう作法のすべてが悪であるわけではない。読者に寄り添う物語を書こうとするなら、「お約束」は読み手に安心感を与えることも、ちゃんと心得ておかなければ。

「心得るだけじゃなくて、ちゃんと適切な場所で使えるようにならないとね」
 ユーメの言うとおりだ。文面上の知識だけでは、ここぞというとき真価を発揮できない。不格好でもいいから、まずは実際にやってみて、この身に覚えさせる必要がある。

 今までもそうやってきたじゃないか。幼いころ書いてきた物語の数々は、今読めば稚拙で、身もだえするようなものばかりだ。失敗作とも思えるものもある。

 でも、どの作品だって、なにかしらの挑戦があった。
 うまくいった試しは多くはないけれど、その分だけ「勘」を養うことができた。「勘」の蓄積が僕を形づくったと言ってもいい。書いてきた古い作品の数々は、それだけの価値がある。
 どうでもいい作品なんてない。どうでもいい、と思いながら書いた作品でもない限り。

 果たして『トキメキ二重奏』はどうだったろうか。
 僕は途中から、時間を気にするあまり、大切なものを放りだしてしまった気がする。
 間に合わせることが大切なことなのか、クオリティを追求することが大切なことなのか。
 ……いや、おそらくそうではない。
 どちらも両立できることだ。結局のところ、〆切から逆算して、その日数までに割ける最大限の物語をプロデュースする必要があったのだ。
 つまり僕は、日数に見合わない物語を企画立てしてしまった。
 今回の作品のなかで、最大の誤算があるとするなら、まさしくこの1点に集約される。

「他に課題はある?」
 正直、課題だらけだ。後半に向かうにつれて、人物がなにを言ってるのか、なにを考えているのか、どうしたいのか、分からなくなってしまった。

 それは〆切に追われるプレッシャーなのか、あるいは去年の8月から引きずるトラウマのせいなのか。
 どちらもだ。人物の心情がつかめないのは、このシリーズを通して今なお改善できない点であり、それが〆切に追われる焦燥感によって肥大化したのだ。

 物語の海を必死に泳ごうとしているけど、辺りは夜闇で、なにも見えない。ただ潮のしぶきが唸りをあげるだけ。声すら上げられず、ただいたずらに文字数だけがかさんでいく。
 僕はもう小説を書けない体になってしまったのではないか。その虚しさを抱きながら、マルサイが〈二重奏〉を初めて決めるシーンをタイピングしていた。

「もう、書くだけムダなんじゃないかって思えてきた。でもユーメは鼓舞するだろう? この作品だって、黒歴史小説よりかはずっとマシだって」
「ずっとマシかは置いといて、かつての君の物語には、ストーリーや感情の飛躍がつきものだった、と明言はしておく」

「なにはともあれ、どん底まで落ちるだけだ。結果として滑落死となるなら、それまでだってことなんだ。そうすれば、ムダになるのは今回の作品だけじゃなくて、全作品もろともってことだし」
「マイナス方面にポジティブになるの、君、好きだね」

 つまり、正念場は次回作となる。今までは〆切まで1週間以上あったが、今回でその貯金を使い果たしてしまった。

 ・〆切から逆算して物語を設計する。
 ・人物の心情を描く。

 課題としてはこんなところだろう。
 後者はじっくり付き合っていくとして、前者はただちに取り組まねばなるまい。

「ユーメ、そろそろ、次回のテーマを決めようか」
 語りたいことは山ほどあるけれど、そろそろ睡魔に耐えきれそうもない。【003】を書くにあたり、椅子に座りながら寝落ちすることも増えてきた。
 今日くらいは、ちゃんとひと区切りさせて、消灯したベッドで眠りたい。

「ええ。『お題.com』から、ランダムお題をひとつ」
 画面のボタンをひと押し。
 次なるテーマは。

【きらめく星空】

「や、きらめくんかい」
 思わず吹き出しそうになった。
 トキメキの次はきらめきか。めきめきだ。
「君、書きやすそうなテーマで安心してるでしょ」
 じっとりとした視線がユーメから注がれる。今までのテーマと比べたら、間違いなく書きやすい。

「計画的な物語を組み立てるのにうってつけだ」
 4000字程度の、短いものにする予定だ。
 3幕構成を意識して、第1幕が1000字、第2幕が2000字、第3幕が1000字程度にする。
 予定は破綻するのが常であったが、構想からプロットから執筆から、この字数を念頭に置きながら進めていきたい。

「ま、楽しみにしてる」
 ユーメはふふんと鼻を鳴らした。
 読んで語らう相手がいるのは、本当に支えになる。

 さあ、また書きつづけよう。
 今僕にできるのは、1日1日を、確実に歩んでいくことだけなのだ。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

次回

目次


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?