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  • 正岡子規『はて知らずの記』本文

    正岡子規『はて知らずの記』(1893年)の本文を紹介しています。読み易いよう、文を短く区切って配置しました。旧い文体ですが、意味が判らないようで、判る(笑)面白さを味わっていただけたら、と思います。

記事一覧

正岡子規『はて知らずの記』#34最終回 八月二十日 (汽車)→上野

(正岡子規の『はて知らずの記』を紹介しています) 上野着。家に帰る。二十日は、白河の関にて 車窓より明け行く。 小雨、猶やまず。 正午、上野着。  わが旅中を憶ふ…

正岡子規『はて知らずの記』#33 八月十九日 黒沢尻→水沢→(汽車)

(正岡子規の『はて知らずの記』を紹介しています) 公園に寄り、汽車で帰る。十九日、曇天。 小雨、折り折り来る。 午後の汽車にて 水沢に赴く。 当地、公園は町の南端…

正岡子規『はて知らずの記』#32 八月十八日 黒沢尻

(正岡子規の『はて知らずの記』を紹介しています) 宿にSTAY。十八日、旅宿に留まる。 けふは、七夕といふに、 風雨、烈しく吹きすさみて、 天地、惨憺たり。 黒沢…

正岡子規『はて知らずの記』#31 八月十七日 湯田→黒沢尻

(正岡子規の『はて知らずの記』を紹介しています) 近国無比の勝地なり。十七日の朝は、 枕上の塒の中より 声高かく明けはじめぬ。 半ば、腕車の力を借りて ひたすらに、…

正岡子規『はて知らずの記』#30 八月十六日 大曲→湯田

(正岡子規の『はて知らずの記』を紹介しています) 山へ入り、温泉場の台所で寝る。十六日、六郷より 岩手への新道を辿る。 あやしき伏家に やうやう、午餉したためて 山…

正岡子規『はて知らずの記』#29 八月十五日 秋田→大曲

(正岡子規の『はて知らずの記』を紹介しています) ほとんど人力車で南東へ。十五日、秋田を発す。 御所野のほとり、縄手、 松、高うして 満地の清陰、 涼風、洗ふが如し…

正岡子規『はて知らずの記』#28 八月十四日 一日市→秋田

(正岡子規の『はて知らずの記』を紹介しています) 湖を眺めて、引き返す。十四日、庭前を見れば、 始めて 蕗葉の大なるを知る。 宿を出で、 北する事、一二里、 盲鼻に…

正岡子規『はて知らずの記』#27 八月十三日 道川→秋田→一日市

(正岡子規の『はて知らずの記』を紹介しています) 秋田を通過し、八郎潟(当時は湖)を見る。十三日、行脚の足をいたはりて、 馬車にて秋田に着く。 再び人力車にて、大…

正岡子規『はて知らずの記』#26 八月十二日 本荘→道川

(正岡子規の『はて知らずの記』を紹介しています) 熱い。痛い。早めに投宿。十二日、朝市の中を過ぎて 出で立つ。 生肴、焼肴、野菜、果物など 路のべにならべて、 婦人…

正岡子規『はて知らずの記』#25 八月十一日 大須郷→本荘

(正岡子規の『はて知らずの記』を紹介しています) 夜まで歩き、宿が見つからない。十一日、塩越村を経。 象潟は昔の姿にあらず。 塩越の松は、いかがしたりけん、 いた…

正岡子規『はて知らずの記』#24 八月十日 酒田→大須郷

(正岡子規の『はて知らずの記』を紹介しています) 山を見て進み、海岸に出る。十日、下駄を捨てて、 草鞋を穿つ。 北に向ふて行くに、 鳥海山、正面に屹立して 谷々の白…

正岡子規『はて知らずの記』#23 八月九日 古口→清川→酒田

(正岡子規の『はて知らずの記』を紹介しています) 舟をおりて、酒田まで歩く。九日、早起、舟に上る。 暁霧濛々、 夜、未だ明けず。 古口より下、一二里の間、 山、険…

正岡子規『はて知らずの記』#22 八月八日 大石田→古口

(正岡子規の『はて知らずの記』を紹介しています) 最上川を舟で下る。途中で一泊。八日、川船にて最上川を下る。 此舟、 米穀を積みて、酒田に出だし 又、酒田より、塩…

正岡子規『はて知らずの記』#21 八月七日 楯岡→大石田

(正岡子規の『はて知らずの記』を紹介しています) 疲れて午後休。七日、晴れて熱し。 殊に、前日の疲れ、全く直らねば、 歩行困難を感ず。 三里の道を、半日にたどりて…

正岡子規『はて知らずの記』#20 八月六日 作並温泉→楯岡

(正岡子規の『はて知らずの記』を紹介しています) 奥羽山脈越え。歩く歩く歩く。夜まで。六日 晴。 山、深うして、 一歩は一歩より閑かに、 雲、近うして、 一目は一…

正岡子規『はて知らずの記』#19 八月五日 仙台→作並温泉

(正岡子規の『はて知らずの記』を紹介しています) 移動を再開。歩いて山の温泉へ。五日 南山閣を辞して、 出羽に向ふ。 留別 広瀬川に沿ふて遡る。 嶄巌、激湍、 涼気…

正岡子規『はて知らずの記』#34最終回 八月二十日 (汽車)→上野

正岡子規『はて知らずの記』#34最終回 八月二十日 (汽車)→上野

(正岡子規の『はて知らずの記』を紹介しています)

上野着。家に帰る。二十日は、白河の関にて
車窓より明け行く。
小雨、猶やまず。
正午、上野着。

 わが旅中を憶ふとて

 帰庵を祝ふとて

始めより、はてしらずの記と題す。
必ずしも、
海に入り、天に上るの
覚悟にも非らず。
三十日の旅路、恙なく
八郎潟を果として、
帰る目あては、終に
東都の一草庵をはなれず。
人生は、固より
はてしらずなる世

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正岡子規『はて知らずの記』#33 八月十九日 黒沢尻→水沢→(汽車)

正岡子規『はて知らずの記』#33 八月十九日 黒沢尻→水沢→(汽車)

(正岡子規の『はて知らずの記』を紹介しています)

公園に寄り、汽車で帰る。十九日、曇天。
小雨、折り折り来る。

午後の汽車にて
水沢に赴く。
当地、公園は町の南端にあり。
青森、仙台間、第一の公園なりとぞ。
桜、梅、桃、梨、
雑樹を栽う。
夜汽車に乗りて、
東京に向ふ。

水沢

公園(→水沢公園)

駒形神社の祭礼なりとて商人の用意頻りなり。(初出)

水沢午後八・二四発(全集第13巻)

正岡子規『はて知らずの記』#32 八月十八日 黒沢尻

正岡子規『はて知らずの記』#32 八月十八日 黒沢尻

(正岡子規の『はて知らずの記』を紹介しています)

宿にSTAY。十八日、旅宿に留まる。
けふは、七夕といふに、
風雨、烈しく吹きすさみて、
天地、惨憺たり。

黒沢尻(→岩手県北上市)

黒沢尻の宿は「伊勢屋」か。(全集第22巻)

正岡子規『はて知らずの記』#31 八月十七日 湯田→黒沢尻

正岡子規『はて知らずの記』#31 八月十七日 湯田→黒沢尻

(正岡子規の『はて知らずの記』を紹介しています)

近国無比の勝地なり。十七日の朝は、
枕上の塒の中より
声高かく明けはじめぬ。
半ば、腕車の力を借りて
ひたすらに、和賀川に従ふて下る。
ここより、
杉名畑に至る六七里の間、
山、迫りて、
河、急に、
樹、緑にして、
水、青し。
風光絶佳、
雅趣、掬すべく、
誠に、近国無比の勝地なり。
三里一直線の坦途を、一走りに
黒沢尻に達す。
家々の檐端には、

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正岡子規『はて知らずの記』#30 八月十六日 大曲→湯田

正岡子規『はて知らずの記』#30 八月十六日 大曲→湯田

(正岡子規の『はて知らずの記』を紹介しています)

山へ入り、温泉場の台所で寝る。十六日、六郷より
岩手への新道を辿る。
あやしき伏家に
やうやう、午餉したためて
山を登ること一里余、
樵夫歌、馬の嘶き、
遙かの麓になりて、頂に達す。
神宮寺、大曲りを中にして
一望の平野、眼の下にあり。
山腹に沿ふて行くに
四方、
山、高く、
谷、深くして、
一軒の藁屋だに見えず。
処々に、
数百の牛のむれをちら

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正岡子規『はて知らずの記』#29 八月十五日 秋田→大曲

正岡子規『はて知らずの記』#29 八月十五日 秋田→大曲

(正岡子規の『はて知らずの記』を紹介しています)

ほとんど人力車で南東へ。十五日、秋田を発す。
御所野のほとり、縄手、
松、高うして
満地の清陰、
涼風、洗ふが如し。
鳥海山、復、
南の方、正面に屹峙す。
戸島より人車を駆る。
夕月、ほのかに
神宮寺山の頂に見ゆる頃、
玉川に架けたる
数町の長橋を渡りて、
大曲に宿る。

秋田

御所野

鳥海山

戸島

神宮寺山(→神宮寺岳か)

玉川に架け

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正岡子規『はて知らずの記』#28 八月十四日 一日市→秋田

正岡子規『はて知らずの記』#28 八月十四日 一日市→秋田

(正岡子規の『はて知らずの記』を紹介しています)

湖を眺めて、引き返す。十四日、庭前を見れば、
始めて
蕗葉の大なるを知る。
宿を出で、
北する事、一二里、
盲鼻に至る。
丘上に登りて
八郎湖を見るに、
四方、山、低う囲んで
細波、渺々、
唯、寒風山の屹立する、あるのみ。
三ッ四ッ、棹さし行く筏、
静かにして、
心遠く、
思ひ、幽かなり。

八郎につきて口碑あり。
大蛇の名なり、とぞ。
引き返し

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正岡子規『はて知らずの記』#27 八月十三日 道川→秋田→一日市

正岡子規『はて知らずの記』#27 八月十三日 道川→秋田→一日市

(正岡子規の『はて知らずの記』を紹介しています)

秋田を通過し、八郎潟(当時は湖)を見る。十三日、行脚の足をいたはりて、
馬車にて秋田に着く。
再び人力車にて、大久保に赴く。
車を下りて、ありけば、
八郎潟、眼前に横はりて、
海の如し。
北の方は、
山脈、断続、
恰も、島のならびたらんやうに見え、
西の方は、
本山、真山、
高く聳えて、
右に少し離れたるは、
寒風山なり。
夕日は傾きて
本山の上

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正岡子規『はて知らずの記』#26 八月十二日 本荘→道川

正岡子規『はて知らずの記』#26 八月十二日 本荘→道川

(正岡子規の『はて知らずの記』を紹介しています)

熱い。痛い。早めに投宿。十二日、朝市の中を過ぎて
出で立つ。
生肴、焼肴、野菜、果物など
路のべにならべて、
婦人、そを鬻ぐなり。

初秋の天、
炎威、未だをさまらず、
熱さは熱し。
昨夜の旅草臥、猶いえずして、
足のうら、
痛さは痛し。
熱さと痛さとに攻められて、
ここが風流なり。
六里の道、
やうやう道川にたどり着きて、
日、猶高きに、
宿り

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正岡子規『はて知らずの記』#25 八月十一日 大須郷→本荘

正岡子規『はて知らずの記』#25 八月十一日 大須郷→本荘

(正岡子規の『はて知らずの記』を紹介しています)

夜まで歩き、宿が見つからない。十一日、塩越村を経。
象潟は昔の姿にあらず。
塩越の松は、いかがしたりけん、
いたづらに過ぎて、善くも究めず。
金浦、平沢を後にして、
徒歩に堪へねば、
しばし、路傍の社殿を借りて眠る。
覚めて、又、行くに、
今は苦しさに息をきらして、
木陰のみ恋はし。

丘陵の上、
野薔薇、多く生ひて、
赤き実を生ず。
道行く人、

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正岡子規『はて知らずの記』#24 八月十日 酒田→大須郷

正岡子規『はて知らずの記』#24 八月十日 酒田→大須郷

(正岡子規の『はて知らずの記』を紹介しています)

山を見て進み、海岸に出る。十日、下駄を捨てて、
草鞋を穿つ。
北に向ふて行くに、
鳥海山、正面に屹立して
谷々の白雲、
世上の炎熱を知らぬさまなり。

荒瀬、遊佐を過ぎ、
松原のはなれ家に小憩す。

家々の振舞水に
渇を医しながら
一里余り行けば、
忽然として、海岸に出づ。
一望、豁然として
心はるかに
白帆と共に飛ぶ。
一塊の飛島を除きては

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正岡子規『はて知らずの記』#23 八月九日 古口→清川→酒田

正岡子規『はて知らずの記』#23 八月九日 古口→清川→酒田

(正岡子規の『はて知らずの記』を紹介しています)

舟をおりて、酒田まで歩く。九日、早起、舟に上る。
暁霧濛々、
夜、未だ明けず。

古口より下、一二里の間、
山、険にして、
水、急なり。
雲霧繚繞して、
翠色、模糊たるのあはひあはひより
落つる幾条の小瀑、
隠現出没、
其数を知らず。
而して、小舟
駛する事、矢の如く、
一瞬一景、
備さに、其変態を極む。
曽て、舟して木曽川を下る、
潜かに、以て

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正岡子規『はて知らずの記』#22 八月八日 大石田→古口

正岡子規『はて知らずの記』#22 八月八日 大石田→古口

(正岡子規の『はて知らずの記』を紹介しています)

最上川を舟で下る。途中で一泊。八日、川船にて最上川を下る。
此舟、
米穀を積みて、酒田に出だし
又、酒田より、塩乾魚を積み、帰るなり。
下る時、風、順なれば
十八里、一日に達し、
上る時、風、悪しければ
五日六日をも費す、といふ。
乗合ひ十余人、
多くは商人にして、
結髪の人、亦、少からず。

舟、大石田を発すれば、
両岸、漸く走りて、
杉深き木

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正岡子規『はて知らずの記』#21 八月七日 楯岡→大石田

正岡子規『はて知らずの記』#21 八月七日 楯岡→大石田

(正岡子規の『はて知らずの記』を紹介しています)

疲れて午後休。七日、晴れて熱し。
殊に、前日の疲れ、全く直らねば、
歩行困難を感ず。

三里の道を、半日にたどりて、
やうやう大石田に着きしは、
正午の頃なり。
最上川に沿ふたる一村落にして、
昔より、川船の出し場と見えたり。
船便は朝なり、といふに、
ここに宿る。

大石田

⇒大原恒徳(自宅へ十円の送金願い。朝、楯岡から発信)(全集第22巻)

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正岡子規『はて知らずの記』#20 八月六日 作並温泉→楯岡

正岡子規『はて知らずの記』#20 八月六日 作並温泉→楯岡

(正岡子規の『はて知らずの記』を紹介しています)

奥羽山脈越え。歩く歩く歩く。夜まで。六日 晴。

山、深うして、
一歩は一歩より閑かに、
雲、近うして、
一目は一目より涼しげなり。
蝉の声、いつしか耳に遠く、
一鳥、朝日を負ふて
山より山に、啼きうつる、
樵夫の歌、かすかに、其奥に聞えたり。
さすがの広瀬川、細り細りて、
今は、盃をも浮かべつべき有様なるに、
処々に、白き滝の、緑樹を漏れたるも

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正岡子規『はて知らずの記』#19 八月五日 仙台→作並温泉

正岡子規『はて知らずの記』#19 八月五日 仙台→作並温泉

(正岡子規の『はて知らずの記』を紹介しています)

移動を再開。歩いて山の温泉へ。五日 南山閣を辞して、
出羽に向ふ。
留別

広瀬川に沿ふて遡る。
嶄巌、激湍、
涼気、衣に満つ。
橋を渡りて、愛子の村を行く。
路傍の瞿麦、雅趣、めづべし。
野川橋を渡りて、
やうやうに山路深く入れば、
峰巒、形、奇にして、
雲霧のけしき、亦、ただならず。

作並温泉に投宿す。
家は山の底にありて、
翠色、窓間に滴

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