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七屋 糸
2020年4月23日 11:52
「遅くなっちゃったし、今日はコンビニご飯にしよっか」彼がそう言って上着を着ていた。季節は春、しかし外は肌を刺すような寒さで、買ったばかりの春コートは活躍する場を失いつつあった。わたしも彼にならって上着を羽織り、スマホ1つだけ持って家を出る。今は電子決済サービス戦国時代、カードがたんまり入ったお財布を持ち歩かなくても買い物ができる。便利な時代だ。彼と繋いだのとは反対の手をポケットに突
2019年12月26日 16:27
クリスマスをテーマにした短編小説です。2〜3分程度で読めます。以下本編です。✳︎ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー朝起きると、ベッドサイドに見覚えのある箱が置かれていた。サンタクロースかな、と考えて自分の歳を思い出す。私は29歳。サンタさんはとっくに卒業したはずだ。黒いベルベット張りで重厚感のある小箱。光り物が入っているかは明らかだった。私はベッドから起きだし、軽く体
2019年12月17日 16:34
前編はこちらから。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーごめん、前置きが長くなったね。三年生になった春、私は学年が一つ上がったくらいで何も変わらないって思ってたんだけど、一つだけ変わったの。それまで部活の顧問だった先生が産休に入って、別の先生に変わった。前の先生はみんなから「ひろこちゃん」なんて呼ばれてるようなゆるーい人で、部活も対して熱心にやってなかった。まだ若いから押し付けられて
2018年7月3日 15:06
旅の始まりは、いつも彼の言葉だ。「今度の休み、釣りに行こうと思って」一人で、という意味ではない。二人で行こう、という意味だ。彼の誘い方は少し曖昧で、少し自信なさげ。前日の夜に海を訪ね、早朝から釣竿を持って繰り出した。しかし結果はまずまずの惨敗。聞くところでは釣り糸を垂らせばたちまち魚がかかるということだったのだが、私は小魚を一匹、彼は四匹釣ったきりだった。彼は少しばかり肩を落と