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【短編】プレゼントはいりません。

クリスマスをテーマにした短編小説です。

2〜3分程度で読めます。
以下本編です。


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朝起きると、ベッドサイドに見覚えのある箱が置かれていた。

サンタクロースかな、と考えて自分の歳を思い出す。私は29歳。サンタさんはとっくに卒業したはずだ。

黒いベルベット張りで重厚感のある小箱。光り物が入っているかは明らかだった。

私はベッドから起きだし、軽く体をほぐしてからリビングへ出た。パンを焼く良い匂いが鼻腔をくすぐって、お腹がぐうと鳴いた。

「あ、都ちゃん、おはよう」

真琴が台所に立っていた。手元のフライパンに目玉焼きがこんがり焼けていて、実に美味しそうだ。

朝ごはんができるのに合わせてコーヒーを淹れよう。そう動いてから、聞くべきことがあったのを思い出した。

「ねぇ、あのベッドサイドのなに?」

「ベッドサイドってなんのこと? サンタさんじゃない?」

真琴はわざとらしく首をかしげる。彼は嘘が下手だ。やはりあの小箱は真琴かららしい。

中身は開けなくてもわかる。指輪だ。

コーヒー豆をがりがりと挽きながら、つい先日のことを思い出す。真琴からの、二度目の結婚の申し込みを断った夜のことだ。

一度目は私の誕生日、夜景の見えるレストラン。ベタベタな場所で開かれた小箱には、私好みのシンプルだけど繊細な指輪。その美しさには一瞬クラっときたけど、申し込みはぴしゃりと断る。

私はまだ仕事が忙しかったし、将来の夢もある。まだ早いと思ってお断りした。真琴はしばらく落ち込んでいたけど、いつの間にか普段の調子に戻っていた。

そして二度目の結婚を申し込みされた日。今度は二人が付き合って5年目の記念日だ。仕事で遅くなって帰ると、明らかにパーティー用に装飾された部屋が待っていた。

二人であらかた食事やちょっと値段のはるシャンパンを楽しむと、あの時と同じ指輪が目の前に差し出された。今度は少し迷ったけど、同じように断る。酔いに任せて誤魔化していたけど、真琴はおそらく落ち込んでいた。

そして今日はクリスマス、ベッドサイドに置かれた同じ指輪。趣向を変えたプロポーズかと思ったけど、シラを切ろうとするのを見る限りそうではないらしい。

私はマグカップを用意しながら真琴に聞く。

「サンタさんはどうしてこの指輪くれたのかなぁ」

「きっと都ちゃんが光り物が好きだからだよ」

「でもデザインがすっごく私好みなの」

「ほんとに? やっぱりそうだと思ったんだ!」

真琴は「あ、」とバツの悪そうな顔をして黙る。

「プロポーズ断っておいて、もらえないよ」

「そういうと思ったから今日にしたんだ。僕は君を困らせたかったんじゃなくて、君に喜んでもらいたくて選んだんだから」

真琴は朝ごはんの用意をするフリして、ほとんど無駄に手を動かしているだけだ。きっと真剣に話してくれているんだろう。

それに指輪だって、それなりに値段のはる代物だろう。真面目な真琴のことだから、きっちり給料三ヶ月分かもしれない。それなのにクリスマスにプレゼントしてしまうなんて。

本当に、あなたという人は。

「ねぇ、サンタさんに言っておいて。指輪は嬉しいけど、いりませんって」

「どうして?」

「この指輪は貰うのは、次のプロポーズの時って決めてるから」

私がウィンクして答えると、真琴はぽかんとした顔からみるみる笑顔になっていく。さすがに気がついたのね。

だってもう応えないわけにはいかない。あなた以上のサンタクロースなんて、この世にいないから。



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お読み頂きありがとうございました!

本当はクリスマスの日にUPする予定だったんですが、大遅刻してしまいました。

皆さんのところにはサンタさんは来ましたか?

私のところにはクロネコさんの変装をしたサンタさんが来ました。わーい。

生まれてはじめてスマートウォッチを持ったんですが、活用するのが難しい。今のところは万歩計としてしか使えていません。

少しずつ使いこなせるように勉強しよっと。


良いクリスマスを✳︎


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