マガジンのカバー画像

WAKIMIZU

63
散文詩など
運営しているクリエイター

#文章

詠唱禍歌

1.

遊びじゃないもん全部

でも幻

星降る夜があったけど

桜吹雪が舞ったけど

全部本気の幻

シャンデリアが揺れた日も

カスピ海が凪いだ日も

朝目が覚めたのも

2.

赤い山が一斉に散った。

私は貴方のことを必死で思い出そうとしていた。

顔もぼやけて輪郭も定かで無い記憶をなんとか辿ると、真夏の匂いがした。

途方もない量の懐かしさに意識が混濁し始めて地面に伏せると、目の前が暗転

もっとみる

曇天の海の向こう側から

太陽を映して炎を作ったことのある

小さな鏡の欠片

電気の通った砂鉄

髑髏の粉

鮫の内臓

毒にも薬にもならないものを入れ

ゴブレット一杯の海水を飲み干せ

ガジュマルの木を切り倒せ

揚羽蝶になる前に刺せ

頭から喰らえ

仮面を付けろ

笹の葉を枯らせ

垂乳根の綱を千切れ

鞠を蹴り潰せ

海と山と里の

雨と雪と川の

飼い馴らした毒を以て

苦しむ人々を安らかに

平安あれ

もっとみる

冬夜闇行唄

腰紐紮て星降る街を 行けば錦の帯光る

唐紅に裾燃やし 夜道を照らせば君恋し

北風で夜の孔雀になった頭巾が南目指して飛んでゆく

春をただ待ち侘びて月明かり未だ見ぬ花を照らして見えた

袂緋に朱に燃えはためけど 凍える指を暖めはせず

帰路は月星光灯さず 氷の闇にヒーター恋し

灰色に世は暮れ、明けてまた色為すことを

萬・

仟・

佰・

拾参・衣擦れの音に桜や藤を見て

拾弐・未だ来ない時代の色を夢想する

拾壱・今日が月あしたは日よともどかしく

拾・浮き足立ち砂を掃いて絵をえがく

玖・青高くから降る色と戯れて

捌・今日の地の温もりに任せ溶けてゆく

漆・山茶花も椿も判らぬようになり

陸・太陽の短さに凍え窓の側

伍・橙に灰色の街が負けてゆく

肆・ビルの間に間に閃光は行き渡り

参・目に焼き付いて

もっとみる

夏始め手解き

青嵐草叢の足元どこまでも

遠くの青に 近付けなくて

睡蓮の葉の上を歩いてみたくて

子供になっても歩けなくって

入道雲遠く私は海の底

怖いものなど何もない今

浴衣姿「私が夏になる」と言う

何もない 夕凪だけを 纏って行く

そう言って電話は切れた

暮れかかる川辺の日青鷺飛んで入り

赤とんぼまだ飛ばない日暮に

伸びてくる影を夕立が攫って

途方も無い夏の夜の始まり

誘蛾灯の音

もっとみる

七月は夜

何時迄も踊っている

訪れた夜は遠い南の風を纏い
ダチュラの花が異様に芳しい
貴方の居る方へ歩みだしても
闇は足を何処かへ攫ってしまう

何時迄も踊っている

散乱したバッグの中身
散々観たDVDが
再生機器は無いはずなのに
寂れた小屋の壁に映る

踊る陽炎 日傘 鬼灯
踊る陽炎 日傘 鬼灯
踊る陽炎 日傘 鬼灯
踊る陽炎 日傘 鬼灯

アルカイックスマイル
どんでん返しを期待している
明日はきっ

もっとみる

人魚姫慟哭す

クチナシの薫る雨が降ってきたらどうしましょう
私はもう目を背けることしかできなくて
いつの間にこんなものを得たのですか
少しも欲しくなかった
海水を求めてしまうのは
どうしても私の性であるので
海水をいつでも下さい
どうしても私に必要なので
体からどうしても鱗が取れない
そんな夢ばかり見るのです
海からどうしても上がって往けない
そんな夢ばかり見るのです
砕けている波を手で拾って
片口鰯の群れも豹

もっとみる

梅雨入りの心を降らせろこの世界中に

雨の空に魚を泳がせたい そう言った君の横顔に
傘から落ちた雫が光る 泣いているのは僕の方

五月雨の 音は優しく 低気圧

濡れた手に レインコートは へばりつき

紫陽花の 色をした心 スケルトン

雨粒と同じ数だけ君想い

紫陽花ゼリーを懐かしんでもお昼は自分で考えなくっちゃ

私が想いを空に託して 雨と一緒にあなたの上空へ あり得ないようでできるかもしれない そんなことを考える6月

雲の上

もっとみる

シガテラ行進曲(葬列曲)

鐘の音
お経
パイプオルガン
始まり

たぐりよせ つながって くちづけて うばわれた

よいのなか とおあさに ナガジューひらめき 誘

からくれないも やみのなか さらったなみで 消滅


長黒髪豊かに水面染め 何を探すか四方八方へ畝る 珊瑚の枝へ 海草へ 底へ向かい絡まる
手足の痺れ 先から先まで 研ぎ澄まされる 麻痺する 研ぎ澄まされる 麻痺する

霊玉遠き向こうへ 不知火は寂しかろう

もっとみる

ナハトムジーク

お皿の中を極彩色の鳥が飛ぶ
幾何学模様が紫色の中を踊る
お辞儀をしているバレリーナ
吸い込まれそうな薔薇の花

くねった道を飛び回っている若草
誰に尋ねられても行き先を教えられない
1人で行く時と同じようで
気付けば全く違う道だった

躑躅色の光を 掌から零して ずっと歩き続ける ずっと歩き続ける

染められることを初めて知った
髪の先から爪の先まで
体の中を流れる気まで
染められることを初め

もっとみる

プリズム煌

腹の中から捻って出した 殺しのできないアイラブユーが 私の心を引き裂いても 私の命を奪ってくれない
だって私は星屑の欠片 早くお空で光りたいのに 私の心は引き裂かれても 私の命は奪われない
闇雲に放つ殺人光線 壊れたガラスが寂しげに

賛春

一雨毎の暖かさに 私の足がふと止まる
耳の中を掻き毟るような 私の好きな音

春浅き遠い霞を吸い込めば宵の薄紅鮮やかに

しとやかなりて肌闇の中 白冴えて浮き立つ心地
水鳥の羽ばたきのような 私の好きな音

菜を茹でた 仄く緑に染まる湯を 飲み干して今 我も春なり

薄桃山吹風来り

破壊神

窓の向こうが仄白く カーテンを超えて透けている
瓦屋根 電線 小川 白鳥 長い橋 尖塔

曇天を飛ぶ飛行機が鳴る達磨が転ぶ地面が割れる

赤と黄色の折り鶴が 薄墨色の低い空
何処を目指して飛んで行く 何処を目指して飛んで行く

消したテレビの画面には 黒く広がる向こう側

阿弥陀如来とエンジェルが お腹空かせて待っている

私の作る料理には いつも少しの愛と毒

何時迄も想うのを止めろ意味

もっとみる

晩に

闇来りて家路を急ぐ鳥の大群
それはヒッチコックの映画で観たときより余裕が無く、只々必死に上空を過ぎて行った。
赤色沈む寂しさに暮れて
渦巻いた雲に隠れながら少しずつ輝き始める、青い星月の夜がやって来た。
永遠に明けない宇宙の夜。今晩は。

それでも私達は生活を送らなくてはならない。やりたいことをやる。恋もする。何かを諦めたり、やめたりはしない。

いつかまた戻ってきて欲しい。どうか戻ってきて欲しい

もっとみる