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正岡子規『はて知らずの記』#27 八月十三日 道川→秋田→一日市

(正岡子規の『はて知らずの記』を紹介しています)

秋田を通過し、八郎潟(当時は湖)を見る。


十三日、行脚の足をいたはりて、
馬車にて秋田に着く。
再び人力車にて、大久保に赴く。
車を下りて、ありけば、
八郎潟、眼前に横はりて、
海の如し。
北の方は、
山脈、断続、
恰も、島のならびたらんやうに見え、
西の方は、
本山真山
高く聳えて、
右に少し離れたるは、
寒風山なり。
夕日は傾きて
本山の上、二三間の処に
落ちたりと見るに、
一条の虹は、西方に現れたり。
不思議、と熟視するに
一条の円虹、
僅に、両欠片を認むるのみにて、
其外は、淡雲、掩ひ重なりて、
何事も見えざりき。
こは、普通の虹にはあらで
「ハロ」となん呼ぶ者ならんを
我は始めて、ここに見たるなり。
日暮れて、一日市に泊す。
僻地の孤村、
屋室の美、魚介の鮮、なけれども、
まめやかに、もてなしたるは、
うれし。


秋田

大久保

八郎潟(→秋田県南秋田郡大潟村)

本山

真山

寒風山

一日市(→秋田県南秋田郡八郎潟町。読みは「ひといち」)

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